あゆと当麻~道しるべの星おまけ~
うん、と亜由美は少し頼りなげに頷く。
当麻と姉達の導きを得た今からこそが自分の本当の修行なのだと亜由美は思う。
唖呪羅が復活するまでに自分は真の覚醒をしなくてはならない。
今度こそ、間違いのない様にするから。
亜由美は心に強く誓う。
「お前はもう一人じゃないから。俺達がいるから。だから一人でがんばるなよ」
瞳に力強い光りを宿して星を眺めている亜由美に当麻が心配そうに声をかける。まだ、時々亜由美がふらりと離れていく気がしてならないのだ。亜由美は当麻を見上げてにっこりと笑う。
「わかってるよ。私には大勢のお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるんだもの。
末っ子として思いっきり甘えさせてもらうから」
亜由美が調子よく言う。
そうか、と当麻はふむふむ頷く。
「ついに自分が一番子供だと言うことを悟ったか。いい傾向だ」
当麻も調子に乗って言う。
「皆で花火しよー」
唐突に亜由美が言い出す。
「どっかにあまりの花火があったよね? それを皆でやろうよー」
亜由美が当麻の腕をひぱってねだる。
「今は九月も末だぞ? 今ごろ花火してどうするんだ?」
「いいじゃない。まだ九月末。夏だもん。ねー。花火しよー。花火」
「お前はとことんわがままな奴だなぁ」
当麻が笑って答える。
「末っ子の特権は甘える、だもん。思いっきり当麻にわがまま言うんだもんっ」
うれしそうに言う亜由美の顔を当麻もまたうれしそうに見る。
「わかったから、そんなに引っ張るなよ」
ずりずりと引っ張られつつ当麻が言う。
了承を得て亜由美はわーいと声を上げていそいそと花火捜索にかかる。
その後姿を当麻はいとおしそうに見つめた後、今度は洋間でテレビを見ている仲間達を誘いに行く。
たまには騒いでも構わないだろう。
今年の夏はいろんな意味で思い出深い夏になりそうだ。
当麻は夏の出来事を頭に浮かべながら洋間に向かった。
ソウルラヴァー 守る力 道しるべの星3
翌朝、当麻は征士と伸にたたき起こされる。
寝ぼけた当麻が亜由美に抱きついて何をするか分からないので男共の手で起こされるのだ。
寝ぼけたままダイニングルームへずるずると連行される。
すでに亜由美と迦遊羅は起きていた。
「おはよう」
亜由美が顔を赤らめて挨拶する。
「おはよう」
ようやく目を覚ました当麻はそんな亜由美をいとおしげに見つめて返事を返す。
「朝から二人の世界に浸らない」
伸が注意して二人ははっと我に返る。
いただきますと叫んで慌てて亜由美が朝食をかっこみだす。
急いで食べ過ぎて喉に詰める。
迦遊羅があわてて水を飲ませ、隣の当麻が背中をたたいてやる。
「死ぬかと思ったー」
げんなりした声で亜由美が言って当麻と迦遊羅が同時に叱る。
「急いで食べるからでしょう? お行儀が悪いですわよ」
「見境もなくがっつくからだ。しっかり噛んでゆっくり食べろとあれほど言ってあるだろう?」
「すみません」
と亜由美がしゅんとうなだれる。
その様子に笑いが巻き起こる。
「皆して子供扱いするんだからー」
むすっとして亜由美が言う。
「実際子供だろうが」
当麻が突っ込む。
「当麻と一個しか年違わないんだからねー」
亜由美が反論する。
「あゆって年誤魔化してるんじゃない?」
伸が言って征士もうむ、と同意する。
「ですわね。私よりも幼い気がすることは度々ですもの」
迦遊羅も同意する。
残るナスティを見るとにっこり微笑んで言う。
「皆の中で一番子供っぽいと言えばあゆよね」
一同にしっかりと子供だと言う認定を受けて亜由美はがっくりを肩を落とす。
「今年中にめいいっぱい大人に成長してやるっ」
決意を新たに叫ぶ亜由美を皆は笑いながら見つめる。
「信じてないわね。いいわよ。絶対におとなになってやるー」
その決意が実るのは何年も後になってのことだとは亜由美も思いもしなかった。
皆が出払った後、亜由美は当麻の部屋へ直行する。非常時以外、こんな時で無いと部屋には入れないから。
ドアを開ける。
当麻は眠っていた。
ベッドの近くの床に座りこんで寝顔を見つめる。
幼い子供のような寝顔に亜由美は微笑んで見つめる。
安堵した寝顔を見つめている内に自分も眠くなる。
ベッドにもたれかかるようにして亜由美も眠った。
当麻は目を覚まして体を起こすとぎょっとした。
ベッドにもたれかかるようにして亜由美がすやすやと寝息を立てている。
あわてて起こそうとした手を止める。
その寝顔は実に安らかで幸せそうだったから。
ここ最近、ようやくそんな寝顔が見られるようになった。
ついこの間まではどこか張り詰めた糸のような緊張感が亜由美の中にあった。
安らいだ表情を見せることはあったが幸せそうな表情はここ最近見られるようになっていた。
両思いになってからようやく亜由美はこんな顔をするようになったのだ。
当麻はベッドから抜け出すとそっと亜由美を抱き上げる。
同じベッドで眠っていたいところだが、爆睡して見咎められることもある。
それならリビングで眠ったほうがまだましだ。
伸がタオルケットをリビングに出しておいたと言っていたのを思い出す。
抱き上げられて頭がかくんとのけぞって亜由美は目を覚ました。
「ほへ?」
寝ぼけた頭で現状を確認する。
ぼけーっとしているとリビングの敷物上に寝かされる。
亜由美が目を覚ましていることに気付いた当麻が亜由美の頬をつつく。
「お前、俺の部屋でぐーすか寝るなよ。勘違いされるだろう?」
「誰もいないからいいのー」
ぷにぷにとつつかれる感触を楽しみながら亜由美は答える。
当麻は手を離すとおいてあったタオルケットをかけてやる。
タオルケットはちゃんと二人分用意してあった。
当麻はもう一枚を自分のひざにかけて亜由美の顔を見下ろす。
「とーまはおねむしないの?」
「俺は腐るほど眠ったから大丈夫だ」
答えると亜由美が困ったような顔をする。
当麻が亜由美が口を開こうとする寸前に先読みしていってしまう。
「別にお前にいやいや付き合っているわけじゃない。実際、まだつらいしな・・・って、お前なー」
当麻がこめかみをおさえる。
「何言ってもそんな顔されたら何も言えないだろう?」
亜由美は泣きそうな顔で当麻を見つめていた。
ごめん、と亜由美が呟く。
「また巻き込んじゃったね。当麻には関係ないことなのに・・・」
悲しそうに呟く亜由美に当麻は言う。
「俺が首を突っ込んでるの。何度言えば分かるんだ? それにお前が関係することには俺も関係するの。
それに天青って俺の前世なんだろう? しっかり関係あるじゃないか」
亜由美は決まり悪そうな顔をする。
「当麻や皆には悪いと思ったけど、当麻に天青の事を知らせたくなかったから。
昔の別の人格なんか思い出しても嫌な思いするだけだから。
当麻はそのままの羽柴当麻でいて欲しかったから」
亜由美の言葉を聞いた当麻がなんとも言えない顔つきで亜由美をじっと見る。
亜由美として生きてきたこの少女が亜遊羅として覚醒した事がどれほど亜由美に苦痛をもたらしたか。
自分には前世の記憶などない。今回の事で得たのもただの情報だ。
自分が他の誰かであったという実感はどこにもない。
それを持つと言うことはどういうことなのだろう?
当麻は思い巡らす。
作品名:あゆと当麻~道しるべの星おまけ~ 作家名:綾瀬しずか