らいにる お好み焼き
曲がりなりにも商社マンとして、日々、働いている俺は、接待なんかで、口も肥えていると自負している。たまには、おいしいもんでも食べさせてやろうと同居している兄を誘ったら、休みぐらい寝ていたい、と、愛想のかけらもなく拒絶された。
「わざわざ、ランチに出かけなくても、おまえさん、美味いもん、たらふく食ってんだろ? 」
「そうじゃなくてさ。」
「ごめん、休みは一日グダグダしたい。そういうのは、他の人と行ってください。」
「たまには、俺が奢ってやるって言ってんのっっ。タダメシだぞ? 嬉しいだろ? ニール。」
「いや、別に。」
たまには、二人で出かけたいと俺は思うのだが、兄は、言うことを聞いてくれない。俺が転勤で、こっちに来て、兄のところへ転がり込んだので、生活費が、ほとんどかからないからの提案なのだが、そんなもんは、どうでもいいらしい。兄は雇われマスターとして、カフェバーの経営をやっている。それほど、大きな店ではないので、ランチ時はバイトが入るが、それ以外は一人で切り盛りしている。その上、俺の世話もしてくれている。洗濯と掃除くらいがメインだが、休みには、食事も準備してくれるし、頼めばランチボックスもしてくれる。ひとり分も二人分も変わらないから、気にするな、と、おっしゃるのだが、たまには返しておきたいとは思うのだ。
ということで、休日のランチを用意してみることにした。あまり料理は得手ではないから簡単なもので、とりあえず、会社の近所の行きつけの店で教えてもらった。
「今日は、俺がランチを用意してやる。」
「ありがとさん。カップラーメンとかでいいぜ? 」
「バカにすんなよ? 美味いお好み焼きだ。」
「へぇー、それは楽しみだなあ。」
じゃあ、お手並み拝見、と、兄は食卓で観覧するために立ち上がった。
「ニール、ホットプレートって、どこ? あと、ボール。」
ほとんど、台所に立ち入らないので、何がどこに収納されているのかも不明だ。とりあえず、必要なものを出してもらって、荷物を広げた。材料は朝のうちに買い出して来た。
「もんじゃ? 」
「違う。お好み焼き。ちょっと豪華版。」
「でも、それ、キャベツの千切りだよな? サラダ用の。」
取り出した材料に目を留めて、ニールが指摘する。もちろん、本来はキャベツを家で千切りにするものだが、俺には、無理だから代用品としてサラダ用の、すでに千切りになったキャベツを買ってきたのだ。他には、粉に味付けもされているお好み焼き用の小麦粉、タマゴ、紅ショウガ、天カス、お好み焼きソースも完璧に用意してある。これと具材を合わせて焼けば、立派なお好み焼きとなる。
「うるせーっっ、黙ってろ。」
「はいはい。」
粉に水とタマゴを混ぜ合わせ、そこにキャベツ、天カス、紅ショウガを投入して混ぜ合わせる。これでタネは完成だ。とりあえず、メインの具材を取り出して、ホットプレートに置く。
「え? ステーキと有頭エビ? お好み焼きで、そんなもん? 」
「これが美味いんだって。・・・あと、ひき肉を炒めて。」
そして、合挽きミンチをホットプレートで炒めて、これもタネに混ぜ込む。そして、まず、ステーキと有頭エビを塩だけして焼いた。その横に、タネを丸く流し、こちらも焼く。
「へぇー、豚の代わりに合挽きか・・・確かに出汁は出るよな。」
「うん、うちの会社の近所のスペシャルモダンの作り方を教えてもらったんだ。本当は、ソバも入れるんだけど、そこまでは難しいからさ。お好み焼きのほうで。」
「てか、贅沢だなあ。ステーキって、まんま食ったほうがさ。」
「いいから、今日は、俺の好きにさせろ。」
ステーキとエビが焼きあがったら、まだ焼けていないタネの上に載せる。そして、ここからが腕の見せ所だ。買ってきた大きなコテでひっくり返す。両側から差し入れて、軽く持ち上げてくれれば、その流れでひっくり返りますよ、と、店員は教えてくれたので、そのまんま持ち上げた。
べしょっっ
だが、上が重すぎて、コテを滑ってタネが落ちた。バラバラに割れている。
「え? 」
「あー、とりあえず、ちょっと貸せ、ライル。」
コテを取上げたニールは、ちょいちょいと下敷きになったエビとステーキを救出して、器用にタネのほうは丸く成形しなおした。そして、ステーキを細切れにする。さらに、エビは頭を取り、殻も器用にコテと菜箸で外して、こちらも小さくして、タネの上に載せた。
「他には、何を載せるつもりだったんだ? 」
「第二段は牡蠣とイベリコ豚。」
ふーん、と、返事して、もうひとつ、タネを流し込んで、ここに置け、と、兄が用意してくれる。牡蠣とイベリコ豚をタネの上に置く。その間に、ステーキとエビのほうはキレイに焼けた。多少、形は歪になっているが、リカバリーされてはいる。コテで牡蠣のほうのタネを持ち上げて確認すると、はい、どうぞ、と、兄がコテを返してくれた。
「さっきと同じようにやってみな? これなら大丈夫だと思うから。」
「うん。」
さっきよりは慎重にひっくり返したら、今度は、ちゃんと着地した。それを見てから、兄はタマゴをふたつ取り出して、目玉焼きにして、それをふたつのお好み焼きと合体させる。確かに、店でも、こうやってたなあーと思いつつ、俺もソースとマヨネーズを取り出した。
ぺんぺんとコテで叩いて、ちょっと切れ目を入れると中まで火が通っていた。そこでホットプレートを保温に設定して、ソースとマヨネーズをかける。
「おーいい感じだなあ。やっぱ、ビールだよな? 」
と、言いつつ、兄が最後に、かつおぶしをお好み焼きにふりかけた。くなくなとかつおぶしは熱で踊っているように揺れている。そういや、これも必要でした、と、俺も気付いた。
ホットプレートの上のお好み焼きを分割して、ふたりしてビールで乾杯した。熱々のお好み焼きはビールとよく合う。
「ライルの手料理が食べられる日がくるとはなあ。」
「うるせー手料理って、ほどじゃないだろ? ・・・あれ? 店のとは、ちょっと違うな。」
「そりゃ、ライルさんや。ソースが違います。・・・ああいうのは、店で作ってるやつだから市販のより美味い。まあ、これも美味いよ? うん。てか、ステーキと牡蠣って・・・おまえ、普段から贅沢なもん食ってんだなあ。」
「だって、接待用のお好み焼き屋だからさ。こういうのもあるんだよ。せっかくだから、ニールを連れて行ってやろうと思ったのに、あんたが動かないから、こうなったんだ。」
「わざわざ、休日に肩の張った料理なんて面倒だって。このほうがいいよ、俺は。」
バラバラになったはずのステーキのほうも、成形されているから問題はない。それにステーキやエビが中に入っているから、このほうが食べ易い。店で食う時は店員がバラしてくれるから、エビの殻なんて気がつかなかった。
「ニール、お好み焼きって店でも出してるのか? 」
「うち、オシャレなカフェですよ? ライルさん。こんなコテコテの料理はメニューにありません。」
「でも、すぐにリカバリー入れたじゃないか。」
「ジャガイモのパンケーキをバイトに手伝わせてるからさ。たまに失敗されるんで。似た様なもんだから。」
「わざわざ、ランチに出かけなくても、おまえさん、美味いもん、たらふく食ってんだろ? 」
「そうじゃなくてさ。」
「ごめん、休みは一日グダグダしたい。そういうのは、他の人と行ってください。」
「たまには、俺が奢ってやるって言ってんのっっ。タダメシだぞ? 嬉しいだろ? ニール。」
「いや、別に。」
たまには、二人で出かけたいと俺は思うのだが、兄は、言うことを聞いてくれない。俺が転勤で、こっちに来て、兄のところへ転がり込んだので、生活費が、ほとんどかからないからの提案なのだが、そんなもんは、どうでもいいらしい。兄は雇われマスターとして、カフェバーの経営をやっている。それほど、大きな店ではないので、ランチ時はバイトが入るが、それ以外は一人で切り盛りしている。その上、俺の世話もしてくれている。洗濯と掃除くらいがメインだが、休みには、食事も準備してくれるし、頼めばランチボックスもしてくれる。ひとり分も二人分も変わらないから、気にするな、と、おっしゃるのだが、たまには返しておきたいとは思うのだ。
ということで、休日のランチを用意してみることにした。あまり料理は得手ではないから簡単なもので、とりあえず、会社の近所の行きつけの店で教えてもらった。
「今日は、俺がランチを用意してやる。」
「ありがとさん。カップラーメンとかでいいぜ? 」
「バカにすんなよ? 美味いお好み焼きだ。」
「へぇー、それは楽しみだなあ。」
じゃあ、お手並み拝見、と、兄は食卓で観覧するために立ち上がった。
「ニール、ホットプレートって、どこ? あと、ボール。」
ほとんど、台所に立ち入らないので、何がどこに収納されているのかも不明だ。とりあえず、必要なものを出してもらって、荷物を広げた。材料は朝のうちに買い出して来た。
「もんじゃ? 」
「違う。お好み焼き。ちょっと豪華版。」
「でも、それ、キャベツの千切りだよな? サラダ用の。」
取り出した材料に目を留めて、ニールが指摘する。もちろん、本来はキャベツを家で千切りにするものだが、俺には、無理だから代用品としてサラダ用の、すでに千切りになったキャベツを買ってきたのだ。他には、粉に味付けもされているお好み焼き用の小麦粉、タマゴ、紅ショウガ、天カス、お好み焼きソースも完璧に用意してある。これと具材を合わせて焼けば、立派なお好み焼きとなる。
「うるせーっっ、黙ってろ。」
「はいはい。」
粉に水とタマゴを混ぜ合わせ、そこにキャベツ、天カス、紅ショウガを投入して混ぜ合わせる。これでタネは完成だ。とりあえず、メインの具材を取り出して、ホットプレートに置く。
「え? ステーキと有頭エビ? お好み焼きで、そんなもん? 」
「これが美味いんだって。・・・あと、ひき肉を炒めて。」
そして、合挽きミンチをホットプレートで炒めて、これもタネに混ぜ込む。そして、まず、ステーキと有頭エビを塩だけして焼いた。その横に、タネを丸く流し、こちらも焼く。
「へぇー、豚の代わりに合挽きか・・・確かに出汁は出るよな。」
「うん、うちの会社の近所のスペシャルモダンの作り方を教えてもらったんだ。本当は、ソバも入れるんだけど、そこまでは難しいからさ。お好み焼きのほうで。」
「てか、贅沢だなあ。ステーキって、まんま食ったほうがさ。」
「いいから、今日は、俺の好きにさせろ。」
ステーキとエビが焼きあがったら、まだ焼けていないタネの上に載せる。そして、ここからが腕の見せ所だ。買ってきた大きなコテでひっくり返す。両側から差し入れて、軽く持ち上げてくれれば、その流れでひっくり返りますよ、と、店員は教えてくれたので、そのまんま持ち上げた。
べしょっっ
だが、上が重すぎて、コテを滑ってタネが落ちた。バラバラに割れている。
「え? 」
「あー、とりあえず、ちょっと貸せ、ライル。」
コテを取上げたニールは、ちょいちょいと下敷きになったエビとステーキを救出して、器用にタネのほうは丸く成形しなおした。そして、ステーキを細切れにする。さらに、エビは頭を取り、殻も器用にコテと菜箸で外して、こちらも小さくして、タネの上に載せた。
「他には、何を載せるつもりだったんだ? 」
「第二段は牡蠣とイベリコ豚。」
ふーん、と、返事して、もうひとつ、タネを流し込んで、ここに置け、と、兄が用意してくれる。牡蠣とイベリコ豚をタネの上に置く。その間に、ステーキとエビのほうはキレイに焼けた。多少、形は歪になっているが、リカバリーされてはいる。コテで牡蠣のほうのタネを持ち上げて確認すると、はい、どうぞ、と、兄がコテを返してくれた。
「さっきと同じようにやってみな? これなら大丈夫だと思うから。」
「うん。」
さっきよりは慎重にひっくり返したら、今度は、ちゃんと着地した。それを見てから、兄はタマゴをふたつ取り出して、目玉焼きにして、それをふたつのお好み焼きと合体させる。確かに、店でも、こうやってたなあーと思いつつ、俺もソースとマヨネーズを取り出した。
ぺんぺんとコテで叩いて、ちょっと切れ目を入れると中まで火が通っていた。そこでホットプレートを保温に設定して、ソースとマヨネーズをかける。
「おーいい感じだなあ。やっぱ、ビールだよな? 」
と、言いつつ、兄が最後に、かつおぶしをお好み焼きにふりかけた。くなくなとかつおぶしは熱で踊っているように揺れている。そういや、これも必要でした、と、俺も気付いた。
ホットプレートの上のお好み焼きを分割して、ふたりしてビールで乾杯した。熱々のお好み焼きはビールとよく合う。
「ライルの手料理が食べられる日がくるとはなあ。」
「うるせー手料理って、ほどじゃないだろ? ・・・あれ? 店のとは、ちょっと違うな。」
「そりゃ、ライルさんや。ソースが違います。・・・ああいうのは、店で作ってるやつだから市販のより美味い。まあ、これも美味いよ? うん。てか、ステーキと牡蠣って・・・おまえ、普段から贅沢なもん食ってんだなあ。」
「だって、接待用のお好み焼き屋だからさ。こういうのもあるんだよ。せっかくだから、ニールを連れて行ってやろうと思ったのに、あんたが動かないから、こうなったんだ。」
「わざわざ、休日に肩の張った料理なんて面倒だって。このほうがいいよ、俺は。」
バラバラになったはずのステーキのほうも、成形されているから問題はない。それにステーキやエビが中に入っているから、このほうが食べ易い。店で食う時は店員がバラしてくれるから、エビの殻なんて気がつかなかった。
「ニール、お好み焼きって店でも出してるのか? 」
「うち、オシャレなカフェですよ? ライルさん。こんなコテコテの料理はメニューにありません。」
「でも、すぐにリカバリー入れたじゃないか。」
「ジャガイモのパンケーキをバイトに手伝わせてるからさ。たまに失敗されるんで。似た様なもんだから。」
作品名:らいにる お好み焼き 作家名:篠義