あゆと当麻~命の光~おまけ
「キスばっかりするもん」
別の事実で攻撃する。
お前、と当麻がまたあきれた声を出す。
「キスぐらいでむっつりすけべだと世界中の半分以上が相当するぞ」
「当麻がすけべなのは明白だもんっ」
「・・・婚約者のよしみでどういうのがすけべか教えてやろうか?」
にやにや笑った当麻が面白そうに言う。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。やっぱ、ここ、男子禁制にするっ」
「だから女装して来てやるって言ってるだろう?」
当麻の口からとんでもない言葉を聞いて外野の三人が絶句する。
「あ〜ら。驚かないでよ。征子ちゃん」
驚いて動きを止めてしまった征士に気付いた当麻が言う。
「せ・・・せい・・・・」
口がぱくぱく動くだけになる。
「当子って呼んでね」
駄目押しの当麻の台詞に亜由美がまず噴出す。
「当麻、それ似合いすぎーっ」
ひゃはははっと亜由美が馬鹿笑いする。
「お・・・お腹痛いーっ」
ベッドの上でじたばたしながら亜由美が笑い続ける。
つられて迦遊羅もナスティも笑い出す。
「今度、皆で女装コンテストでもしようかしら」
ナスティがとんでもない事を言い出す。
「いやーん。めっちゃ、見てみたーい」
亜由美が賛成の声を上げて征士は思わず声を上げる。
「私は絶対に不参加だぞっ」
ええーっと他のものから抗議を受ける。
「断固として参加しない。そうだな? 当麻」
賛成すれば、昨日のことをばらすぞ、と暗に当麻に告げる。しかたないな、と当麻が言う。
「一番美人になるはずの征士が出ないんじゃ、面白くないから俺も不参加」
えーっ、と女性陣の抗議を男二人は聞き流す。
「いいかげん、お前寝ろよ」
見たいと騒ぐ亜由美に当麻が言う。
「戻った体力使い果たす気か?」
言われて亜由美がようやくおとなしくなる。
「退院したらディズニーランド行きたい」
唐突に亜由美が言い出す。いきなりのわがままなのに当麻は二つ返事で了承する。その答えに亜由美は面白くなさそうな顔をする。
「なんでそんなに言うこと聞くのよ」
「わざとわがまま言ってるのがわかるから」
当麻は優しい目で亜由美を見る。亜由美はふてくされる。
「来て欲しかったらまた来てもらえばいい」
当麻が亜由美の隠している気持ちを代弁してしまう。
征士たちに会えたのがうれしくてはしゃいでいたのを当麻は見ぬいていた。
だが、また来て欲しいとは亜由美の性格からして言えないのも知っていた。
亜由美は迷惑をかけることをひどく嫌っているから。
亜由美は決まり悪くなってベッドの向こうを向いてしまう。
当麻は手、とだけ言う。
その声に亜由美が手を差し出し、当麻が握る。
しばらくして亜由美の寝息が聞こえてくる。
「疲れてるくせに無茶しやがって」
当麻が呟きながら亜由美の姿勢を直してやる。
その声も視線もひどく優しい。
征士はうらやましく、不思議にさえ思う。
二人の絆の深さがほんの少しのやりとりから伝わってくるから。
当麻が手を握っただけで安心して眠ってしまう亜由美。それを優しく見守り続ける当麻。
まだ年端も行かぬ二人なのにずっと添い遂げてきた者達のようだ。
いつか、自分もこんな風に人を愛することが出来るだろうか・・・?
ちらとナスティを見ると彼女も感慨深げに二人を見ていた。
「本当に仲がいいのね」
微笑んでナスティが小声で言う。
「そう見えるか?」
当麻が苦笑いして答える。
ええ、とナスティが答え、迦遊羅も頷く。
「こいつが聞いたら悲鳴上げるな」
ほんの少し、切なそうに亜由美を見た後当麻がおどけて言う。
「俺は嫌われてるらしいから」
淡々と言う当麻の顔からは何を思っているかはわからない。
「姉様はずっと当麻のことを想っていますよ」
迦遊羅が告げる。
「だと、いいがな」
短く当麻は答える。
亜由美は当麻に対して嫌いではないと言っているし、キスも拒まない。
が、好きだとは一言もいっていない。
その事実は当麻を不安に陥れていた。
ただ、亜由美の隠された心を信じているだけだった。
一度記憶を封印したらしいが記憶など当てにならない。そんなもの過去に何度となく亜由美にも迦遊羅にも弄繰り回されている。記憶でない確証がほしい。
それを見ていた迦遊羅は力強く頷く。
「姉様はいろいろ考えてしまうのですよ。だから言えない。でも、私は聞いています。当麻のことが好きだと。何度も聞いていますよ」
その言葉に当麻が安堵の笑みを浮かべる。
「こいつの口から聞きたいものだな」
静かに当麻は答え、亜由美の髪を優しくなでる。
「きっといつか言ってくれるはずよ」
話を聞いていたナスティが言う。
「だって、あゆの当麻を見る目は誰へのものとも違うもの。
大好きってめいいっぱい言っている目よ。だから彼女が勇気を出して言えるようになるまで待ってあげて」
その言葉に当麻が頷く。
「俺もこいつの気持ち信じてるから」
いつか。きっと。
その日を待っていよう。
当麻は声にならない声で亜由美に告げた。
「だけど、お前、さっさとはっきりしろよ。待ちくたびれるのは嫌だからな」
当麻が言うと答える様に眠っている亜由美がきゅっと手を握った。
当麻は笑い、握った手に唇をつける。
そんな幸せそうな二人を残して征士達は病室を後にした。
愛ある限り〜あゆと当麻〜
いつかきっと ミニ 命の光3
羽柴蓮香
2004/11/12校正
はっと亜由美は目を覚まして起きあがった。
体ががたがた震えるのを自分の腕で抱きしめながら抑える。
当麻の夢を追い払うなどと言って自分がそれに影響されてしまったようだった。
夢の中の当麻はずっと眠り続けて目を覚まさなかった。
名を呼ぼうが揺さぶろうが何をしても自分を見てくれなかった。
意識を失ってしまった当麻。
当麻の夢はかつて起こり得た可能性。自分の夢はこれから起こりうる可能性。
いずれ自分の運命に巻き込んでそうなってしまうかもしれない。
亜由美はベッドから抜け出すとふらふらと当麻が眠る簡易ベッドに近づいた。
そっと当麻の寝顔を見つめる。
「好き・・・です。愛しています・・・」
決して日の当る場所でいうことの出来ない想いをそっと小さく消え入るような声で告げた。
お前、と当麻が亜由美に言う。
何?と亜由美は問い返した。
いや、と当麻は答えた
昨夜、亜由美が好きだと告げる声を聞いた気がした。
確かめ様としてやはり当麻はやめてしまった。
想われたい一心でそんな風に聞こえたと勘違いしたのだろう。
夢、だったのだ。
「一体何? 何なの?」
しつこく聞く亜由美の言葉を封じ様として当麻がキスをする。
途端に亜由美の瞳から涙がぼろぼろこぼれた。
「ど・・・っ。どうしたんやっ?」
いきなり泣かれて当麻はうろたえ、関西弁で尋ねる。
亜由美は頭を振りながらぼろぼろ泣く。
「お前、やはり、俺のこと・・・」
嫌いなのか。
最後まで言えなかった。
肯定されるのが怖かった。
だが、キスされて泣くだなんていやがって泣かれたとしか思えない。
亜由美は当麻が何を言おうとしたのかすぐに察した。
顔を上げると当麻の唇に自分の唇を押し付ける。
驚いて言葉を失った当麻にたたみかけるように亜由美は言葉を吐く。
作品名:あゆと当麻~命の光~おまけ 作家名:綾瀬しずか