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彗クロ 5

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 突如、音素によって細緻に編み上げられた球体状の光の籠が、怪物の巨体をすっぽりと包み込んだ。白い譜陣に幾重にも取り巻かれた怪物は、一切の動作を忘れて硬直している。まるで球体の中だけ時が止まっているかのように。
 音素の流動が風となり、荘厳な重奏を響かせる。金属製の細かな短冊を並べてかき乱すような、清水で紡いだ弦をかき鳴らすような、この世ならざる不可思議な音の重なりが瞬時に膨らみ、あっという間に弾け――
 ――次の瞬間にはもう、籠は収束して消え果てていた。内に捕らえた怪物の、膨大な質量、丸ごと。
 ……自然現象では絶対にあり得ない、非常識な籠を、あまりにも狙い澄ましたタイミングで築き上げた術者は何者か。事象の収束と同時に注意深く周囲を見回せば、それを悟ることもできたかもしれない。けれどレグルはそうしなかった。もっと重要なことが、確かめなければならないことが、あったからだ。
 だから振り返った。守りたかったものを。レグル自身がその手で、おそらくは水際で守り切れたであろうものを。
 あの不思議な歌声は、やんでいない。
 呼びかけるまでもなく、馬車の後尾、幌の陰から、赤髪の少年が現れる。その口元は歌声に合わせて動き、最後の小節をあっさりと歌い上げて、それきり閉じ結ばれた。
 硬質な翠のガラス玉がふたつぶ、レグルを見つめ返していた。

作品名:彗クロ 5 作家名:朝脱走犯