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ゆめかうつつかされどそれはまぼろしか

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「あ、眼が覚めたみたい」

酷い頭痛に眉を寄せながら身を起こしたアイクに向かってマルスが苦笑をこぼした。うわーここ結構深く切ってるね、とアイクの額に触れたマルスにアイクは、そう思うなら触らないでくれ、とやんわりと言葉を返した。しかしそういうマルスも切り傷がやけに多く、治療のあとが痛々しい。3日ほどできれいに完治するが、やはり見ていて気分のいいものではなかった。
ふと、聞きなれない言葉と控えめな少年声にアイクは視線を上げた。見慣れた姿は先ほどの戦場で見た姿とは少々違って、ただの少年に見えた。こうもがらりと雰囲気が変わるものか、とぼんやり考えているとトゥーンは言い難そうに口を開いた。喋る言葉はやはり聴きなれない言語だった。
そして深々と頭を下げられて、アイクは気の抜けた声を出してしまいマルスが小さく笑った。

「どういうことだ」
「んー……たぶん、風を呼んだことを謝ってるんだと思うよ」
「だからどういう、」
「リンクは風を呼べるん、です」
「……は?」

トゥーンとチームを組んでいたリュカが部屋の隅っこの方でぼそぼそと控えめな仕草で喋ってくれた。
風。風とはそのままの意味でいいのだろうか。というか風を呼ぶってなんだ、とアイクはぐるぐると思考しながら口を開けたままマジマジとトゥーンを見た。それにマルスが、アイク口開きすぎ、と苦笑しながら指摘する。

「あれ、もしかして聞いてなかった?」
「だからなにをだ」
「トゥーン、風を呼んじゃうんだよ」
「それは、魔導のようなものか」
「そう、なのかな?」

マルスが優しげにトゥーンに首をかしげると、トゥーンは声を出して途切れ途切れに答えるが、やはりアイクには何を言っているのか理解できなかった。しかしこちらの言っていることは通じているのはおかしな話だなとアイクは今更ながら思い、視線をリュカにずらした。リュカはとてとてとトゥーンに近づき、小さく相槌を返してアイクとマルスに向き直った。

「……ええ、と。生まれつきというか、決まってたことっていうか、たぶん魔導とは違う。だそう、です」

リュカもトゥーンと同じように途切れ途切れながら話し、マルスが、つまりはそういうことで引き分けになりました、と膝の打撲部分を摩りながら話を無理やりまとめた。

(そういえば、こいつは干渉をするのを嫌がるな。自分にもだが)

アイクはマルスを一瞥した後、そうか、とトゥーンに告げる。それでも何か言いたげに大きな猫目を瞬かせるものだから、アイクも一緒になってそうしているとマルスが、また一戦当たったらよろしく、とトゥーンに向かって言うので、アイクもその瞬きの意味を理解して、トゥーンの眼を見た。

「傷なら気にするな。肉を食えばすぐに治る」

そう言うとトゥーンはぱぁ、と顔を輝かして、何かを言い(リュカ曰く、ありがとうございました、だそうだ)小さく頭を下げた。
とてとて、とその場を後にする後姿を見ながら、アイクは先ほどの緊迫感を思い出した。
その後姿はどうみても、あの戦場に居たときの少年の後姿とは思えないほど、頼りなく、あどけなく、幼く感じた。




ゆめかうつつかされどそれはまぼろしか