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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~命の光~

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「もっとおしゃべりしてたいのに・・・」
そう言う亜由美に当麻はだめ、と強く言う。
「ずっと入院してるつもりなら存分にしゃべれ」
その言葉に亜由美がまた口を尖らせる。
「・・・わかった。寝て起きたらまた相手してくれる?」
亜由美の言葉に当麻が頷く。
亜由美はそれを見て今度は片手を差し出す。
「手つないでてもいい?」
顔を真っ赤にして甘える亜由美を当麻がいとおしそうにみつめる。
「わかった。ずっとついていてやるから寝ろ」
当麻が亜由美の手を握る。
安心したような顔をして亜由美は眠りに落ちていった。

ふっと亜由美は自分の手が強く握られたのを感じて目がさめる。
手を握ったまま当麻がベッドの上にうつぶせになって眠っている。
だが、その顔は苦しそうだ。手はいよいよ強く握られる。
そっと体を起こして当麻に声をかける。
「当麻? どうしたの? 大丈夫?」
空いた片手で当麻の肩をゆする。
当麻が目を覚まし体を起こす。頭を軽く振る。
「悪い夢なら言ったほうがいいよ?」
心配そうに亜由美が言う。
いや、と当麻が答える。
「言ってしまえば、本当になってしまうから」
ならないよ、と亜由美が言う。
「だって、正夢は人へ話すなって言うじゃない。だったら言ってしまえばきっと本当にならないよ」
亜由美が安心させる様に握っている手を上下させる。
当麻が深いため息をつく。
「広い・・・花畑にお前が倒れていて・・・。だけど、そこは血に染まっていて・・・必死に駆け寄って抱き起こして何度名前を呼んでも目を覚ましてくれなくて・・・お前の体が・・・だんだん冷たくなっていくんだ・・・」
消え入りそうな声で当麻が告げる。亜由美を見ていた当麻の顔はいつのまにかうつむいて唇をかみ締めていた。
恐ろしく生々しい夢。いつか本当になる気がして当麻はそら恐ろしくなる。
亜由美は手を振り解くと当麻を胸に抱きしめた。
驚いた当麻が身をひこうとするのを力の入らない手でぎゅっと抱きしめる。
「ね、聞こえる? 心臓の音。とくんとくん、って言ってるよね」
しかたなく亜由美の胸に頭を預ける形になった当麻が頷く。
「これが生きている証拠。私、生きてるよ。ちゃんとここに生きてる。
約束したよね? 一緒に生きようって。だから、私は死なない。殺されたって意地でも生きかえってやるから心配しないで」
亜由美が優しい声で当麻に語り掛ける。
「たぶんね、当麻の見た夢はかつて起こり得た可能性の一つ。でもそんなことはもう起こらない。
だって、当麻が助けてくれた。こうやって抱きしめてくれてね。死ぬな、って。俺を置いていくなって言ってくれた。
だから私はここにいられる。もう、大丈夫。そんな怖い夢、私が追い払ってあげる」
当麻の背中に回した手で背中を優しくなでさする。その優しい声と仕草に当麻の恐れが徐々に消えていく。
おずおずと当麻の手が亜由美の背中に回る。
「命ってすごいよね。私、当麻の命の光、みたいなもの見たの。戻ってくるときに。それを道しるべにしたらもどってこれた。とっても綺麗だった。見たこともないような真っ青なブルーだった。皆、一人一人きっと違う光を持っているんだろうね。それで思った。私はこの光を大事にするために生きてるんだって。だからめいいっぱい大事にすることにしたの。もちろん、自分の命の光も大事にしようって、思ったよ。結構大変な経験だったけど、きっと必要なことだったんだね」
亜由美が半ば自分に言い聞かせる様に語る。
「お前の命の光・・・どんな色だろうな・・・」
当麻が亜由美の胸に頭を預けたまま言う。
亜由美がうーんと考え込む。
「黒・・・かな?」
ぽつりと亜由美が答える。罪深い自分の命の色はきっと闇の色に近いに違いない。
亜由美の顔に自嘲めいた表情が浮かぶ。表情を見られなくて良かった、と亜由美は思う。その答えに当麻が首を振る。
「きっと太陽みたいにきらきらしてる。色に例えたらきっと七色だ、な」
その答えに亜由美が驚きの声を上げる。当麻が目を閉じ亜由美の姿を思い浮かべる。楽しそうに笑いながら自分の名を呼ぶ亜由美の姿を思い出す。
「俺にはそう見えるんだ。お前は、いつだってまぶしいぐらいに輝いてる。誰よりも綺麗な色だ」
かいかぶらないでよ、と亜由美が恥ずかしそうに呟く。
「かいかぶってなんかいない。それが俺にとっての真実なんだ。俺はきっとお前がどこに隠れていようとっとその光で見つけられるような気がする・・・」
うれしそうに当麻が呟く。当麻の想いがふいに伝わってきて亜由美の心は切なくなる。これほどまで想ってもらえる自分ではないのに。傷つけて、苦しめているのに。
「色ボケしすぎ」
想いを隠す様に亜由美は呟く。
それに答えず、当麻は亜由美の胸に顔をうずめる。
「お前の胸って柔らかいな・・・」
「ちょ・・・っ」
その言葉に亜由美は顔を真っ赤にして当麻をべりっとひきはがす。
「このすけべっ」
言うだけ言って布団にもぐりこむ。その様子に当麻が面白そうに笑う。
「すけべっ。変態っ。馬鹿っ。阿保っ」
布団をかぶりながら亜由美が悪態を次々と言う。
「なんとでも。男はそういうものなの」
当麻は平然と言うと布団をめくって亜由美の唇をすっと奪う。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。ここ、男子禁制にするっ」
「だったら、女装してきてやる」
「当麻なんて・・・とうまなんて・・・っ」
泣きそうな声で名を呼ぶ。
「俺が、何?」
当麻がニヤニヤして問う。
「だいっきらいっ」
叫ぶと再び布団をかぶる。
「俺は好きだぞ」
当麻がひょうひょうと言ってのける。
「嫌い。きらい。だいっきらいだもんー」
ひたすら言い続ける。
「本当に嫌いなら、もう少し、信憑性のある声で言えよな。お前の場合、嘘にしか聞こえんぞ」
当麻が面白そうにくつくつ笑う。
ひとしきり笑い転げて当麻が言う。
「手、つながなくてもいいのか?」
しばしの沈黙の後、手だけが布団から伸びてくる。その手を両手で包み込んで当麻が真剣にかつ優しくささやく。
「愛してる」
うん、と小さな声が布団の中から聞こえてきた。
当麻は小さな手をずっと握り締めていた。

こいつの命の光、守ってやりたい。

眠る亜由美を見守りながら当麻はただそう思っていた。