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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~クリスマスケーキ~

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なんだか、こいつの長い髪を焼いてしまいそうだな。
そんな事をつらつら思いながら当麻は傍らの亜由美を見た。
蝋燭の明かりに照らされた亜由美の顔はどことなく神妙で綺麗だった。
聖母役をしたといったときは笑ったが、この顔を見ていれば似合っていたかもしれないと思う。
散々、家の宗教をけなしていた亜由美だったが、クリスマスは違う。
毎年、教会に行かなくても賛美歌を口ずさむこともあったし、どことなく楽しそうだった。
それだけクリスマスは思い出深いのだろう。
それに亜由美の大嫌いは大好きだということも最近よくわかるようになってきた。本人が自覚しているのはほとんどなかったが。
そんなに思い出や家族が大事ならたまには家に帰ればいいのに、と当麻はつくづく思った。
ミサが終わり、当麻達は教会を後にする。
「はぁー。楽しかった」
と言って亜由美は慌てて口をふさぐ。
普段、散々けなしていてこんな発言をしたとなっては矛盾もいいところだし、当麻にあきれられる気がしたからだ。
だが、その発言を当麻は聞き逃さなかった。
「そんな事言うならたまには実家にもどれよ。今度の年末年始ぐらい帰ったどうだ?」
やぁよ、と亜由美が嫌そうに言う。
「皆と過ごせる最後のお正月なのに、なんで帰らなきゃいけないのよ。帰ったら嫌でも家族と一緒なのに」
まったく、天邪鬼なんだからな。
当麻が独り言を言う。
ねぇ、と亜由美が言う。
「ケーキ買って」
「もう店閉まっているだろう? 今回はあきらめろ」
ええー、と文句を亜由美が言う。
「もしかして、ケーキ買いたくないから教会に行ったんじゃないでしょうね」
「なわけないだろうが。お前が相変わらず悩んでるから付き合ったんだろう? 亜由美として生きてきた思い出も亜遊羅としての思い出も全部あゆの思い出だと俺は言いたかっただけだ。その証拠に楽しかったんだろう?」
当麻の言葉に亜由美が言葉をまた失う。
その通りだ。ミサを受けている間、昔の自分と同じだった。
亜由美はミサの荘厳な雰囲気が昔から好きだった。
宗教儀礼として考えるよりもミサは自分にとって子守唄のようだったのだ。
だから、ミサを受けていると純粋に楽しいのだ。そこに宗教的な思惑は一つもない。
その感情は昔に帰ったわけでもない、今の自分の感情だった。
そこで別に過去を失ったわけではない、と思い知らされた。
本当に当麻にはかなわない。
「もうっ。人の考えていることずばずば当てないでよ。
もうちょっと鈍感になってよね」
そう言って亜由美は当麻の肩に頭を預ける。
「悪いな。この優秀な頭脳が何事もはじき出してくれるから。それに鈍感な馬鹿にはなりたくない」
そう言って肩に回していた手に軽く力をこめる。
別に何事も分かっているわけではない。亜由美は当麻にとって一番の謎だ。
だが、そんな事を今、言う気はない。そんな事を言うとますます付け入られる気がする。
いずれ言うことがあるかもしれないが。
ねぇ、と亜由美が言う。
「クリスマス・プレゼント何が欲しい?」
別にいらない、と当麻が短く答える。
折角、プレゼントしてあげるのに、とかなんとかぶつぶつ亜由美が言う。
その声に当麻が答える。
「俺にはお前がいたらそれだけで十分幸せだから」
お前は何が欲しい?、と逆に尋ねると同じ答えが帰ってきた。
「私もいらない。当麻と皆がいてくれたらそれでいい」
二人はお互いに手を回して歩く。
ナスティは大胆に征士の腕に腕を絡ませ、征士に極度の緊張を与えている。
一方、遼と迦遊羅は幼稚園児カップルのように仲良く手をつないでいる。
三組の恋人同士がそれぞれ思い思いに歩く。
あ、でもと亜由美が声を上げた。
「やっぱり、ケーキ買って」
その言葉に当麻が笑う。
「わかった。来年のクリスマスには欲しいほど買ってやるから」
わーい、とうれしそうに亜由美が声を上げる。
この時、この約束が拡大解釈されて毎年クリスマスケーキを買うことになるとは当麻も思いもしなかった。