二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あゆと当麻~命の光~

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
愛ある限り〜あゆと当麻〜

命の光


もう、駄目かも・・・。
何度目かの脱出に失敗した亜由美は力なく地面に転がった。
ここは自分の生まれたところではない。
戦って最後と言うときにいきなりここへ飛ばされてしまった。
戻ろうとしているのに何かに阻まれて戻れない。
ごろん、と仰向けになる。
見上げる空は快晴そのもの。
真っ青な当麻の空の色。
「ごめん・・・」
呟いて力なくまぶたを閉じる。
ここに閉じ込められてどれぐらいたっただろう?
もう時間の感覚などなかった。
閉じたまぶたの裏に当麻の顔が浮かぶ。
やはり、怒っている彼の顔。
こういう時ぐらい笑顔が浮かべばいいのにいつも浮かばない。
会いたい。
当麻の笑顔が見たい。
声が聞きたい。
抱きしめてもらいたい。
湧き上がる気持ち。
再びまぶたを開ける。
ふらつく体で立ちあがる。
約束したもの。守らなきゃ。
無け無しの力を集めてただ当麻の事を考える。
聞こえる。
当麻が自分を呼ぶ声が。
感覚を研ぎ澄ませる。
当麻の心の呼びかけにじっと耳をすませ、彼の存在をほとんど視力を失った目で捉える。
彼の命のきらめきが見える。
空の、宇宙の、真っ青なブルー。きらきら光る命の光。
それを目指して亜由美は最後の力を振り絞って飛んだ。

当麻の不機嫌は頂点に達していた。怒り狂うわけではないが、機嫌はまったくもってよろしくない。
家の誰もがもうまともに当麻に関われない。
仕事と役目をこなしていた亜由美が消息を立って三ヶ月になる。
あらゆる所を探した。
だが、頼みの綱の迦遊羅さえ亜由美の気配をたどることは出来なかった。
ただ、当麻は亜由美がまだ生きていることを確信していた。
彼女が死ねば自分の半身がいなくなったも同然。自分が平気でいられるわけがない。妙な核心だけが当麻を立たせていた。
必ず戻ってくる。そう信じていた。第一共に生きると約束したのだ。亜由美は基本的に約束を破らない。
朝、機械的に朝食をとる。自分が倒れては助けにも行けないから。それから学校へ行って、帰って夕食を取って風呂へ入って寝る。
機械的に生活を送る。ただ、心ではずっと亜由美の名を呼び続けていた。
そんな朝、突然亜由美がダイニングルームに姿をあらわした。
その姿を認めた当麻が亜由美の元へ飛んでいく。
力なく壁に体を預けながら亜由美は切れ切れに言葉を吐く。
「ただいま」
言うだけ言って倒れそうになる亜由美をすかさず当麻が抱きしめる。
「約束、破ってないよね?・・・生きてるし、当麻の元へ戻ってきたから・・・大丈夫だよね・・・?」
腕の中の亜由美が当麻を見上げて切れ切れに言う。
約束、とまた口を開きかけた亜由美に当麻の言葉がさえぎる。
「守った。ちゃんと守ったから。安心しろ」
よかった、亜由美はそう呟くと気を失った。
腕の中の亜由美の体はひどく冷たくて当麻は怯えた。
「ナスティ! 救急車を。いや、直接いったほうが早い。車を出してくれ!」

白い天井。かぎなれた消毒薬の匂い。
病室・・・。
視線を動かして傍らの人物を確かめる。
ぼんやりとしか分からぬのに誰だかはっきりわかる。
当麻。一番、大好きな人。
戻って来れた。
それだけでうれしくなる。
当麻は両手を組んでその上に額を乗せて顔を伏せていた。
手を伸ばしてそっと前髪に触れる。
その途端、当麻が顔を上げた。疲れきったひどい顔だ。見えない表情も手に取る様に分かる。
亜由美は悲しくなる。
「だい・・・?」
全部言い終わる前にああ、と当麻がかすれた声で答える。
お前は?と問われて亜由美も答えようとするが上手く声が出ない。
水、とだけ答える。
当麻が亜由美の体を起こし、水差しでほんの少し水を飲ませる。
口を湿らせてようやく亜由美が言う。
「体中の生命力がなくなったみたい。気力でふんばってるって感じ」
言葉のない様とは裏腹にうれしそうに笑う。
「お前・・・。こんなときにうれしそうにするなよ・・・」
痛々しいその姿に当麻はこみ上げてくる物をこらえる。
「だって・・・。うれしいから。当麻の顔また見れた・・・」
ささやくような声で告げる。
つっと真剣なまなざしに変わる。
「心配かけてごめんね・・・。こんな風になる前に帰るつもりだったんだけど・・・。
異次元に飛ばされて・・・今、いつなの?」
「六月」
当麻が亜由美の髪を撫でながら答える。
亜由美の目が見開く。
「ごめん・・・」
それだけ言って口をふさぐ。唇が震える。
飲まれる前はまだ春だった。ざっと数えて三ヶ月もいなかったことになる。
どれほど心配をかけてしまったのだろう。自分がほとほと嫌になる。
「いい。無事に帰ってきてくれたから」
そう言って当麻は優しい瞳で見つめる。いつもなら怒鳴り散らすはずの当麻なのに。
「ごめんね・・・ごめん。ごめんね・・・」
亜由美はただ謝る。
「いいから。先生呼んでもいいな?」
その言葉に亜由美はうなずく。
やってきた医者は開口一番雷を落とした。
「今までは怪我しようがなんだろうがだまっていたけれどね。今回はひどい。
体中ぼろぼろじゃないか。あやうく心停止に至るところだったのだからね。
仕事はドクターストップがかかったと思いなさい」
亜由美は申し訳なさそうにただ謝罪の言葉を口にした。
医者は去り際に言う。
「彼に重湯でもつくってもらいなさい」
亜由美がそれが一番好きだといっていたのを医者は知っていた。
何も喉が通らないときでもそれだけは口に出来たのだ。
以来、倒れて最初に口にするのは重湯に決まっていた。
亜由美はうれしそうに頷いた。
当麻が重湯を作って振り向いたとき亜由美は再び眠っていた。
湯のみを手にしながら当麻が眠る亜由美を見守る。
また一層やせ細っている。このままでは本当に死んでしまいそうで当麻は怖くなる。
体中傷だらけだと聞いている。どれも浅いものらしいが、亜由美の体に傷一つつくのは嫌だった。
どれぐらいそうしていただろうか、ふいに亜由美の目が開いた。
当麻の手に何かがあるのを認めて言う。
「それちょうだい」
言われて当麻がはっと我に返る。
作り直すと言うのを押しとどめて体を起こして無理やり手にしようとする。
湯のみを手にし様とした手がすっとすれ違う。視線がどことなく普通ではない。
当麻がいち早くそれに気付く。
「お前、目・・・」
うん、と頷く。
「でも、昔のド近眼に近いだけで、ちゃんとわかるのよ。これが当麻の目、お鼻、口」
いとおしそうに当麻の顔を指でなぞる。
「たぶん、元に戻ったらちゃんと見えるようになるから。心配しないで」
ね?と甘えたふりをして願う。
ずるい、と当麻は思う。
そんな風に言われたら何も言い返せない。
わかった、と短く答えてスプーンで冷えた重湯をすくって亜由美の口元へ運ぶ。
自分で食べれるというのをあえて制する。
「こんな冷えたの食べて美味いか?」
おいしそうに食べる亜由美を見て当麻が問う。
「だって当麻の想いがいっぱいつまってるからおいしいよ」
にこにこ微笑みながら亜由美は答える。
その答えに当麻の胸は切なくなる。
どれほどこの少女を想っているか思い知らされる。簡単には片付かない想いがある。自分たちがどんなに若くてもこれだけは変わらない。