あゆと当麻~雷鳴~
当麻はじっと体の下の亜由美の瞳を見つめた。
「俺は、お前が好きだ。いや、愛している」
その熱っぽく真剣なまなざしに亜由美が息を呑む。
意を決したかのように当麻の顔がゆっくり近づく。
キス。
今までの軽く触れ合う子供同士キスではない。
熱く、奪うようなキス。
当麻の熱い気持ちが伝わってくる。
拒否、できなかった。
体は素直だった。
知らず知らずのうちに当麻の首に腕を絡ませる。
それを合図にキスが深まる。
唇を求めあい、応え合う。
ようやく本心が触れあう。
唇をほんの少し離して当麻がささやく。
「言えよ。俺が好きだと。愛してると」
気持ちが揺らいだ。気持ちを押し殺して苦しむより言ってしまって楽になりたかった。どうせ、本当の気持ちは今ので知られてしまった。どんなに自分を戒めてもこの気持ちは変えられない。
「好き。当麻が好き。大好き。愛してる」
当麻の顔にどこか安堵の表情が浮かぶ。
「じゃ、いつか俺と結婚する?」
その答えにやはり亜由美は躊躇する。好きだが、それといっしょになるのとは話は別だ。自分は亜遊羅で巻き込んでしまうどころか当麻に刃を向けるかもしれないのだ。
「yesというまでキスするぞ」
好きあっていて一緒になれないなどというのはおかしいではないか。親公認で二人の間を邪魔するものは何もないのだから。
当麻が唇を奪う。何度もキスを繰り返す。
そのたびに心の扉にかけた何十もの鍵がはずされていく。
当麻といっしょになりたい。いっしょに幸せになりたい。
結婚して、子供産んで、いっしょに子供育てて、いっしょに年をとっていきたい。
想いがあふれる。堅く決めていた心が当麻の熱い想いに溶かされていってしまう。
「yes or no?」
何度目かのキスの後、当麻が再び問う。
「yes」
もう気持ちを偽れなかった。
その答えを聞いた当麻は亜由美を解放すると隣にばたっと横たわる。
「当麻?」
びっくりして亜由美が半分身を起こして当麻を見下ろす。
「あいにく、kittenを襲うのは性分じゃないんでね。これ以上は自主規制」
ニッと笑って答える。
「kitten?」
きょとんとして問う。
「英語で子猫ちゃんと言う意味。お前の好きなキャラの台詞と同じだ。光栄に思え」
ひどっ、と言って口を尖らせる。
「ほら。そう言うところが子猫ちゃんだって」
「子供扱いしないで」
「子供だよ。お前は」
優しく微笑んで亜由美の首に手をかけると胸元に引き寄せる。
「子供にあんなキスするわけ?」
「お前の気持ちを確かめただけだ。効果あったろう? 第一、キスぐらいで襲ったうちに入らん。襲うときは徹底して襲ってやるから安心しろ。それとも今、襲ってほしい?」
え、と言って亜由美が動揺する。
当麻が小さく声を立てて笑った。
「こんな言葉で動揺する間はやはり襲うわけにはいかないな。kitten」
「その呼び名やめてよ」
「kittenはkittenだと思うが? なんなら日本語で呼ぼうか」
面白そうに当麻が笑う。
「もうっ」
恐らく頬を膨らませているであろうことは当麻には簡単にわかった。
「お前、ほんっとうにかわいいな。今夜はこのまま一緒に眠ろう」
「ちょっ・・・っ」
「ばーか。何考えてるんだ? 眠るだけだ。眠るだけ」
そう言って当麻はまぶたを閉じた。
腕の中にようやく手にした愛しい者を抱いて。
雷鳴はいつのまにかなくなっていた。
FIN