あゆと当麻~道しるべの星~
ソウルラヴァー 道しるべの星
2002/11/18
"憎き者よ。そなたの何をまず奪おうか。目か耳か口か。一つ一つ奪うて闇の苦しみを味わうがいい"
亜由美はきっと睨みつけた。
「あなたの思うとおりにはならない。この私にはむかえるものなどいない」
"どうかの? そなたの心の中にいるものならばはむかえまい"
ゆらり、と当麻の姿が浮かび上がる。
"ほう。これがそなたの心を占める者か・・・。さしずめ恋人と言うところか。まずかこやつを手にかけようかの"
やめて、と亜由美は叫んでいた。
「彼に手を出さないで。出すなら私にしなさいっ」
"よう言うた。だが、その口うるさい声をもらうか"
影が近づいたかと思うと亜由美の喉を掴む。
亜由美は必死で抗おうとするが体が動かない。
"無駄じゃ。この白影の夢の中じゃ。誰も俺様の夢の中で自由にはなれぬ"
亜由美はその名を聞いて愕然とした。
「白影・・・。あなたなの?」
しぼるようにして声を出す。喉に力がこめられる。
"我らが恨み、とくと思い知るがよい"
手がすっと離れ、亜由美は咳き込んだ。
声を出そうとして亜由美はまた愕然とした。
声が出ない。
術にかかってしまった。
これでは言霊を使って自分で術を解くことも出来ない。
それに力まで奪われてしまったようだ。
この夢幻を作り出したのは白影。そして術をかけたのは冬玄、だ。
懐かしい名を頭で思い出す。
残る緋影はどこにいるのか?
亜由美はすばやく周りを見渡す。
が、もう夢幻の中には誰もいなかった。
はっとして目がさめる。
嫌な夢。
亜由美は思い出すのも嫌な夢に身震いする。
ふいに口を開いて声を出そうとする。
どんなに出そうとしても出ない。
夢、ではなかったのか・・・。
亜由美はベッドから飛び起きると部屋を飛び出た。
当麻と征士が眠っている部屋へ直行する。
バタン、と派手な音を立てて開け放つ。
その物音に征士が起きる。
「あゆ? どうしたというのだ。このような早朝に・・・?」
信じがたい顔で征士は亜由美の顔を凝視した。
まだ、朝の五時にもなっていない。
亜由美は当麻の高校のかばんからノートと筆記用具を取り出して書きなぐると征士につきつける。
"当麻をたたき起こして"
「一体、何があったというのだ?」
征士が首を傾げると亜由美はノートをさらにつきつけて強調する。
わかった、と征士はしかたなく承諾すると当麻を起こしにかかる。
が、なかなか起きない。
困ったように亜由美を見るが亜由美は首を振る。
征士は奥の手段に出た。
「あゆ」
と当麻の耳元で言う。
「あゆがお前を呼んでいるぞ。起きねばどうなるか知らない」
だが、その声にもまだ当麻は起きない。わずかばかりの反応が見られただけだ。
征士は亜由美の名を連呼した。
恐ろしいぐらい連呼するとようやく当麻がまぶたを開ける。
「あゆ?」
がばり、と当麻はおきあがって征士に抱きつく。
「あゆー。愛してるよー」
「馬鹿者っ。あゆはそっちだ。私を襲うなっ」
征士は大声で怒鳴るとべりっと当麻をはがす。
「そっち? おー。あゆー」
寝ぼけたままの当麻は亜由美の制止を振り切ってすばやく抱きつく。
「あゆぅ」
当麻が力強く抱きしめ亜由美は窒息死しそうになる。
じたばた手を動かして意志をあらわすが寝ぼけている当麻にはわからない。
亜由美は馬鹿力を発揮して無理やり離れると当麻の頬を思いっきり叩く。
「ってーなー。いきなりなんだよー」
ようやく目がさめた当麻に亜由美は先ほど書きつけておいたノートを見せる。
"声が出なくなった"
「なにぃ?!」
当麻はノートを引っ手繰るとその文字をまじまじと読む。
それからものすごい勢いで亜由美の肩を揺さぶる。
「声が出なくなったってどういうことなんだっ?! いや、それよりも病院だっ」
当麻がベッドからおきあがって亜由美の手を引こうとする。
亜由美はそれをさえぎって首を振る。
どういうことだ?、と聞く当麻にただ無駄だと言うことを示すために強く首を振る。
当麻はため息をつく。
「わかったから。ちゃんと説明してくれ」
亜由美はこくりと頷いた。
またもお騒がせな亜由美の状態にナスティ家全員が起き出して集まった。
亜由美は事情をノートに書き出す。
「夢の中で声を奪われた、だと?」
当麻が確認する様に問う。
亜由美はこくりと頷く。
「だから、病院は無駄なのだな」
征士が納得し、亜由美がまた頷く。
「一体、何をしたんだ?」
当麻の詰問に亜由美は不満そうな顔をして首を振る。
「何もなかったらどうしてこういう事態に陥るんだ? 現象には原因と結果があるんだ」
当麻が言う。
「誰に、というのは覚えていないの?」
伸が問う。亜由美は首を振る。今、誰が何をしたとまで言っても解決策は見つからない。
当麻に隠し事をしないと約束したが、それとこれは別問題だ。下手をすると当麻が危なくなる。
それからまたノートに書きつける。
「学校の事なら大丈夫ですわ。ちゃんと風邪を引いたとでも連絡しますから」
迦遊羅が答える。
亜由美は微笑んで頷く。
それからまたノートに書く。
「寝るって、今から?」
ナスティが驚く。
亜由美はまた書いて説明する。
相手は闇の中でしか動けないから昼間に寝ておけば大丈夫だから、と。
たぶん、白影達は昼間は動けないはず。亜由美は確信していた。何故なら彼らは闇に身を縛られてしまったもの達だから。
「相手は吸血鬼か?」
当麻があきれたような声を出す。
その言葉が面白くて亜由美は思わず笑ってしまう。
「笑い事じゃないんだぞ。まったく、大人しくなったと思っていたのに相変わらずやっかいごとを引きつけやがって」
当麻が苦々しく言う。
亜由美は当麻を物言いたげに見る。
「謝らんでいい。いつもの事だ。なれている。寝るのは勝手だがなんか食ってからにしろよ」
当麻が言って亜由美は笑って頷いた。
夜中、亜由美はナスティの家を抜け出した。
夜はいつ襲ってくるかびくびくした。
離れていたいのに当麻達はぴったりと亜由美にくっついていた。その当麻自身が危ないというのに離れたくてもかるがもの子のようにくっつかれては閉口してしまう。
夜中になってようやく皆が寝静まるって亜由美は考えていた通りに行動を移した。
できるだけ人気のないところへ足を進める。
ふいに霧が濃くなる。
亜由美の目は険しくなった。
きっと霧の向こうを睨みつける。
「わざわざ、出てくるとは飛んで火に入る夏の虫、か」
ゆらり、と男が出てくる。
白髪の背の高い若者。
だが、向こう側がすけている。
「かような闇の力が増すところにでてくるとは愚か者だな」
もう一人の男が出てくる。
彼もまた向こう側がすけている。
彼は短い闇色の髪をしている。
「今宵はそなたの何を奪おうかの?」
短い髪の男、冬玄が言う。
亜由美はただきっと睨みつける。視線で殺せるなら殺せてしまえるような視線で。
「その生意気な目をいただこうかの」
白髪の男、白影が言う。
ふいに男たちに向かって石が投げられる。
亜由美が驚いて石が飛んできたほうを振りかえる。
と人影が亜由美の前に立ちふさがった。
亜由美は目を見張る。
「馬鹿あゆ。隠しとおせると思っていたのか? 約束破り、あとで清算してもらうからな」
2002/11/18
"憎き者よ。そなたの何をまず奪おうか。目か耳か口か。一つ一つ奪うて闇の苦しみを味わうがいい"
亜由美はきっと睨みつけた。
「あなたの思うとおりにはならない。この私にはむかえるものなどいない」
"どうかの? そなたの心の中にいるものならばはむかえまい"
ゆらり、と当麻の姿が浮かび上がる。
"ほう。これがそなたの心を占める者か・・・。さしずめ恋人と言うところか。まずかこやつを手にかけようかの"
やめて、と亜由美は叫んでいた。
「彼に手を出さないで。出すなら私にしなさいっ」
"よう言うた。だが、その口うるさい声をもらうか"
影が近づいたかと思うと亜由美の喉を掴む。
亜由美は必死で抗おうとするが体が動かない。
"無駄じゃ。この白影の夢の中じゃ。誰も俺様の夢の中で自由にはなれぬ"
亜由美はその名を聞いて愕然とした。
「白影・・・。あなたなの?」
しぼるようにして声を出す。喉に力がこめられる。
"我らが恨み、とくと思い知るがよい"
手がすっと離れ、亜由美は咳き込んだ。
声を出そうとして亜由美はまた愕然とした。
声が出ない。
術にかかってしまった。
これでは言霊を使って自分で術を解くことも出来ない。
それに力まで奪われてしまったようだ。
この夢幻を作り出したのは白影。そして術をかけたのは冬玄、だ。
懐かしい名を頭で思い出す。
残る緋影はどこにいるのか?
亜由美はすばやく周りを見渡す。
が、もう夢幻の中には誰もいなかった。
はっとして目がさめる。
嫌な夢。
亜由美は思い出すのも嫌な夢に身震いする。
ふいに口を開いて声を出そうとする。
どんなに出そうとしても出ない。
夢、ではなかったのか・・・。
亜由美はベッドから飛び起きると部屋を飛び出た。
当麻と征士が眠っている部屋へ直行する。
バタン、と派手な音を立てて開け放つ。
その物音に征士が起きる。
「あゆ? どうしたというのだ。このような早朝に・・・?」
信じがたい顔で征士は亜由美の顔を凝視した。
まだ、朝の五時にもなっていない。
亜由美は当麻の高校のかばんからノートと筆記用具を取り出して書きなぐると征士につきつける。
"当麻をたたき起こして"
「一体、何があったというのだ?」
征士が首を傾げると亜由美はノートをさらにつきつけて強調する。
わかった、と征士はしかたなく承諾すると当麻を起こしにかかる。
が、なかなか起きない。
困ったように亜由美を見るが亜由美は首を振る。
征士は奥の手段に出た。
「あゆ」
と当麻の耳元で言う。
「あゆがお前を呼んでいるぞ。起きねばどうなるか知らない」
だが、その声にもまだ当麻は起きない。わずかばかりの反応が見られただけだ。
征士は亜由美の名を連呼した。
恐ろしいぐらい連呼するとようやく当麻がまぶたを開ける。
「あゆ?」
がばり、と当麻はおきあがって征士に抱きつく。
「あゆー。愛してるよー」
「馬鹿者っ。あゆはそっちだ。私を襲うなっ」
征士は大声で怒鳴るとべりっと当麻をはがす。
「そっち? おー。あゆー」
寝ぼけたままの当麻は亜由美の制止を振り切ってすばやく抱きつく。
「あゆぅ」
当麻が力強く抱きしめ亜由美は窒息死しそうになる。
じたばた手を動かして意志をあらわすが寝ぼけている当麻にはわからない。
亜由美は馬鹿力を発揮して無理やり離れると当麻の頬を思いっきり叩く。
「ってーなー。いきなりなんだよー」
ようやく目がさめた当麻に亜由美は先ほど書きつけておいたノートを見せる。
"声が出なくなった"
「なにぃ?!」
当麻はノートを引っ手繰るとその文字をまじまじと読む。
それからものすごい勢いで亜由美の肩を揺さぶる。
「声が出なくなったってどういうことなんだっ?! いや、それよりも病院だっ」
当麻がベッドからおきあがって亜由美の手を引こうとする。
亜由美はそれをさえぎって首を振る。
どういうことだ?、と聞く当麻にただ無駄だと言うことを示すために強く首を振る。
当麻はため息をつく。
「わかったから。ちゃんと説明してくれ」
亜由美はこくりと頷いた。
またもお騒がせな亜由美の状態にナスティ家全員が起き出して集まった。
亜由美は事情をノートに書き出す。
「夢の中で声を奪われた、だと?」
当麻が確認する様に問う。
亜由美はこくりと頷く。
「だから、病院は無駄なのだな」
征士が納得し、亜由美がまた頷く。
「一体、何をしたんだ?」
当麻の詰問に亜由美は不満そうな顔をして首を振る。
「何もなかったらどうしてこういう事態に陥るんだ? 現象には原因と結果があるんだ」
当麻が言う。
「誰に、というのは覚えていないの?」
伸が問う。亜由美は首を振る。今、誰が何をしたとまで言っても解決策は見つからない。
当麻に隠し事をしないと約束したが、それとこれは別問題だ。下手をすると当麻が危なくなる。
それからまたノートに書きつける。
「学校の事なら大丈夫ですわ。ちゃんと風邪を引いたとでも連絡しますから」
迦遊羅が答える。
亜由美は微笑んで頷く。
それからまたノートに書く。
「寝るって、今から?」
ナスティが驚く。
亜由美はまた書いて説明する。
相手は闇の中でしか動けないから昼間に寝ておけば大丈夫だから、と。
たぶん、白影達は昼間は動けないはず。亜由美は確信していた。何故なら彼らは闇に身を縛られてしまったもの達だから。
「相手は吸血鬼か?」
当麻があきれたような声を出す。
その言葉が面白くて亜由美は思わず笑ってしまう。
「笑い事じゃないんだぞ。まったく、大人しくなったと思っていたのに相変わらずやっかいごとを引きつけやがって」
当麻が苦々しく言う。
亜由美は当麻を物言いたげに見る。
「謝らんでいい。いつもの事だ。なれている。寝るのは勝手だがなんか食ってからにしろよ」
当麻が言って亜由美は笑って頷いた。
夜中、亜由美はナスティの家を抜け出した。
夜はいつ襲ってくるかびくびくした。
離れていたいのに当麻達はぴったりと亜由美にくっついていた。その当麻自身が危ないというのに離れたくてもかるがもの子のようにくっつかれては閉口してしまう。
夜中になってようやく皆が寝静まるって亜由美は考えていた通りに行動を移した。
できるだけ人気のないところへ足を進める。
ふいに霧が濃くなる。
亜由美の目は険しくなった。
きっと霧の向こうを睨みつける。
「わざわざ、出てくるとは飛んで火に入る夏の虫、か」
ゆらり、と男が出てくる。
白髪の背の高い若者。
だが、向こう側がすけている。
「かような闇の力が増すところにでてくるとは愚か者だな」
もう一人の男が出てくる。
彼もまた向こう側がすけている。
彼は短い闇色の髪をしている。
「今宵はそなたの何を奪おうかの?」
短い髪の男、冬玄が言う。
亜由美はただきっと睨みつける。視線で殺せるなら殺せてしまえるような視線で。
「その生意気な目をいただこうかの」
白髪の男、白影が言う。
ふいに男たちに向かって石が投げられる。
亜由美が驚いて石が飛んできたほうを振りかえる。
と人影が亜由美の前に立ちふさがった。
亜由美は目を見張る。
「馬鹿あゆ。隠しとおせると思っていたのか? 約束破り、あとで清算してもらうからな」
作品名:あゆと当麻~道しるべの星~ 作家名:綾瀬しずか