ガンダム 月の翅
第二章~Inspire~
ヤーパンアルプス、地球図極東にあるヤーパン列島の中部に位置する山脈である。元は北アルプス、中央アルプス、南アルプスと分かれていたが地震、噴火、隆起を繰り返し千年以上の歳月をかけて一体化した。その山脈の北部、かつて劔岳と呼ばれていた山岳、の中腹にある洞窟の中―――――――
「そろそろ戻ってくる頃だな」
「ああ」
「俺たちいつまでここにいるんだよ」
「さあな」
「そろそろ太陽を拝みてえよ」
「今拝んでも目が潰れるだけだ」
洞窟の中といっても『彼ら』はかなり奥部にいる。生半可に隠れいてはいつ見つかってもおかしくはないからだ。
「ただいま・・・」
少女というには大人びているが女性というには未成熟な女がどこからか戻ってきた。あどけなさを残しているその彼女はレイといった。
「収穫は、無しか…」
戻ってきたレイの様子からも言葉はいらなかった。しばらくの沈黙が続いた。
「ねぇ…もう外へ出ない?」
静寂はレイによって破られた。彼女は今まで抑えていたものを露にした。
「最初はあたしもまだ子供だったし、みんなもいたから戦えたよ?でも…あの日、みんな…みんなっ…」
そのままレイは泣き崩れ哀鳴が洞窟内に響いた。
「どうして!?どうしてあの日仕掛けたの!?ねぇどうして!?仕掛けなければみんな死ななかったのに!それにショウだって……ねぇ、そう思うでしょ……ねぇってば!」
パンタは胸ぐらを掴まれていた。レイの瞳を見つめ、一息つき、胸ぐらを掴まれたままヴィンセントの方を見た。
「ということだぜヴィンセント…あんたあの日、仕掛ける前にいってたよな、『遂に来た』ってよ。でも何もなかった。一体何を待ってたのか知らねえけどさ・・・なんだったんだ?」
パンタの脳裏には三年前の光景が、インダストリア強襲時の熱、におい、虚無が焼き付いていた。その思惟が言葉からも微かに滲み出ていた。
「あたしね…もう自由になろうって思うんだ…、こんな生活続けてたらさ、嫌でも感じる……もう進めないって、あたし達に明日はないって」
彼らのいる場所が洞窟の奥部ではあるが五人ばかりの人間が羽を伸ばせるくらいの余裕はあった。しかし、彼らが背負った十字架と太陽からの恵みを完全に遮断した閉鎖空間のおかげで、翅は伸ばすどころか掴まれ、捥ぎ取られ、翔ぶことは困難になっていた。
「だからさ…みんなで楽になろう、ね?」
「今何時だ?」
脈絡のなさすぎるザッパの返事にレイは唖然とし、パンタは「17時」と答えた。
「よかったな…最期の夜が来る」