モータープール
一.
ルダウワの奥・裂け谷の館に、ゴンドールから使者が来た。
初夏の陽を浴びながら、黒馬に跨がった使者が森を抜けてくるのを、館の主であるエルロンドは最上階の自室から眺めていた。
彼は、黒馬の乗り手が仕えている人物をよく知っていた。
真面目で不器用で、誰よりも民を大切にしていた優しい男。そして、おそらく何年経っても忘れることのできない男。思い出す度に、怒りと憎しみで胸が焼けつきそうになる。サウロンを滅ぼして以降、もうずっと会っていないし、一方的に国との行き来を無くしたので彼がどうなったのか、何も分からなかった。一時の欲に惑わされ、邪悪に飲まれた愚かな人間のことなど、知りたいとも思わないが。
「今更何用だ、イシルドゥア」
そう呟くと、室内に戻り、やがて取り次ぎに来るであろう使用人を待った。