『大好き』
「愛、してるっ!」
ドイツのこの言葉を聞いて、俺は静かに扉の前を離れた。
「俺もだよ、ドイツ」
笑いながら、長い廊下を歩き出した。
もう寝ようと思って部屋に向かっていたとき、ふいに兄ちゃんに呼び止められた。
「どうしたの、兄ちゃん」
兄ちゃんは自分が呼び止めたくせに、変な顔で「あー」とか「うー」とか唸って、一向に話そうとしない。
「兄ちゃん?」
俺が呼び掛けて、ようやく決心したのか、兄ちゃんは話し出した。
「いや、ヴェネチアーノが最近やけに楽しそうなもんだから、あのジャガイモ野郎とうまくいってんのかと思ったんだが…」
「え、ドイツと?まだ付き合ってないよー。だってドイツ、つい最近、俺のこと好きになったんだもん」
そう言うと、兄ちゃんは怪訝な顔をした。
「?じゃあとっとと付き合っちまえばいいじゃねぇか」
「も~、わかってないなぁ兄ちゃんは。こういうのは…」
ヴェネチアーノが去っていった方を見て、俺はため息をついた。
「まったく、今回ばかりはあいつに同情するぜ」
さっきの言葉を思い出す。
『こういうのは、焦らした方がいいんだよ』
そう言って笑ったヴェネチアーノの瞳には、外見に似合わない、歪んだ欲望が映っていた。
『焦らして焦らして焦らして、ドイツの中を俺でいーっぱいにするんだ。そうしたら、もうドイツは俺のことしか見えなくなるでしょ?』
コテンと首を傾ける可愛さと、言い放つ言葉のあざとさが、やけにアンバランスなのに、不思議と違和感を感じなかった。
「ま、ヴェネチアーノが幸せなら、いいか…」
俺も眠るため、部屋に向かった。
ベッドの中で、ドイツのことを考えていた。
「今日も可愛かったなぁ」
ねぇ、ドイツ、俺、全部気づいてるんだよ?
俺の言葉に動揺して手を止めたのも、俺の言葉に「違う」って言いそうになったのも、指が耳に触れとき、過剰に反応したのも。
「早く、堕ちないかな…」
まぶたの裏にドイツの姿を描く。
「おやすみ、ドイツ」
「愛してる」