ガンダム 月の翅
揺れがおさまり辺りが物静かになった。耳をすますと微かに足音が聞こえてきた。一歩、また一歩と次第に音が大きくなる。
「アイツが向かいました!気をつけて!」
フィリアスは手元の通信機のボリュームを慌てて絞り、物音をたてぬよう物陰に隠れる。
「ここかぁっ!隠れさせん!」
ベジェル・ウル・コーマが声を荒げながらフィリアスのいる部屋にたどり着いた。途端、彼は真ん中の円柱に駆け寄り、足元の肉塊を確認した。
「こ、これは・・・・・どこの誰だか知らんが代わりにぶち込んでやる!!」
「すまない!扱いがわからずやってしまった!私をどうしてもいい」
フィリアスは両手を挙げベジェルの前に姿をさらけだした。
「ただ一つ教えて欲しい!ここは何なんだ!」
ベジェルは出会い頭にまくし立てられ勢いを削がれた。
「こ、ここは…いや、お前が知ったって」
「インダストリアだろう?」
「………どこまで知っている?」
ベジェルの眼つきが鋭くなった。
「今見たところまでだ、」
「・・・私はここの番人だ、アドミニストレーターだ。ここはこれからの人間を生み出している」
「これからの…?」
「地球以外の太陽系惑星に住む人間の殆どは居住ブロックを設けそこで暮らしている。たまに住めるように環境を作り変えることもある。
でもどちらにしてもコストがかかる。
しかし人間が、人間自体がこの地球上のように大地に立って生きる事が出来たら?」
「・・・・なるほど…作り出すか、作り変えているように見えるがな」
「ゼロから作るわけじゃない。重犯罪者や死刑囚、そして最下層の人間を素体とする」
「貴様らも大概だな」
「・・・恵まれないものを救済しているんだ…成功すればフロンティアに行けるんだ!素晴らしいじゃないか!!
人が暮らすために場を作っても永くは続かない。これからは自らを作り変えるんだ。本来の生き物に戻るんだ」
ベジェルの顔に影がかかった。
「そんな簡単にできるわけないだろう!」
「出来るようにするのが我々の使命だ!」
沈黙が続いた。フィリアスは先程から脳裏に何かが引っかかっていたが、
思い出した。
「・・・貴様らは…悪魔に手を出したんだな?」
インダストリアでは異変が起きていた。ドルドレイはアンナと通信回線をつないでいた。
『オセアニアにはヒノモトを向かわせました。開発区から緊急回線です、繋ぎます』
通信画面がアンナから開発区の女性に切り替わった。
『所長!プレアデスが突然光りだして・・・!』
「何っ!?光っただけか!?」
『今のところは・・・』