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emotional

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「シズちゃん身体大丈夫?」
ミネラルウォーターのフタを開け、一口飲んでから静雄に向かって差し出す手はさきほどまで散々に痛めつけてくれた人間の憎い手だった。
「そんなこと聞くくらいなら手前のその歪んだ愛情表現を止めてもらいたいね」
そんな毒を吐くと臨也は眉をよせてもう一口水を飲んでからベッドへと座った。ギシリ、と音をたててベッドが沈む。静雄は横に座った臨也を横たわったまま見つめる。
「でもさ、シズちゃんをどんな方法を使って抱いても君の怒りによって異常な力を出す筋肉は俺を傷つけない。それってさ」
にやり、と臨也は笑った。その言葉の続きは容易に想像できる。静雄は臨也から目をそらした。後ろからはくすり、と喉から漏れる声が聞こえる。
「俺に抱かれるのを嫌がってないってとってもいいんだよねぇ」
「うるせぇ」
「まぁ、今度からはアブノーマルな小道具はなしにするよ。あまりにもアブノーマルなプレイに慣れすぎると俺じゃ満足できなくなっちゃうからね。そうなったら困るし」
臨也はくすくすとはにかんだように笑う。静雄は言い返したい言葉を寸前のところで飲み込んで布団に潜った。
「ホントいつ抱いてもいい感度だよね。シズちゃんってもしかして俺とヤる前に誰かとヤっちゃってたりする?もしかして君の弟君?それとも君の上司の田中トムかな?まさかドタチンなんてことはないよねぇ」
顎に手を当てて臨也は本気で考えているようだった。なはずないだろ、と静雄ははっきりと否定する。
「・・・・・・・・・・・・そうか。よかったよ。シズちゃんはこのような質問には嘘をつけないから信じることにする。それにさ・・・・」
臨也は言葉を途中で切った。さきほどまで笑顔をたたえていた優しげな目元は殺意を出していた。視線だけで誰かを殺せるような鋭いナイフのような目。
「もし俺の仮説が真実だったら・・・・・・俺そいつ殺しちゃってた気がするからね」
臨也はただ単純に自分の欲望を言った。世界で一番自らの欲望に忠実な男のその言葉に静雄はもぞもぞと布団から這い出す。何も言わずに臨也に背を向けて寝転がっている。
「じゃあ俺はシズちゃんの処女をもらっちゃってるわけかー。嬉しいなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・手前は、なんで俺を抱くんだよ」
「なんでって・・・・好きだからだよ」
当然のことだったのか臨也は心底不思議そうな顔をした。いつも静雄に向かって「大嫌い」とはいているその口から出てくる言葉とは思えなかった。
その答えは静雄も意外だったのか目を丸くした。
「あ、一応言っておくけど俺が他の人間たちに抱く愛情と平和島静雄に抱く愛情は違うからね。俺もそんなに誰彼かまわず愛せる全能な神じゃないからね」
「そ、そうなのか・・・・・」
「え、もしかして俺が遊びでシズちゃんとこんなことしてると思ってた?だとしたら心外だよ。俺は今時の高校生男子ほど溜まってないし精力も無い。いい大人なんだし節度はあるよ」
臨也はそんなことを口にした。静雄は心の中で「節度はある」という言葉を考えていた。節度がある人間は他人の心を弄び自殺へと誘ったりはしないだろうとわずかに思うが目の前の人間に対して常識は通じないとその疑問を打ち消した。
「あとね。ついでに言えばシズちゃんのことは嫌いでもある。理由を述べよ、と言われたら俺の心を乱すから、と答えようかな。真実を口にするのはあまりしたくはないんだけど愛してる人間に対して偽りは裏切りだからね。少しは自らの腹の内を明かそうと思う。シズちゃんのことを俺は好きだよ。こんなことをしちゃうのもシズちゃんだけ」
臨也は本当のことを口にすることはまずない。いつもは以後には権謀術数が蠢いている。
しかし静雄は今の言葉だけは信じた。いや、信じたいと思った。
少しだけ頬を染める残酷な男にわずかに好意が生まれる。前から好意を抱いていなかったわけではない。好意がなければこのような非日常的なこのような行為をこの男としようとは思わない。


少し前のある雨の日。いつものように二人は池袋で死闘を繰り広げていた。ついに路地裏まで追い詰めて静雄が大きく標識を振りかぶったとき臨也は不敵に微笑んで静雄の方向に向かっていった。そのまま引き付けてぶん殴ろうと思った瞬間。臨也は大きくステップを踏んだ。真っ直ぐに飛んでくる身体。その身体は静雄の体に当たったまま微動だにしなかった。
静雄はなにがなんだか分からずとりあえず標識を横の地面に刺したところで臨也はナイフを取り出した。静雄は刺そうとするのかと思ったが臨也はいきなりナイフを遠くへと投げ捨て静雄の顔を見上げた。
「ねぇ、シズちゃんヤらない?」
いきなり言われた言葉に静雄は完全に固まった。身体も思考も凍結する。あまりの事に声すら出なかった。
「ねぇ、お願い」
ぎゅ、と抱きしめられる感覚に寒気と吐き気とわずかな喜びとが体中を駆け巡る。それは脳を麻痺させ思わず首を縦に振ってしまっていた。このとき臨也に対して好意があったのか静雄は分からない。しかし、いつも感じている怒りと共にそれとは違う感情もあったのは気づいていた。
その同意の言葉に臨也は子供のように喜び静雄の手を握って近くのホテルへと駆け込んだ。その夜とんでもないことをされるなど考えもしなかった。


「シズちゃんはどうなの?俺ははっきり言ったんだけど」
「・・・・・・・・・嫌いでは、ない」
ただそれだけ口にする。「好き」という言葉はあまりにも重過ぎる。嬉しかったのか臨也は優しげに目を細めた。
「今はその言葉で十分だよ。でも、いつか言ってね」
「・・・・・・わ、忘れてなかったらな」
臨也は優しげな目のままはぁ、とため息をついた。額に手を当てて悩ましげに首を振る。
「男に対してかわいい、なんて感情を抱くときがくるとは思いもしなかったよ。こうも世界は俺の予想を裏切ってくれる。嬉しいね。同時に少し自分に絶望もする。なんでシズちゃんなんか好きになっちゃったかなー・・・・俺は別に男趣味とかじゃなかったはずなんだけど・・・・」
「なんだよその言い草は。俺だって手前になんでホイホイついていったか分からねぇよ」
「まさかあのとき本当についてきてくれるとは俺も思ってなかったからね。正直驚いたよ。あぁ、あのときも本気だったからね。勘違いしないでよ」
「ほ、本気じゃなくてあんなことをしたんだったら手前を殴り殺すぞ・・・・」
「おぉ、怖い怖い」
両手を挙げて臨也はベッドから立ち上がった。カーテンから弱い光が差し込んでいるのに気付き静雄も少しだけ痛む身体を起こした。そのままベッドから出る。
「もうそこまで動けるんだね。流石シズちゃんの身体だ」
「・・・・・・まだ腰が痛いんだけどな・・・・」
「じゃあ今日の池袋視察は止めにするよ。シズちゃんのために」
それが当たり前のことだと静雄は思いはしたが声に出すのも疲れた。どうやら静雄は臨也と過ごしているうちに徐々に怒りの自制ができるようになってきたと自分で自覚していた。
静雄は臨也に構いもせずにワイシャツを着てサングラスをかける。完璧にいつもの服装に戻ったことを確認してから部屋の入り口のほうへと歩いていった、臨也はまだここでゆっくりするつもりなのか追っては来ない。これがいつもの約束だ。
作品名:emotional 作家名:安手井 新