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絆 【DOD カイアン】

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 強大な力を持つドラゴンの力が、封印を施された苦痛から暴走してしまうのではないか。そして暴走により、再び封印が壊れて世界が崩壊の危機に瀕してしまうのではないか、と。
 女神に選ばれた者たちは、封印の負荷により苦痛を与えられることが原因で、一様に短命であった。そんな女神達と同じ苦痛を、アンヘルは請け負っているのだ。人間と比べると強靭な肉体を持っているとはいえ、痛みを感じないわけではない。歴代の女神達と同じように苦痛を与えられ続けている身体が、一体どこまで封印の負荷に耐えられるものなのだろうか。
 そうした恐怖が次第に大きなものとなっていき、いつ訪れるかわからないその時を見越して、神官長はアンヘルの身に施した封印の術式を、新しいものへと変化させた。
 それまでは三つの場所と女神に施されていた封印を改変し、女神に施された封印はそのままに新たに五つの鍵を作り、女神と鍵によって強固な封印を作り上げる。だがこれにより、女神はあらゆる自由を奪われてしまい、身動きを取ることも声を飛ばすことも出来ぬ闇に閉じ込められるような状態に陥ってしまうことになった。
 アンヘルの声が途絶えた時点では、まだ改変された封印は完璧な物ではなかったのだが、それでも、アンヘルの身に更なる負荷が加えられたということは確かなことだ。かつては仲間であったはずの神官長の裏切り、そして、新たに施された封印によって苦痛を受けるアンヘル。この二つの事実を前に、カイムの中で薄れ始めていた怒りの感情が再び強くなっていくのは当然のことだった。
 一時はまだ完成していなかった封印を阻止する為、封印を施した神官長、そして新たな封印の鍵となる一人の男を殺害することで、新たな封印を妨害することに成功する。だがその後、別の男が最後の鍵となってしまった為に、未完成だった封印が完成してしまった。
 封印が完成したことで、今までよりも遙かに強い負荷を背負うことになってしまったアンヘル。そんなアンヘルへと、カイムは何度も声を飛ばし続ける。しかし、やはりというか返ってくる声は無く、懐かしいその声を聞くことは出来なかった。
 誰よりも側に居て、自分の醜い部分まで全てを理解してくれた、誰よりも大切な存在。それが今、その身を犠牲にしてまで守った人の手で、苦痛を虐げられている。
 そんな理不尽な現実を前に、身の内に滾る怒りの感情を湧き上がらせていくカイム。
 そして、カイムはある一つの大きな決断をしたのだった。

 アンヘルがカイムの前から姿を消して、十八年。
 新たに施された封印の鍵が全て壊され、枷の外されたアンヘルは再び自由の身を取り戻すことが出来た。しかし、長く苦痛を与えられ続けていたことから、その身の内には自分を虐げた人間への怒りと憎悪とが渦巻いており、最早理性すら失ってしまっていた。
 あれ程大切であったはずのカイムの名すら忘れ、ただ憎しみに駆られて破壊を行い、世界を業火に包まんと炎を吐き続ける。
 だがそんな中でも、アンヘルは無意識にカイムを捜し続けていた。憎しみに支配され、その名前すら忘れてしまったというのに、それでも、封印という暗闇の中に居た自分へと声を掛け続けていた男を捜し続けていたのだ。
 荒れ狂い、炎を吐きながらも空を舞うアンヘルへと、懸命にカイムは声を掛け続ける。例え自分のことなど忘れられてしまっていたとしても、何度も、何度も、その声がアンヘルの下へと届くことを信じて。
 そして全てを多い尽くすかのような炎が鎮火し、辺りに久方ぶりの静寂が訪れたときのこと。カイムの目の前には、傷つきながらも地に座り込むアンヘルの姿があった。
 炎のように赤い身体には赤黒い術式が浮び上がり、傷ついた身体からは多量の血が噴出している。それでも、何度も呼び続けたカイムの声により自我を取り戻すことの出来たアンヘルは、酷く落ち着き払っているように見えた。
 そして、血の滴る身体を持ち上げながらもカイルを真っ直ぐに見据えると、掠れるような弱い声で、静かに言葉を呟く。何度も声を掛けてくれていたのだな、と。
 離れてしまった十八年の間、幾度と無くカイムはアンヘルの名を呼んでいた。声が聞こえなくなった後も、封印が完成してしまった後も、何年もの間休むことなく。ただ、その声がアンヘルへと届くことを信じて。
 そしてその声は、確かにアンヘルへと届いていたのだ。
 弱々しくアンヘルの口から発せられた言葉に、カイムがほんの少しだけ口元に笑みを浮かべる。そして同時に酷く切なげに表情を歪ませると、アンヘルの鼻面へと手を伸ばし、硬い皮膚の上にそっと手のひらを乗せてゆっくりとした動作でその場所を撫でてやった。
 一回、二回と撫でるその手のひらの皮は、幾度も剣を振るったことで肉刺も潰れて硬くなり、お世辞にも綺麗とはいえないものだろう。しかしアンヘルは、そうしたカイムの手のひらで鼻面を撫でられるたびに気持ちよさげに息を漏らし、一度だけ深く瞼を閉じると触れる手のひらに鼻面を擦りつけた。
 そしてカイムが静かにアンヘルから手を離したとき、アンヘルの赤い身体が大きく揺らめき、その巨体が地面の上へと倒れていく。全てに満足したかのようにして瞼を閉じ、羽を開くこともせず、ただ力なくその場に横たわるだけのアンヘル。
 その身体には、これ以上身体を起こしておくだけの体力も、瞼を開くだけの気力も、最早残されては居なかったのだ。

―もう、良いのか? カイム

 横たわったアンヘルの身体を、炎が包み込んでいく。そしてその炎は、アンヘルと契約を交わしているカイムの身体をも包み込んでいった。
 互いの心臓を移し変え、生死を共にする契約という行為。片方が死を迎えればもう片方も共に死を迎える、その意味を露にするようにして、二人の背後に死というものが迫り来ていた。
 深紅の炎に包まれながらも、横たわったアンヘルの口から漏れ出た声がカイムへと届く。その声には先ほどのような痛々しさは感じられず、封印が施される前のような気高さと、カイムと共に居た時に見せた穏やかさを感じることが出来た。

―ああ、行こう。共に……

 その声に、カイムが声を使って語りかける。
 最早胸の内を支配していた負の感情は消え去っており、ただ再び出会えたことに対する嬉しさと、アンヘルへと向けられた優しさが溢れていた。

 十八年前のあの日、帝国に攻め入られた女神の城の中庭で、アンヘルとカイムは初めて出会った。
 傷付いた身体を引きずりながらも、両親を殺したドラゴンへの復讐を果たす、ただその為だけに契約を迫ったカイム。そしてアンヘルも、カイムの身の内から湧き出る負の感情に惹かれて契約を交わした。
 きっかけはそれだけだったはずなのに、共に戦場を駆ける内に互いを理解し、信頼と呼べる関係を築き上げていった二人。人とドラゴンという種族すら超え、他の誰よりも強固な絆を結んでいったカイムとアンヘル。
 共にあったときよりも、離れていた時間のほうが遙かに長いというのに、それでも、耳に届くその声を、触れた手のぬくもりを忘れることなど無かった。例え自我を失くそうと、その声を聞くことが出来なくても、誰よりも大切な相手のことを自分の中から消し去ることなど出来なかった。
作品名:絆 【DOD カイアン】 作家名:みー