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綾瀬しずか
綾瀬しずか
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あゆと当麻~雷鳴~

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実際に、計画はまだ実行できなかった。当麻がやはりくっついてきたからだ。あの手この手で向こうに引き留めようとしたが当麻ももう感づいていたのかも知れない。決して離れようとはしなかった。これが好きあっていなければストーカーまがいだが、好きあっているのに今にも出ていこうとしているのだ。わかっていて放っておく当麻ではなかった。
電気をつける。
台所はカウンターキッチンでダイニングと分けられていた。そのカウンターに何か置いてある。
おにぎりだった。
気になって炊飯ジャーを開ける。久しく空だった中に白米が炊かれている。どうやら当麻が炊いたらしい。
行動パターンを完全に読まれていた。
悔しいのかうれしいのか複雑な気持ちだ。
当麻は料理ができないわけではない。一人暮しが多かったせいで割になんでもできる。
そんな当麻に比べるとたしかに自分はまともなことはできない。
東京に来るまではごく普通に生活していたからだ。
基本的に家事炊事は母の分野だったし、東京に来てからも自分の出る幕はなかった。
まったく何もしなかったわけではない。
東京はいつも共同生活だったので自分で掃除もしたし、洗濯も手伝っていた。
ただ、料理は包丁が嫌いで近づく気になれなかったのだ。剣を扱うのと包丁を握るのでは勝手が違う。
どちらも同じだろう、と皆には言われるのだが。
なんだか自分がとても子供に見えて情けない気持ちでおにぎりを食べる。
卵焼き、ぐらいならできるかな。
気を使ってくれた当麻に何かした所で罰はあたらない。
冷蔵庫を開ける。中はほとんど空っぽだった。
ナスティや伸は買いだめをあまりしない。
小田原の家は山中にあったので買いだめをしていたが、都内に移ってからはその日に必要なものを必要なだけ買うようになっていた。二人は主婦の鏡である。
スーパーは閉まっているが、コンビニなら開いている。
買い物に出かけることにした。
財布を持ってそっと出かける。急いで帰ってくれば問題ない。
卵やインスタント味噌汁、ついでに冷凍食品も買い込んだ。
ナスティ達がいつ帰ってくるかはわからないが、二、三日はこれで大丈夫だろう。
逃げ出す計画はいつの間にか頭の中から消え失せていた。
もうしばらく、という思いがそうさせていたのかもしれない。
ずるい人間だ、と亜由美はこうして思う。
いつまでたってもずるい人間でしかない。
苦笑いしながら、買い込んだものを冷蔵庫にしまう。
その時、雷鳴が空にとどろいた。
亜由美は二度目の雷鳴が響いたとき反射的に当麻の部屋に向かっていた。
大嫌いと言ったことなどそれこそこの世で一番嫌う雷鳴の前では関係なかった。
そもそも本心から嫌いと言ったことなどないのだから。無効というものだ。
どうでもいいような理由付けをして亜由美は階段を駆け上がった。

その頃、当麻は読書に耽りながら頭は別のことを考えていた。
今日、亜由美はついに結婚しないと言いだした。次は何を言い出すか分からない。
小田原でもさりげなく振る舞っていたが、どこか奇妙な感じが常について回っていた。
人の心の機微に敏感な伸も気づいていて当麻に忠告をしていたぐらいだ。
「とうぅまぁ・・・」
亜由美が入り口で泣き出しそうな声で名を呼んでいた。
ベッドの上で読書をしていた当麻はベッドの脇に腰掛けなおすとその隣をぽんぽんとたたいて指し示す。
また響く雷鳴に小さく悲鳴を上げて当麻の胸に飛び込む。
抱きとめると隣に座らせる。
窓の外が光る。
亜由美は当麻の腕にしがみつく。
長い間隔を空けて雷鳴が響く。
怯える亜由美に大丈夫だと声をかける。
戦いではどんな相手にもひるまない亜由美は無害な雷に子供のように怯える。
普段から幽霊のようなものを相手にしてるのにちょっとした心霊現象にも弱い。
幽霊屋敷のアトラクションなど恐怖の的である。
だが、この子供っぽいところが本来の亜由美なのだ。
普段皆に見せる大人の部分は戦うために否応無しにならざるを得なかった部分。
「おまじない、教えてやるよ」
当麻の言葉に亜由美はきょとんとして顔を見上げる。
「稲妻が光ったら雷鳴が響くまで数を数える」
ちょうど推し量ったかのように稲妻が走る。
一、二、三・・・と当麻が数を数える。二十ほど数えたときに雷鳴がとどろいた。
また光る。
当麻が数えながら亜由美の肩をたたき、数えるのを促す。
亜由美も促されて声をそろえて数え出す。
何度か繰り返すうちに亜由美が落ち着いてくる。
「怖くないだろう? いつ来るかと思うと怖くなるが、数えているうちに身構えができる」
亜由美はうん、と頷く。
いつの間にか数えるのは亜由美だけになっていた。それを当麻が静かに見つめる。

「雷光斬は怖くないのか? 性質は同じだぞ」
ふいに当麻がたずねると亜由美は数えながら頷く。
次の瞬間、亜由美の視界が変わった。目の前に当麻の顔、その上に天井。背中にベッド。
亜由美の胸の鼓動が大きくなる。当麻に聞こえやしないかとびくびくしてしまう。
「お前、俺より征士のほうが好きなんじゃないか?」
そう聞く当麻の瞳に抑えられた嫉妬の炎が宿る。
その抑えれた激しさに亜由美はただ、首を横にふる。
「だが、俺より信用している。違わないか?」
征士は、と声を出すがうまく声にならない。
「征士は?」
「真実を見極める眼を持っているからそれを信用しているだけ。好き嫌いは関係ない」
やっとのことで亜由美が答える。
「本当か?」
当麻が聞き返し、亜由美がうなずく。
当麻の感情は走り出していた。今まではっきり聞くことをためらっていた言葉が突いて出る。
本当はゆっくり話し合うつもりだった。けれども走り出した心はもう止まらない。
元々亜由美のことに関すると冷静さを欠いてしまう。
亜由美が結婚しない、と言っていた事も当麻を焦らす原因にもなっていた。
「それじゃぁ、本当は誰が好きなんだ? 俺といるのは何のためなんだ?」
どう答えたら良いか亜由美が惑う。
「誰なんだ? お前の心の中に住んでいるのは? 
確かに俺は答えを保留したが、俺はお前が好いてくれていると思ってた。
俺の気持ちを拒否しなかったし、嫌いじゃないと言った。キスさえ拒まない。
それなのに今、お前は俺より征士を信用し、結婚しないなどと言う。
俺はうぬぼれていただけか?
本当の気持ちはどこにある? いい加減、好きになるか嫌いになるかはっきりしてくれ」
心の中に住んでいるのは当麻だけ。
いつも二つの思いの中でゆれている。好き。でも好きになってはいけない。
当麻の気持ちに応えてはいけない。応えたい。そばにいたい。離れなくてはならない。
亜由美の瞳に切ない思いがあふれた。
その瞳を見て当麻は思った。
限界だ。お互いの気持ちを確かめないといけない。特にこいつは自分の気持ちをはっきりさせなくては。お互いを苦しめるのはもう終わりにしないといけない。このままだと二人はだめになってしまう。
すれ違うのもごめんだ。このまま形ばかりの中途半端な恋人同士を演じるつもりはない。
好きなのかそうでないのか。
嫌いではない、というあいまいな言葉でもうすまされる状態ではなかった。
そして将来を共にするのかどうか。
許婚という状態にある以上、この点もはっきりさせないといけない。
作品名:あゆと当麻~雷鳴~ 作家名:綾瀬しずか