プロポーズ
ひるなかの流星【プロポーズ】馬村×すずめ
今日は2週間ぶりの馬村とのデートだった。
社会人になった2人は高校時代のように毎日会うことなど出来るはずもなく、月に2、3度休日に会ったり、仕事帰りに食事をする程度だ。
12月1日のすずめの誕生日は平日であったため、馬村の仕事の都合が付かずその週の土曜日、今日デートすることになったのだ。
昼間から洋服を見たり、本屋に行ったりと色々買い物をしていたため、さすがに歩き疲れて近くのカフェに入ることにした。
普段から愛想笑いなどしない彼は、機嫌がいいのか悪いのか、付き合って6年経った今でも分からないことがある。けれども、何か怒っているときはきちんと理由を言ってくれるし、むしろ喜怒哀楽の喜が一番わかりづらい。
それにしても今日の馬村は変だとすずめは思う。
すずめの話に耳を傾け、相づちをうってはいるがどこか上の空だ。
『まーむーらー』
『…あぁ』
『おにぎり食べる?』
『…あぁ』
さすがのすずめも、いつもとどこか違う様子に黙っていられなくなり、向かいに座る馬村の頬をツンツンしてみる。
昔よりは遥かにマシになったものの、馬村の赤面癖は相変わらずで、すずめとは何度も身体を重ねているにも関わらず急に触られると真っ赤になってしまう。
(あれ…今日は反応しない…)
そんな馬村の様子が段々と面白くなってきて、すずめの行為もエスカレートしていく。
鼻をツンツンしたり、おでこを触ってみたりしていたが、急に思い付いたように腰を上げると、馬村の唇にキスを落とした。
『…っ!?』
『おっ、やっと気がついたかね?』
何が起こったのか分からず、赤面する馬村にすずめはニヤリと笑って見せた。
『私の話も聞かずにボーッとしてるからだよ』
『おまっ…ここどこだと思って…!!』
店内にいる客はカップルだったり友達同士だったりだか、いずれも話に夢中でこちらなど見てはいない。
すずめもそれが分かっているから、不意打ちでキスしたのたが、目の前で慌てふためく馬村が面白い。
『で…?どうしたの?』
『…なにが?』
今日ちょっとおかしいよ、とすずめが言うと照れたように何でもないと返してくる。
『なぁ、予約したレストランまでちょっと遠いから、もう行くか…』
『あ…うん』
話題を変えようとしているのがバレバレだが、機嫌が悪いわけではないらしいので、とりあえず放っておくことにした。
カフェから電車を乗り換え、駅からさらに10分くらい歩くと、駅前のような喧騒も消え、路地に入り辺りもシンとする。
レストランがありそうな雰囲気ではないなとすずめが思い始めていた時、小さな看板を出している木造の建物があった。
一見普通の民家のような造りだが、白を基調とした壁にところどころ、ウサギや熊の絵が描かれていてそのひとつひとつが、おいでおいでと手招きしている。
大きな窓ガラスから、中の様子が見える。間違いなくレストランのようだが、まだ早い時間だからか客は一人もいない。
『ここだよ』
馬村がドアを開け、すずめを先に通す。馬村としか付き合ったことがないすずめだが、世の中の男性はこうも完璧に女性をエスコート出来るものなのかと不思議に思う。
『あ、うん。ありがとう』
中に入ると、すかさずすずめのバッグを持ちコートを脱ぐように促す。自身のコートも脱ぐとまとめて店員に渡した。
優しくて気配り上手で、何度助けられたか分からない。どうしてこの人が自分のことを好きになってくれたのか、どうしても分からなかった。しかし、声を聞いて、優しさに触れる度にすずめは大好きだなあと思う。
店員に席に案内されると、メニューもまだもらっていないのに、食前酒にシャンパンを出される。そのことを不思議に思っていると、何となく察してくれたのか馬村が口を開く。
『全部、予約しといたから。ちなみに貸しきり』
『えぇぇ!?』
すずめの驚きっぷりが面白かったのか、馬村が笑う。
『とりあえず乾杯するか…誕生日おめでとう』
『ありがとう…嬉しい』
軽くグラスを合わせると、シャンパンを口に含んだ。
『…っ、美味しい~これ』
『好きだと思った…これ。ここ料理も上手いけど、食べ過ぎるなよ』
『うん!!』
シャンパンが飲み終わる頃を見計らったように、料理が運ばれてくる。
それは、馬村の言ったとおり前菜もメインディッシュも申し分がないほどの美味しさだった。
しばらくの間、すずめが食べることに没頭していて会話がなくなった。しかし、それもいつものことで、馬村もそれでよしとしている。
すずめがデザートを食べ終えると、それを待っていたように馬村が口火を切った。
『プレゼント…これ…』
馬村が指を指した先には、テーブルに元々置かれていた花瓶だった。小さくて可愛らしいグラス型の花瓶の中には、ピンクと白のバラが生けてある。
(プレゼント…って花のこと…かな?まさか花瓶じゃないし…)
『バラ…?ありがとう』
『おまっ…気づけよ!!』
すずめが、バラを手に取り持ち上げると、花びらの間からコロンと何かが落ちた。
『えっ…?これ?』
それは、バラの花びらの中心に置いてあったと思われる指輪で、すずめでも分かるぐらいのダイヤモンドが付いていた。
『俺と結婚してください…ってこと!!』
言いながら、真っ赤になって頭を抱えてしまった馬村がいとおしくて、いとおしくて、何故かすずめの目から涙がこぼれ落ちる。
(あ…嬉し泣きだ…これ)
今日馬村が上の空だった理由が分かる。間違いなく緊張していたのだ。
いつもいつも優しくて、どうすればすずめが幸せになれるかを一番に考えてくれる。
断る理由なんてもちろんない。しかし、溢れだした涙が止まらなくなり、一言も言葉を発することが出来なくなってしまった。
『…っ!?てかおまえなに泣いて…』
『うぇ…ふっ…う~』
いくら貸しきりとはいえ、あまりの泣きっぷりに、プロポーズの最中に話に入るなんて下世話なことはしなそうな店員が、温かいお茶をそっとすずめの前に置いてくれた。
お茶を一口飲むと落ち着くかと思われたが、すずめの嬉し涙は止まることがなかった。
すずめは言葉の代わりに、左手を馬村に向けて差し出す。
すぐにそれを察した馬村が、指輪をすずめから受け取ると、左手の薬指にそれをはめた。
『あり…が…と』
やっとのことで、すずめがそれだけ言うと馬村も笑った。
『まだ全部じゃないし…』
『?』
馬村がバラの入った花瓶をどけると、花瓶の下から小さな袋が出てきた。
『これもやる』
『なに…?』
謎解きをしないまま、馬村はサクサクと会計を済ませ帰る準備を始める。
袋の中を見ることも出来ずに、すずめは後で開けようとコートのポケットに入れておいた。
『ここにはまた来ることになるからな。あんまり恥ずかしいことは言いたくないんだよ…』
コートを着ながらボソッと呟くように言うと、店を後にした。
すずめの手を引きながら歩いて行くが、それは、来た道とは反対方向だった。
ものの5分もしないうちに、馬村は小綺麗なマンションの前で立ち止まる。
『ここ…着いてきて』
エレベーターで5階まで上がると、角にある部屋の鍵を開けた。
『さっきの袋、ここの部屋の鍵だから』
『へっ?馬村…一人暮らしすんの?』
今日は2週間ぶりの馬村とのデートだった。
社会人になった2人は高校時代のように毎日会うことなど出来るはずもなく、月に2、3度休日に会ったり、仕事帰りに食事をする程度だ。
12月1日のすずめの誕生日は平日であったため、馬村の仕事の都合が付かずその週の土曜日、今日デートすることになったのだ。
昼間から洋服を見たり、本屋に行ったりと色々買い物をしていたため、さすがに歩き疲れて近くのカフェに入ることにした。
普段から愛想笑いなどしない彼は、機嫌がいいのか悪いのか、付き合って6年経った今でも分からないことがある。けれども、何か怒っているときはきちんと理由を言ってくれるし、むしろ喜怒哀楽の喜が一番わかりづらい。
それにしても今日の馬村は変だとすずめは思う。
すずめの話に耳を傾け、相づちをうってはいるがどこか上の空だ。
『まーむーらー』
『…あぁ』
『おにぎり食べる?』
『…あぁ』
さすがのすずめも、いつもとどこか違う様子に黙っていられなくなり、向かいに座る馬村の頬をツンツンしてみる。
昔よりは遥かにマシになったものの、馬村の赤面癖は相変わらずで、すずめとは何度も身体を重ねているにも関わらず急に触られると真っ赤になってしまう。
(あれ…今日は反応しない…)
そんな馬村の様子が段々と面白くなってきて、すずめの行為もエスカレートしていく。
鼻をツンツンしたり、おでこを触ってみたりしていたが、急に思い付いたように腰を上げると、馬村の唇にキスを落とした。
『…っ!?』
『おっ、やっと気がついたかね?』
何が起こったのか分からず、赤面する馬村にすずめはニヤリと笑って見せた。
『私の話も聞かずにボーッとしてるからだよ』
『おまっ…ここどこだと思って…!!』
店内にいる客はカップルだったり友達同士だったりだか、いずれも話に夢中でこちらなど見てはいない。
すずめもそれが分かっているから、不意打ちでキスしたのたが、目の前で慌てふためく馬村が面白い。
『で…?どうしたの?』
『…なにが?』
今日ちょっとおかしいよ、とすずめが言うと照れたように何でもないと返してくる。
『なぁ、予約したレストランまでちょっと遠いから、もう行くか…』
『あ…うん』
話題を変えようとしているのがバレバレだが、機嫌が悪いわけではないらしいので、とりあえず放っておくことにした。
カフェから電車を乗り換え、駅からさらに10分くらい歩くと、駅前のような喧騒も消え、路地に入り辺りもシンとする。
レストランがありそうな雰囲気ではないなとすずめが思い始めていた時、小さな看板を出している木造の建物があった。
一見普通の民家のような造りだが、白を基調とした壁にところどころ、ウサギや熊の絵が描かれていてそのひとつひとつが、おいでおいでと手招きしている。
大きな窓ガラスから、中の様子が見える。間違いなくレストランのようだが、まだ早い時間だからか客は一人もいない。
『ここだよ』
馬村がドアを開け、すずめを先に通す。馬村としか付き合ったことがないすずめだが、世の中の男性はこうも完璧に女性をエスコート出来るものなのかと不思議に思う。
『あ、うん。ありがとう』
中に入ると、すかさずすずめのバッグを持ちコートを脱ぐように促す。自身のコートも脱ぐとまとめて店員に渡した。
優しくて気配り上手で、何度助けられたか分からない。どうしてこの人が自分のことを好きになってくれたのか、どうしても分からなかった。しかし、声を聞いて、優しさに触れる度にすずめは大好きだなあと思う。
店員に席に案内されると、メニューもまだもらっていないのに、食前酒にシャンパンを出される。そのことを不思議に思っていると、何となく察してくれたのか馬村が口を開く。
『全部、予約しといたから。ちなみに貸しきり』
『えぇぇ!?』
すずめの驚きっぷりが面白かったのか、馬村が笑う。
『とりあえず乾杯するか…誕生日おめでとう』
『ありがとう…嬉しい』
軽くグラスを合わせると、シャンパンを口に含んだ。
『…っ、美味しい~これ』
『好きだと思った…これ。ここ料理も上手いけど、食べ過ぎるなよ』
『うん!!』
シャンパンが飲み終わる頃を見計らったように、料理が運ばれてくる。
それは、馬村の言ったとおり前菜もメインディッシュも申し分がないほどの美味しさだった。
しばらくの間、すずめが食べることに没頭していて会話がなくなった。しかし、それもいつものことで、馬村もそれでよしとしている。
すずめがデザートを食べ終えると、それを待っていたように馬村が口火を切った。
『プレゼント…これ…』
馬村が指を指した先には、テーブルに元々置かれていた花瓶だった。小さくて可愛らしいグラス型の花瓶の中には、ピンクと白のバラが生けてある。
(プレゼント…って花のこと…かな?まさか花瓶じゃないし…)
『バラ…?ありがとう』
『おまっ…気づけよ!!』
すずめが、バラを手に取り持ち上げると、花びらの間からコロンと何かが落ちた。
『えっ…?これ?』
それは、バラの花びらの中心に置いてあったと思われる指輪で、すずめでも分かるぐらいのダイヤモンドが付いていた。
『俺と結婚してください…ってこと!!』
言いながら、真っ赤になって頭を抱えてしまった馬村がいとおしくて、いとおしくて、何故かすずめの目から涙がこぼれ落ちる。
(あ…嬉し泣きだ…これ)
今日馬村が上の空だった理由が分かる。間違いなく緊張していたのだ。
いつもいつも優しくて、どうすればすずめが幸せになれるかを一番に考えてくれる。
断る理由なんてもちろんない。しかし、溢れだした涙が止まらなくなり、一言も言葉を発することが出来なくなってしまった。
『…っ!?てかおまえなに泣いて…』
『うぇ…ふっ…う~』
いくら貸しきりとはいえ、あまりの泣きっぷりに、プロポーズの最中に話に入るなんて下世話なことはしなそうな店員が、温かいお茶をそっとすずめの前に置いてくれた。
お茶を一口飲むと落ち着くかと思われたが、すずめの嬉し涙は止まることがなかった。
すずめは言葉の代わりに、左手を馬村に向けて差し出す。
すぐにそれを察した馬村が、指輪をすずめから受け取ると、左手の薬指にそれをはめた。
『あり…が…と』
やっとのことで、すずめがそれだけ言うと馬村も笑った。
『まだ全部じゃないし…』
『?』
馬村がバラの入った花瓶をどけると、花瓶の下から小さな袋が出てきた。
『これもやる』
『なに…?』
謎解きをしないまま、馬村はサクサクと会計を済ませ帰る準備を始める。
袋の中を見ることも出来ずに、すずめは後で開けようとコートのポケットに入れておいた。
『ここにはまた来ることになるからな。あんまり恥ずかしいことは言いたくないんだよ…』
コートを着ながらボソッと呟くように言うと、店を後にした。
すずめの手を引きながら歩いて行くが、それは、来た道とは反対方向だった。
ものの5分もしないうちに、馬村は小綺麗なマンションの前で立ち止まる。
『ここ…着いてきて』
エレベーターで5階まで上がると、角にある部屋の鍵を開けた。
『さっきの袋、ここの部屋の鍵だから』
『へっ?馬村…一人暮らしすんの?』