ゆめかうつつかされどそれはまぼろしか
さて、これはどうしたものか。アイクはひっそりと深呼吸をした。
戦況ははっきりいって好くない。チームを組んでいるマルスは平気だよ、と言うがとてもじゃないけれど平気に見えなかった。刃で切られた傷跡がやけに痛々しいのは、無駄に顔が整っているせいかと頭の隅っこで思う。
ちり、と空気が音を立てる。緊迫した気配の中でアイクはもう一度、さてこれは、と考えた。
ふ、と突然空気が揺れたので瞬時にそれを眼で追う。すぐに目の前に現れた存在に、足を踏ん張って、迫る剣を身体をのけぞらすことで回避して後ろに一歩跳んだ。
もう一度来る。と胸の中で呟いて、衝撃に備えるつもりでいたが、はっと気づくと相手は標的を変えて後ろに跳びマルスに剣を振りかざした。痛々しい傷の上に更に浅く赤が頬に走るのをアイクが認識すると同時に、マルスの身体が勢いを付けて戦場外へと吹き飛ぶ。何が起きたか分からずに、それでもアイクは身の危険を無意識に察知して相手と出来るだけ距離をとった。
(さて、これは本当にどうしたものか)
あまり思考するのは得意ではないアイクだけども、これは考えずにはいられない。
マルスを場外アウトさせたあの子供――トゥーンリンクがまさかここまで立ち回るとは。侮っていたと言ったら、そうなのだろう。外見判断と普段の性格を見ていると、まさか、としか思えなかった。しかしこの世界に呼ばれたのならそれなりの戦力なのだろうとは思っていたが、これは想像以上だった。
トゥーンは気配を読んでいるのか、マルスを吹き飛ばした後、深呼吸をしてゆっくりとアイクを振り返る。ちりちりと鳴る空気の音はやまない。これはトゥーンの放つ殺気、もしくは圧力だ。だけどそれはアイクの闘争心を良い意味で煽った。
アイクは、はっ、と息を短く吸い込んで足に力を入れてトゥーンへ真正面から向かって距離をつめて剣を振りかざした。それにトゥーンは剣を持っていないほうの手をアイクの顔の前に出し、踊るように人差し指で何かを描く。
(な、)
に、と思う前に突然突風がアイクに向かって吹き身体が後方へと飛ばされる。何とか持ちこたえたものの、再び構えを取ろうとした途端、激しい痛みが身体を襲い、そして浮遊感に襲われた。
作品名:ゆめかうつつかされどそれはまぼろしか 作家名:水乃