『大好き』
「大好き」
イタリアへの好意に気づいてから、何度この言葉に心を乱されたか。
だが、あいつは何も知らず、今日も無邪気に言い放つのだ。
『大好き』
「ドイツー」
執務中の俺の背中に、イタリアがいきなり乗っかってきた。
「…イタリア、執務中は邪魔するなと言っただろう」
軽く注意をしても「ヴェー」と言うだけで、手を離そうとしない。ため息をついて書類に向き直った直後、肩に頬をすりよせて、おもむろにイタリアは言った。
「ドイツだーい好き」
紙の上を走る手が、一瞬止まった。
「……そうか」
小さいため息と共にそれだけ言って、止まった手を動かす。
「ねぇ、ドイツは?」
「?」
「ドイツは、俺のこと好き?」
心臓が、跳ねた。
「…っ、ああ」
一呼吸おいて、あいつが望む言葉を言う。
「俺も、だ」
耳元でフッと笑った気配がした。
「そっか」
そして
「一緒だね、ドイツ」
「…―――――――――っ!」
違う、と叫びそうになるのをこらえ、何とか平静を保つ。
「あ、ちょっとトイレ」
そう言って、イタリアは首もとの腕を解いた。手が離れる一瞬、指先が少しだけ耳に触れた。
ビクリと震えた俺に、もう部屋を出たイタリアが気づくはずもなく、バタンと扉が閉まる音が響いた
「~~~~~~~~ッ」
両手で顔を覆い、さっき言えなかった言葉を響かない程度の音量で叫ぶ。
「違、うっ!」
違うんだ。俺が言う「大好き」と、あいつが言う「大好き」は全くの別物なのだ。
「イタ、リアッ」
嗚呼、
「………ッ」
こんなにも、この言葉たちの意味は
「愛、してるっ!」
近くて、遠い。