静臨逢瀬@ホテル
「なぁ」
と
平和島静雄が煙草を灰皿に押し潰しながら
珍しく自分から折原臨也に声を掛ける
「なんか目ぇ冴えちまった。お前ナンか喋れノミ蟲。」
既に心地良く
眠りの淵へと落ちかけていた折原臨也を
苛立たせるのにそれは十分過ぎる言葉と態度
「はぁ?何言ってんのシズちゃん」
俺大体もう眠るトコなんだよね
て言うかもう眠りかけてたんだから
「ソレを起こして何その態度。偉そう過ぎると思わない?」
俺もう寝るから
オヤスミとワザと頭まで布団を引き揚げて
くるりと向けられた背中を
静雄の足がチョイと蹴る
「痛った!ちょっと何すんだよこの馬鹿力っつ!!」
完全に頭にきた折原臨也が
がばりと布団の上に起き上がって怒鳴ると
枕の上で自分の腕を頭に敷いた平和島静雄はけろりと
「だから言ってんだろ。眠れねーって。喋れ、ナンか。」
と
さっきの言葉を繰り返す
「だからその態度と理屈がもう理解不可能なワケ俺には。」
「そうか。仕方ねぇだろ眠くなんねぇんだから。」
「何それ。俺が眠いとかどうでもいいわけ?」
「あぁ。どうでもいいな実際。」
「自己中の塊だよねていうかもう人間として最低だよね。
大体、思いやりって意識を失ったらもうソレ人間じゃないし。」
「手前が言うと、悪い冗談にしか聞こえねぇ。」
「何言ってるのかなぁシズちゃん。俺程人間を愛してる男は居ないよ?」
「最低な冗談だな。」
「って言うか、人の話聞く時はコッチ見たら?
ぼけーっつと天井見てる人間に喋っても意味無いよね。」
「手前と俺とで意味のある話なんぞあるのかよ?」
「まぁそれは・・・無いけどね。っていうかソッチが喋れって
言ったんじゃなかったっけ?あれ俺の空耳なわけ、そうなの?」
「あぁ。喋れっつったんは俺だ。」
「だったら、ちゃんとコッチ見るべきだよね最低の礼儀として。」
「手前が『礼儀』とか言うと笑えるな。」
「俺は礼儀正しい男だと思うよ?言葉使いも丁寧だしさ。」
「嫌味と丁寧を間違ってねぇかお前。手前のは嫌味だ。」
「わぁ何それ。シズちゃんこそ言っていい事と悪い事の区別も
つかないクセによく言うよね。デリカシーの欠片も無いクセに。」
「デリカシー・・・?まぁそれは無ぇな。デリバリーのバイトは
やった事あるけどな。随分前に。1日でクビんなったけどな。」
「だろうね。っていうか結構バイト色々やったクチでしょシズちゃん。」
「まぁな。いっつも1日か、よくて数日でクビだった。」
「だよねぇ。きっと顔が無駄にイイから採用はされんだよねスグ。」
「無駄ってお前。まぁ顔かは知らねぇが採用は即決だったないつも。」
「だろ?特に面接官が女だったら一発OKだったんじゃないの?」
「言われたらそうかもな。あぁ、確かにそうだなそう言えば。」
「普通にホストクラブとかで仕事してそうだよねシズちゃんて。」
「はぁ?俺がか。」
「だって。弟君はアイドルだし。顔だけはいいよねシズちゃん家。」
「・・・オイ。今手前、何気にウチの家族馬鹿にしたろ。」
「してないよ。シズちゃんの耳が歪んでるんじゃない、っていうか」
やっとコッチ見たよね
と
折原臨也が起き上がった胸に
羽根枕を抱え込んでニッと笑って長期戦の構えを見せる
「しただろ。幽のことも思い切り。」
「やだなぁ。また出たよシズちゃんのブラコンが。」
「はぁ?!今更何言ってんだ。俺は自覚してる手前に言われる前にな。」
「あぁ・・・そう・・・。」
「その呆れたツラは何だ。手前が振ったんだろブラコンて。」
「そりゃ振ったさ。てっきり否定するかと思ってね。」
「するか。こっちはとっくに自覚してるぜ。ざまぁ!」
「ていうかさぁ、一般的には自慢するコトじゃないって解ってる?」
「何だ。手前にゃ関係ねぇだろノミ蟲。それに自慢してねぇ。」
「したじゃない、今。思い切りされたんですけど俺。」
「何だまたノミ蟲の嫉妬かよ。煩ぇな。」
「ちょっと。理論おかしいよね。何故そこで嫉妬とか出るわけ?」
「手前が面白くなさそうな顔してやがるからだろ。」
「俺が?ハッ、この顔は生まれつき。相変わらず眉目秀麗だろ?」
「日本語の意味解んねぇ。俺頭悪ィし。意味不明。」
「ホント、シズちゃんはもうちょっと勉強するべきだよね。」
「手前もなノミ蟲。」
「俺はこの溢れる知性を日々の生活で存分に活かしてるけど?」
「知性?ケッ、痴態の間違いじゃねぇのか?」
「・・・よくそんな難しい言葉知ってたねシズちゃん・・・。」
「あぁ知ってる。手前のさっきのアレが痴態だろ。」
「シズちゃんてさ。何気にセクハラ好きだよね。オヤジ的な。」
「そういう手前も淫乱のクセしてしれっとすんの止めろ。」
「会話が繋がってないんですけど。頭悪い会話だって気付いてよ?」
「あぁ手前と喋ってっとおかしくなんな確かに。」
「つか、その態度何?自分が言ったんだよね俺に喋れって?
だったら何で今そのこめかみに青筋立ててんのシズちゃん?」
「手前をぶっ殺してぇと思ってだノミ蟲。」
「へぇ。俺もだよ。珍しく意見が合ったよね?」
「だな?」
折原臨也が目の端で追う
ベッドサイドテーブルの上に放り出したナイフ
平和島静雄がチラと見る
ベッドサイドテーブル自体そのもの
『あぁもう面倒になってきた。アレで刺しちゃう?』
『掴んで振り回すには適当な大きさか?』
『でも刺したところで5mmだし。血は一応出るけど。』
『けど華奢で一瞬で壊れちまいそうだけどな。』
一瞬
逸れた視線は
相手に戻る
そして出る
溜息
「って言うかさ。ココで暴れたらもう借りるホテル無くなるし。」
「はぁ?手前が高いホテル勝手に選ぶからだろうが?」
こんなんヤるにゃ
ラブホで十分なのによ
と
平和島静雄が煙草に手を伸ばす
「ヤだね。ラブホって煙草臭いじゃん。匂いつくの最低だよ。」
「どっちにしろ俺が吸うから一緒だろうが。馬鹿か。」
「解ってないなぁシズちゃん。ラブホとちゃんとしたホテルじゃ
全然匂いの染み付き度が違うんだよね。あと設備の清潔度。」
「んなモン一緒だろ。」
「一緒に思えるシズちゃんの感覚が異常だね。だからヤなんだよ。」
「一緒じゃねぇか。どっちもシーツは取り替えてあるんだしよ。」
「シーツさえ替えてあればいいわけ?!」
「だろ?他にナンかあんのかよ?」
「バスルームとかの清潔基準は無いわけ?!あと絨毯とか!」
「バスルーム?寧ろラブホの方が設備充実してんじゃんか色々と。」
「俺は清潔度の話をしてるんだよね、清潔度の。」
「同じじゃねぇのか?掃除するだろラブホだって。」
「っていうか、もうあの如何にも過ぎる設備がヤだと思わない?」
「いいじゃねぇか鏡天井だとか回転ベッドだとか。面白ぇし。」
「子供?!回転ベッドで喜ぶのって子供くらいだよシズちゃん?」
「そうか?つぅか最近見ねぇな回転ベッド。」
「フーン。最近も色々とリサーチしてるってコト、それ?」
「あぁ?手前がラブホに行かねぇからだろ何言ってやがんだ。」
「・・・え、」
それは
最近はお前としかしてないと
言外にそういう事を言われたのかと
折原臨也は一瞬だけ考える
そして
ほんの数秒
口元が緩むのを
相手に見せまいとして