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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~命の光~

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食べ終わらせて亜由美を横たわらせる。
「今度はプリンが食べたいな」
当麻の顔を見ながら亜由美は言う。
「わかった。あとで買ってきてやるから」
「ナスティの手作りがいい。ちゃんとお願いしてくれる?」
その言葉に当麻ははっとする。
「馬鹿あゆ。こう言うときだけ悪知恵をはたらかせるなよ」
きっとつきっきりだったのを察して自分を家に戻そうとしているのだ。
「悪知恵じゃないよ。いいかげん、ちゃんと家で休んだほうがいいし、それに学校だってあるじゃない」
「誰もいなくてホームシックにかからないと言えば帰ってやる」
その言葉に亜由美がしばし黙る。
今までどんな怪我をしようが体を壊そうが三日も経たないうちにホームシックにかかって退院しているのだ。
一人で戦いに赴いてばかりなのに普段は信じられないほどさみしがりやなのだ。
「大丈夫だよ。ここは完全看護なんだから。一人だって大丈夫だよー」
わざとはしゃぐように亜由美が言う。
「きっかり三秒は黙っていたな。嘘つくときはもう少し演技しろ」
その言葉に亜由美が口を尖らせる。
「学校ならまるまる一学期休んでいても俺なら大丈夫だし、出席日数にしても手を打ってあるから心配いらない。
それに簡易ベッドもあるし、食事も美味い。快適な生活を送らせてもらっているから帰るつもりはない。だいたい、お前、夜中にピーピー泣くだろうが」
夜中の病院でしくしく泣き声が聞こえ幽霊の仕業かとまで噂されたが、実際は亜由美がホームシックで泣いていたという話は看護婦の間で有名になっている。むろん、当麻達の耳にもしっかり入っている。
「泣かないもんっ」
亜由美の頬が膨らむ。笑いながら当麻はその頬をつつきながら言う。
「それにもうすぐナスティ達が来るはずだからわざわざ家に帰って言わなくてもいいんだ」
えっ?と亜由美が驚くと同時にドアをノックする音が聞こえた。亜由美が眠っている間に当麻が連絡をいれておいたのだ。
当麻がドアを開ける。
ナスティ、迦遊羅、征士が入ってくる。
彼らの姿をぼんやりながら認めた亜由美はなんとなく恥ずかしそうに布団を顔までひっぱる。
それを見た当麻がひきはがす。
「けち」
「けちとはなんだ。けちとは」
「けちはけちだもん」
いつもと変わらない痴話げんかにナスティ達が安堵の笑いをこぼす。
「あの・・・。心配かけてごめんなさい」
恥ずかしそうに亜由美が謝る。
「元気そうで良かったわ。何か欲しいものがあったら言って頂戴」
その言葉に当麻が口を開きかけて亜由美が慌てて体を起こすと口をふさぐ。
「別にいいっ。何か足りないものがあったら連絡するから」
当麻が亜由美の手を引っ剥がす。
「窒息させる気か?」
「ごめん」
亜由美がしゅんとうなだれる。
「死にそうになっても相変わらずだな」
征士が面白そうに言う。迦遊羅も面白そうに笑っている。
亜由美もそれにつられて小さく声を立てて笑う。
笑いが収まると亜由美は征士に頼む。
「当麻を家につれて帰ってくれない? このままだといじめられるから」
誰がいじめてるんだ、誰が、とぼやく当麻の言葉を無視する。
征士が首を振る。
「ここのところの当麻と来たら手負いの獣より手が終えなかった。しばらくここで預かってもらいたいな」
征士がほとほと疲れたというような顔をする。
「本当に・・・」
と迦遊羅も深深とため息をつく。
亜由美が驚いて当麻を見ると当麻は照れた様にふん、とそっぽを向く。
その様子に自分がいなかった間のナスティ家の様子がわかったような気がしてしかたなく頷く。
「また明日、来るわね」
そう言ってナスティ達が短い面会を終えて帰る。ナスティ達を送った当麻が部屋に戻る。
そしていつものようにベッドの脇の椅子に腰掛ける。
「いいかげん、寝ろよ。さっきから起きたり騒いだりして疲れてるだろうから」
今だ体を起こしていた亜由美を寝かしつける。
「もっとおしゃべりしてたいのに・・・」
そう言う亜由美に当麻はだめ、と強く言う。
「ずっと入院してるつもりなら存分にしゃべれ」
その言葉に亜由美がまた口を尖らせる。
「・・・わかった。寝て起きたらまた相手してくれる?」
亜由美の言葉に当麻が頷く。
亜由美はそれを見て今度は片手を差し出す。
「手つないでてもいい?」
顔を真っ赤にして甘える亜由美を当麻がいとおしそうにみつめる。
「わかった。ずっとついていてやるから寝ろ」
当麻が亜由美の手を握る。
安心したような顔をして亜由美は眠りに落ちていった。

ふっと亜由美は自分の手が強く握られたのを感じて目がさめる。
手を握ったまま当麻がベッドの上にうつぶせになって眠っている。
だが、その顔は苦しそうだ。手はいよいよ強く握られる。
そっと体を起こして当麻に声をかける。
「当麻? どうしたの? 大丈夫?」
空いた片手で当麻の肩をゆする。
当麻が目を覚まし体を起こす。頭を軽く振る。
「悪い夢なら言ったほうがいいよ?」
心配そうに亜由美が言う。
いや、と当麻が答える。
「言ってしまえば、本当になってしまうから」
ならないよ、と亜由美が言う。
「だって、正夢は人へ話すなって言うじゃない。だったら言ってしまえばきっと本当にならないよ」
亜由美が安心させる様に握っている手を上下させる。
当麻が深いため息をつく。
「広い・・・花畑にお前が倒れていて・・・。だけど、そこは血に染まっていて・・・必死に駆け寄って抱き起こして何度名前を呼んでも目を覚ましてくれなくて・・・お前の体が・・・だんだん冷たくなっていくんだ・・・」
消え入りそうな声で当麻が告げる。亜由美を見ていた当麻の顔はいつのまにかうつむいて唇をかみ締めていた。
恐ろしく生々しい夢。いつか本当になる気がして当麻はそら恐ろしくなる。
亜由美は手を振り解くと当麻を胸に抱きしめた。
驚いた当麻が身をひこうとするのを力の入らない手でぎゅっと抱きしめる。
「ね、聞こえる? 心臓の音。とくんとくん、って言ってるよね」
しかたなく亜由美の胸に頭を預ける形になった当麻が頷く。
「これが生きている証拠。私、生きてるよ。ちゃんとここに生きてる。
約束したよね? 一緒に生きようって。だから、私は死なない。殺されたって意地でも生きかえってやるから心配しないで」
亜由美が優しい声で当麻に語り掛ける。
「たぶんね、当麻の見た夢はかつて起こり得た可能性の一つ。でもそんなことはもう起こらない。
だって、当麻が助けてくれた。こうやって抱きしめてくれてね。死ぬな、って。俺を置いていくなって言ってくれた。
だから私はここにいられる。もう、大丈夫。そんな怖い夢、私が追い払ってあげる」
当麻の背中に回した手で背中を優しくなでさする。その優しい声と仕草に当麻の恐れが徐々に消えていく。
おずおずと当麻の手が亜由美の背中に回る。