小さい君。子供のような君。
「そんなお前の様子に怯えたフェリシアーノちゃんまでヴェーヴェー泣き出しちまって、どうにも収集がつかなくなったんで本田がそこから離れた部屋に俺たちを引っ張って行って、どうぞお二人そこでごゆっくり!とか言いながら障子をスパーン!って閉めて…。そんで俺はお前がいくらやっても泣き止まないもんだから膝に抱いてずーっと撫でてやって、履いてたジーンズはお前の涙やらなんやらでべちょべちょで…」
羞恥なのか、怒りなのか、なんだかよくわからない感情が腹の底から込み上げてくる。酔ったわけでもないのに顔が熱い。握り締めた拳がぶるぶる震えた。
「そのうち泣きつかれたお前が寝ちゃったんで、本田に頼んで布団敷いてもらって…。翌朝になってみたらお前何にも覚えてなかったんで、本田とフェリシアーノちゃんと三人で、昨晩のことは誰にも口外せずに内密に…って、あ。」
しまった、という顔を兄がしたが、もう遅い。
俺はもうそういう兄の顔をまっすぐ見ることすらできなかった。
「俺が…そのように…子供のように…泣きじゃくった…だと…?」
「いいいいや、でも、見たの俺と本田とフェリシアーノちゃんだけだし」
「そのような醜態を…っ身内だけではなく他国の人間にまで…!」
「でもほら友達だろ!?ともだち!フランシスやアントーニョなんて酷いぜ、酔っ払ってトマト尻で押し潰した時なんて『うわああああロヴィーノが潰れてしもうたー!』とか言いながら号泣して」
「うわーーーー!」
耐え切れなくなった俺は二階まで駆け上がって自室に飛び込んだ。そのままベッドの上にダイブする。ただでさえ重い俺の体をいつもより激しく受け止めて、ベッドが悲鳴を上げたがそんなことを気にしていられる余裕はない。恥ずかしさと、今まで黙っていた兄やフェリシアーノや本田への憤りと、何より恥ずかしさと恥ずかしさと恥ずかしさで全身を掻き毟りたいような気分だった。
「おーい…。ルツー。ルートヴィヒー…」
突然駆け出した俺を心配してか、兄が控えめに部屋の扉を叩く音がした。
「そんな気にすることでもねえって…。わんわん泣くお前、お兄ちゃん的にはそう悪くなかったぜ。お前、ガキのころでもそんな風に泣くことなかったしな。本田だって、あの普段はキリっとしてしっかりしたルートヴィヒさんがあんなになるなんて、まるで子供のようで可愛らしかった、あ、これもギャップ萌えってやつですかね、とか何とか…」
兄さん。
あなたは俺を慰めたいのか。
それともトドメをさしたいのか。
俺はガバリと勢いよくベッドから起き上がると同じくらい勢いよく扉を開けた。急に開いた扉に兄は怯んだのか、うお、と声を上げて後ずさったが知ったことではない。
「するいぞ」
「は?」
兄がきょとん、とした顔をした。
「兄さんばかりが、俺の泣くところを見るなど、ずるい。俺も、兄さんが泣きじゃくるところを見なければ、フェアではない」
「そんなこと言われたって、あんな風に泣くなんてなかなかできねー…、って、うわ、何すんだ!」
俺は兄の手を引いてむりやり部屋の中に連れ込んだ。そしてそのままベッドの上に押し倒す。
「兄さんも泣いてくれ」
「ルツ!お前まさか…っ!…お前には頻繁に泣かされてるだろーが!何がフェアじゃない、だ!」
「生理的な涙ならよく見る。だが、子供のように泣きじゃくる姿など………まあ、二、三回ぐらいか」
「見てるじゃねーか!全く持ってフェアじゃねーか!!」
「今見たい。今日見たい。今夜見たい」
「待て待て、ルツ!俺は明日仕事、おいお前その道具今どっから出した!ルツマジでやばいって俺明日仕事だから朝早いしそれに跡ついちまうといろいろまずいおいまておちつけなんでもうお前そんなになってんのうわーーーー!!!」
翌朝、ギルベルトがどうなったか。
…仕事はきっちり、何も問題なくこなした。とだけ言っておく。
作品名:小さい君。子供のような君。 作家名:カムロ