アパートの年越し
うつらうつらと舟をこぎそうな瀬々から発せられた声に同意して、手嶋野もあくびをする。
「じゃ、明日起きたら初詣だな。行きたい神社とかあるか?」
「うーん、そもそもこの辺の神社知らない」
「そんなこったろうと思ったよ」
呆れた様子で手嶋野はスマフォに手を伸ばし、検索を掛ける。近所の神社を探すためにだ。
一方、瀬々はベッドの上を整えていた。
「お、この辺有名な神社あるじゃん」
「マジで?」
知らんかったと驚く瀬々の反応に手嶋野は驚くことはなかった。
起きて、参拝してから露店で焼きそばでも適当に買って食べれば良いか。瀬々の了承もとらずに手嶋野は翌日の予定を立てる。
「んじゃ、ベッドのじゃんけんする?」
「つか、ストーブなくてコタツだけで風邪引かねぇのか?」
「うーん、どうだろ。試したことないや」
へへっと笑う瀬々に、手嶋野は着てきたコートを引っ張り出すことを決める。自分がコタツになっても暖かいだろうし、瀬々がコタツになっても貸してやろう。
「あ、なんなら一緒にベッドで寝る?」
「は?」
コタツに半分身体を入れたまま、ずるずるとコートに手を伸ばしていたときだった。地面に這い蹲るような体勢から振り向く。
「や、布団ないから一緒に寝れば良いかな、って」
きょとんとした表情で言い放つ瀬々。手嶋野は深く深く息を吐いた。
「……あのな、どう考えても男二人って狭いに決まってるだろ」
「でも、人肌は暖かいって言うし」
「かわいーかわいー彼女でも捕まえてから言えっての」
吐き捨ててずるりとコートを手繰り寄せる。瀬々からチェッと舌打ちしたのが聞こえたのは気のせいってコトにしておく。
「じゃ、ジャンケンしよっか」
「おー」
真剣なジャンケンの音頭が冷えた部屋に響いた。