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綾瀬しずか
綾瀬しずか
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あゆと当麻~真夏のファントム前編~

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第三章 真夏のファントム前編

「それでは兄様。お盆には帰ってこられるの?」
携帯電話の向こうから妹の五月が征士に問うた。
「いや、十五日はこちらで用がある。だから迎え盆の頃にでも一度家へ戻るつもりだ。家を空けて久しいからな。皆のことも紹介したい」
「あの、兄様・・・」
ためらうような妹の声。聞き返すと、なんでもない、と否定する。
「そうか。それでは、元気で」
そう言葉を締めくくって、征士は携帯を切った。物事をはっきり言う妹らしくない発言をいぶかしく思うも、その時は別に大して気に留めなかった。言い間違うときもあるだろう、と思って。以前の征士なら物事は要領よく明快に、と意見するところだが遼たちと出会ってからはそういう事も別段気にしなくなっていた。

その日。征士は食卓の席で帰省のことを告げた。
「それで皆も一度、来てみてはどうかと思ってな」
「お邪魔にならないかしら?」
ナスティが心配そうに聞く。
「いや。皆がくれば家族も喜ぶだろう」
春にナスティの気持ちを聞いた征士はナスティをこっそり家族に引き合わせてみようかと考えていた。それとなく当麻に相談してみたところ、皆と一緒に会わせたほうが不自然でなくて良いのではないかと言われた。なるほど、と納得していた所にちょうど妹からの電話があったのだ。
「僕は構わないよ。今年ぐらいは法事に出ないでのんびりしてみたいからね」
今年、東京に出てきた伸が言う。母を一人残してきたのは気がかりだが姉夫婦がよくやってくれているだろう。
「俺達も別に構わない」
当麻が答え、脇に座る双子を見やった。迦遊羅ともう一人の少女、亜由美が顔を見合わせる。もともと血がつながっていない二人だが因縁浅からぬ仲にして双子ということで世間には通していた。
顔つきも良く似ているし、年も似たり寄ったりだった。
どう区別をつけるかというと、前髪をきっちり切りそろえたほうが迦遊羅。一方、ワンレングスの髪が亜由美。だが、二人とも長い髪を頭の高い位置で結わえている。ややこしい限りだが、もうひとつ見分ける方法がある。亜由美は普段メガネをかけている。度は入っていない。昔は極度の近眼だったのだが、覚醒時にそれが回復していた。今やメガネは力の自動制御装置のようなものだ。
一瞬動揺した迦遊羅にどうした?と暗に当麻が問い掛ける。
「十四日までには帰れますか」
皆の視線が切り出した迦遊羅に集まる。
「実は・・・十四日に遼とお会いする約束をしていて・・・」
言いにくそうに迦遊羅が言う。
「なぁんだ。それなら、いっそ僕達が行っている間も遼のところへ行ってきたら? 構わないよね? 保護者殿」
伸が問題なさそうに言って当麻を見る。当麻は彼女達が東京にいる間の保護者役だった。当麻と亜由美が遠縁の上、親が決めた許婚同士だったからだ。つまり、当麻が保護する限り東京の滞在を許されているのだ。
「ああ。いいだろう。遼の事だから、間違っても迦遊羅を襲うまい」
一も二もなく当麻が承諾した。遼も安心されたものである。
「当麻じゃあるまいし」
伸があきれたように言う。
「なにぃ。俺がいつ襲ったって?」
「二人とも!」
言い争いをはじめそうになった当麻と伸をナスティがたしなめる。
「それじゃ。迦遊羅は遼のところへ行くとして、私達は征士のところへお邪魔するわ。よろしくね、征士」
ああ、と征士が頷く。テーブルの向かい側から当麻が小さく口だけを動かしてよかたな、と言う。征士も小さく頷いた。

「ただいま、戻りました」
夏のよく晴れた日。征士は皆を連れて実家の門をくぐっていた。
「久しぶりです。征士。元気を続行していましたか?」
出迎えた姉の弥生が問い掛ける。
「はい。姉上も元気そうで何よりです」
時代劇がかった会話のやり取りに当麻達が目を丸くしている。征士は後ろで棒立ちになっている四人を紹介した。
「彼女が私がお世話になっているナスティ・柳生さんです。その隣がいっしょにお世話になっている友人、毛利伸と羽柴当麻です。その隣が当麻の許婚の村瀬亜由美さんです」
矢継ぎ早に紹介されて皆、頭を下げる。
「遠いところをわざわざようこそおいでくださいました。何もない家ですが、どうぞゆっくりしていってくださいませ。あいにく、父と祖父は外出しておりまして夜には二人とも戻ると思います」
弥生がにこやかに会釈して皆を家に案内する。家、というよりはどちらかといと屋敷というほうがふさわしかった。ぞろぞろと六人が歩く。最後尾についている征士に当麻が言った。
「お前んちの姉さんってダイ姉ちゃんみたいだな」
「なんだ、それは?」
眉根を寄せて征士が問い返す。
「ぼのぼのっていう漫画の話」
あほか、と征士がつぶやく。許嫁の亜由美が無類な漫画好きとあってか当麻も妙な知識を持っていて時折、征士のわからないことを口走る。言ったな、と言って当麻が征士を羽交い締めにする。
「こら。何をする。ここは東京とは違うのだぞ」
「入れ知恵をしてさしあげたのはどこの誰だったかなぁ?」
面白そうに当麻が小声で言う。慌てて抗っていましめを解こうとするがなかなかしつこい。
「当麻。征士。何をしているの?」
振り返ったナスティがたしなめる。それを聞いた弥生が振り向く前に当麻はいましめを解いていた。要領のよい奴だ。
征士が慌てて居住まいを正す。別に姉が怖いわけではないが、長年の習慣は治らないものである。おもしれぇ、と当麻がつぶやく。後で覚えていろ、と征士は凄みのきいた声で当麻にすばやくささやくとさっさと家の中に入った。弥生は客室へ皆を案内する。ずかずかと歩いて先頭のナスティの脇に並ぶ。当麻のそばにいては何をされるかわからない。いっそ、ナスティ達に近いほうが無害だ。
「やはり、こんなに大勢で押しかけて大丈夫かしら?」
ナスティが小声で征士に問う。
「心配ない。大して大きい家ではないが部屋数だけはナスティの家に引けをとらないからな」
家と呼ぶには大きく、屋敷と呼ぶには小さいという微妙な伊達家であった。いくらも歩かないうちに妹の五月と出会う。
「兄様。お帰りなさい」
「妹の五月だ」
「こんにちは」
きっちり切りそろえられたおかっぱ頭を五月は律儀に下げる。征士に似た端正な顔立ちの二姉妹と征士を見た当麻は思わずアイアン三人衆と名づけていた。アイアン・レディ、サッチャー首相を思わせたからだった。あるいはシベリア寒気団だな、と一人ごちる。別段彼女達が情に薄いと思うわけではない。それを言うなら当麻のほうが冷たいかもしれなかった。ただ、一瞬寒々としたものが三人の会話に漂っているのを想像してしまったのである。
これでも私の家族なのだが、と後に当麻から聞いた征士はこう言った。
「兄様。あの・・・」
「なんだ?」
通り過ぎようとする征士を五月が呼び止めた。征士が振り返る。
「やっぱり。なんでもない」
そう言って五月は足早に去った。
「おかしな奴だ」
そうつぶやくと征士も部屋に荷物を運んだ。
観光に回るには中途半端な時間だったので皆、思い思いの時間を過ごす。
ナスティが弥生や母と楽しそうに歓談していたのを確認して征士は安心する。心配は取り越し苦労かも知れない、そう思いながら裏庭に出ると実家に残していた盆栽達をいとおしそうに眺めた。