モータープール
深い茶のガウンを羽織ると、エルロンドは客間に下りた。天井の高い客間は、部屋の南側を窓にしてある為いつも明るい。その光の中に、使者は立っていた。そしてエルロンドの姿に気付くと、丁寧に頭を下げた。
使者の挨拶が一通り済むのを待って、エルロンドは彼に席とメイドの運んできた茶を勧めつつ、ソファに身を沈めて緩やかに足を組んだ。
「王はお元気かな?あれから随分お会いしてはいないが」
ほんの挨拶のつもりだった。茶を飲みながらぽつりと言った言葉に、使者の男はふと表情を曇らせた。
「…イシルドゥアに…なにか?」
ソーサーにカップを戻すと、少し身を乗り出すようにして表情を窺う。
男は暫く俯いていたが、やがて両手を膝の上で握りしめ、何かを決したように顔を上げると真直ぐエルロンドを見た。
彼を最後に見たのは、イシルドゥアと決裂した二年前だ。だが目の前にいる彼は、まるで二十年も過ぎたように顔には小さな皺が刻まれ、髪には白いものが混じり始めている。サウロンを倒し、残党のオーク達から国を護り、立て直していくことは、ただの人間である彼等の姿をこうも老いさせる程、過酷なものだったのかと思った。
それに引き換え、エルロンドの姿は殆ど変わらない。種族の違いとはいえ、不思議な気持ちになる。
男が、口を開いた。
「王が昨日…亡くなりました。末の王子を残して、他の王子と共にあやめ川で。今日はそのことをお伝えに参上したのです」
重い言葉だった。だが、エルロンドの表情は動かなかった。
「…指輪に殺されたか…」
「え?」
「いえ、こちらのことですよ」