ガンダム 月の翅
砂漠の中を全長60メートルほどの蠍のような物体が這っていた。
「ったく、なんでこんなあっついとこで時間かけなきゃなんないんだよ」メイはイライラしていた。
「まぁまぁ、しょうがないじゃぁないですかぁ!」
アラウダがメイをなだめようとするも
「くっつくな!ただでさえ暑いんだから!」と一蹴した。もちろん彼女らはこの蠍に乗っているわけで、この蠍のような物体はアラクーダと同じスリチュアン内蔵小型飛行艇でアドネスクといった。
「500年ぶりだからぁ?の割には自信満々だったじゃねーかあんのヤロー!」
アドネスクの飛行系統が故障し灼熱の大地を歩く羽目になった。といっても飛行艇の脚で歩くのでそれなりの速さはあるのだが。何も最初から壊れていたわけではなく太平洋を過ぎたあたりから出力が落ち、大陸に緩やかに足をつける形になったのだ。
「えーっと・・・ここはまだモンゴルぅ?」
今現在アドネスクが歩いている場所は地名はモンゴルだがかつては、地球上に国境があった時代では中国と呼ばれていた地域である。人口の増加、貧富の格差、人為的な環境・大気汚染、数々の重荷に耐えられなくなった中国は崩壊。結果的に、北部をモンゴル、中央部をウイグル、南部がチベット国となり、それから数世紀も経てば中国という名前が風化し跡形も無くなるのは至極当然だろう。
「しっかしほんっとなんっにもないじゃない。蟻塚みたいなのがちらほらしてるけどさ」
中国崩壊以降大気・土壌の浄化のために一度更地にし人口的に環境の回復を図るも超自然的気候変動により旧中国地域一帯は砂漠化していた。そのため人々は地中に移り住み生活を始め、先ほどの蟻塚みたいなものは地中にコロニーがあるせいだった。
「っついあっついあっついあっっっつい!!!」
「そう暑い暑い言わないで下さいよぉ、外出たらこんなもんじゃないんですからぁ」
アキラはうんざりしていた。
「マニさんも何か言って…はぁ」
マニ・クルバルカは瞑想にふけっていた。
「おはようごさいます」
一室で睡眠をとっていたシルルが暑さで起きてきた。彼女はネオ・カンブリア、アベニールの側近だがアベニールの命でチベット班に同行していた。先ほどのメイのアベニールへの御言葉は聞こえていなかった。
「あ、お、おはようございます!」≪こんな人だったんだ…≫
シルルは普段、いかにもな民族衣装、金の刺繍の入った青いドレスに臙脂色のベストを纏っており、さらには深くスカーフを被っていたので全身像を見ることはなかった。今は砂漠の真っただ中にいるせいで黒のタンクトップにパンツと非常にラフな格好をしており殆ど露わになっていた。