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無自覚視線

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ダンッ、と鈍い音を立ててボールがエンドラインの上を勢い良く跳ねたのを確認してボールから視線をはずす。その瞬間、影山は気づいた。
また、だ。

最近、谷地さんとよく目が合う。気がする。
影山はバレーをしているとき以外、他人の視線に気づかない自覚があった。見られている気がしてそちらを向くなんてことはあり得ない。
目が合ってしまえばさすがに気づくけれど、目が合ったとしても特別気にしたことはない。会釈したり無視したり、なにもしなかったり。
しかし、最近はよく目が合う谷地にどう振る舞っていいのかわからなかった。他の人への対応と同じでいいはずなのに、いざ目が合うとどうしていいかわからなくなって目が合った瞬間にフイと反らしてしまう。それでもまた、何度も繰り返すように目が合うのだ。
谷地と同じ空間にいるのは部活だけなのに、会話をしているとき以外でも多い日であれば20回は超えるほどに。
体育館の隅で身体をほぐしながら休んでいれば日向が目の前に現れた。

「お前、最近調子いいよな。なんかあったのか?」

調子を上げる方法でもあれば教えてくれと言わんばかりにジッと睨み付けてくる日向の勢いに、影山は見上げて首を傾げた。
言われてみれば、最近調子が良いように思える。けれど、特別なにかがあったとは思っていない。

「別に――」
「あ、日向と影山、丁度いいところに」

手を振りながら近づく山口に視線を移せば、後ろに月島がいることに気づく。

「こないだチケットもらった試合、観に行くよね。どこかで待ち合わせて一緒に行く?」

先日、バレー部に所属している中高生を対象に配布された実業団の試合観戦のチケットだった。監督の鳥養もせっかくだからと部活を休みにしたのは記憶に新しい。影山にとって部活がなくなって残念だった反面、プロのプレーが見られるのは楽しみだった。
それに、終わったあとに体育館に来ても良いだろうし。

「山口と月島は一緒に行くのか?」
「うん、だから二人もどうかなって思って」
「どうせ君ら二人じゃたどり着けないだろうし、着いたとしても会場で周りに迷惑掛けまくるでしょ」
「あぁ?」

月島の物言いに、反射的に声を上げる。影山が睨み付ければ、見下し返してくる月島。

「事実デショ? 日向は合宿で――」

いつものように嫌味を並べ立てようとする月島の言葉を意識の外に、向こう側に谷地を見つけた。あ、と声を上げる。清水と楽しそうに話している彼女に、日向との会話を思い出した。

最近、起こること。

「そういえば、最近なんか谷地さんと目がよく合うようになった」
「は?」

不機嫌そうな声を上げた月島に、そういえばなにか話してたかと思い出すが、気にせずに続けた。

「日向、さっきの最近の話」
「へっ? 最近調子いいってやつ?」
「別にカンケーねぇけど、最近増えた」

本当に多くなったと伝えれば、日向と山口は不思議そうな声を漏らす。

「すげぇな、そんな偶然あるんだなー」
「そんなに谷地さんって目が合う方だっけ……?」

俺だって不思議だ。言い返そうとしたところで、試合観戦の話をしていたことを思い出す。

「つか、プロの試合に谷地さんは誘わねぇのか?」

あのチケット、マネージャーももらってたはず。

「誘うに決まってんだろ!」
「なんで日向が決めてんの? 誘うことに異論はないけど」
「というか、王様、どんだけ好き勝手に発言しちゃってるわけ?」
「その言い方やめろ!」

騒がしい三人に声を飛ばして、ふと、様子を伺うように谷地に視線を向ければまた目が合った。気づいた彼女は、はにかむように笑う。
バ、と視線を外して逃げた。
何度繰り返しても、ずっと目を合わし続けることができなかった。


作品名:無自覚視線 作家名:すずしろ