艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:改二
「提督。僕に何か用?」
さり気なく時雨について歩いていた事が、ついにバレた。
別にこっそりと後ろから追跡したわけではない。時雨が僕をちゃんと認識した状態で、言わば「隣で追跡した」。要するに、時雨には言わずにひたすら一緒にいようとしたのだ。
最初は廊下で偶然会って、歩きながら他愛ない話をしていた。途中の分かれ道では、当然のような態度で時雨の曲がる方へ曲がった。
時雨がどこへ向かっているのかは分からなかったが、とにかく時雨と同じ方へ歩いた。
そして、何度目かの分かれ道でとうとう言われる。「何か用?」と。
僕は慌てる事なく、用意していた答えを返した。
「ん?ああ、時雨の行き先について行ってるって事?時雨と話したかったからさ。」
「…そう。それなら、いいんだけど。」
僕の言葉に素っ気なく答えるが、時雨は少し嬉しそうに見えた。それを嬉しく思ってもらえるのは、僕にとっては少しどころでなく嬉しい。
しかし、僕にはほんの僅か後ろめたさがある。僕が時雨と一緒にいたのには、別の理由があったからだ。
もちろん、話していたいのも事実ではある。時雨となら1日中だって話していたい。けれど、今回の目的は少し違う。
「迷惑だったかな?」
わざとそんな風に訊ねてみる。少し寂しげな風を装って。
時雨は慌てて首を振り、僕を慰めるような笑顔をくれた。
「そんな事はないよ。僕だって、提督と話しているのは楽しいさ。」
「そう?退屈させたり、緊張させたり、そんな風じゃないか心配だったんだ。…良かった。」
「もう、そんな事を気にしてたのかい?」
何故僕がわざわざそんな確認をしたか、疑問に思うかもしれない。理由は簡単、こういうところがそもそも目的だからだ。
説明しよう。
僕は、時雨の素敵なところをたくさん知っている。可愛さや愛しさ、愛くるしさ…それだけではなく、何とも言い表せない感情、どうしようもなく切ないような堪らない気持ち、そういうものを与えてくれる仕草や表情。
それらの存在を知っているばかりか、僕はそれらを時雨に見せてもらう方法も知っている。どんな時にどうやったらどんな反応を返してくれるか、まるで何度も解いた詰め将棋のように方法が分かるのだ。
そんな事が分かるのは、時雨に対する観察力の賜物だろうか。それとも、本能的な何かだろうか。あるいは、生まれ持った才能か…。
いや、一番の要因は、むしろ僕ではなく時雨にあると言えよう。どんな反応であっても、それが時雨なら何だって愛せるから…なのかもしれない。
喜怒哀楽、どの表情を見せても、「時雨が」と付けばそれは愛しさを伴う。…哀しむ時雨はあまり見たくないが…その哀れでさえも、胸を締め付けられるような刺激の強い愛しさに変わるだろう。
で、だ。
そんな僕が今回は何をしようとしているのかと言うと、「新しい時雨」を探している。
例えば、笑ったり怒ったり、照れたり困ったり、それらも幾度見たって飽きない時雨の表情だ。けれどそうではなく、時雨の新しい表情を見つけたいのだ。まだまだ僕の知らない魅力的な姿が秘められているに違いない、という期待感に僕は耐えきれなくなり、こうして時雨のそばに来た。
今日すぐに見つかるとも思っていない。ただ、そばにいる時間が長いほど、それは見つけやすいに違いないのだ。
「提督?」
時雨が僕の顔を覗き込む。
彼女の事を考えすぎて少し黙り込んでしまったが、僕はどんな表情をしていただろうか。何であれ、時雨の不思議そうな顔には微笑みを返した。
「ああ…ごめんね、時雨。少し考え事をしてしまった。時雨と話したいなんて言ったくせに…。」
「そんな言い方、やめてよ。提督に後ろ向きになられたら困っちゃうな。提督なんだから、もっと堂々としていてよ。」
「そうだね…うん、しっかりしなくちゃな。提督なんだから。」
うんうん、と時雨は満足げに微笑む。
さて。それはそれで可愛いとしても、「新しい時雨」を探したい僕には、彼女に対して新しいアプローチが必要だ。
劇的に変えることはない。普段と少し変えるだけで、流れは変わり、結果は更に大きく変わる。バタフライ・エフェクトというやつだ。蝶の羽ばたきが生む僅かな風の流れが、巡り巡ってハリケーンの要因になる事もある。そのように、少しの変化が大きな変化の元になるのだ。
問題は、タイミング。適切なタイミングで適切な工夫をする必要があり、機を逸してはならない。
「あ、提督さんと時雨ちゃん。」
向こうから、見慣れた顔が近付いてくる。こちらに気付くと笑顔で手を振った。
夕立だ。落ち着いた性格の時雨とは逆に明るく賑やかな彼女だが、時雨とは仲がいい。同型艦としての同調か、単に気が合うのか。
「二人でどこに行くっぽい?」
「適当だよ。見回り兼散歩かな。」
時雨が答えると、夕立は「ふむ」という顔をする。
暇なら夕立も一緒に来ないだろうか?第三者の存在も変化の要因になるのだが。
しかし、僕の思惑に反して夕立は忙しいようだった。
「楽しそうだけど、夕立はこれから調整作業をしないといけないんだって。めんどくさいっぽい!提督さんと時雨ちゃんと一緒にお散歩したいっぽい!」
「仕方ないよ。不調になる方がよっぽど面倒だからね。」
「あー、なるほど。時雨ちゃんがそう言うなら、仕方ないっぽい。」
さすが時雨と言うべきか、一発で夕立を納得させてしまった。僕でもこううまく説得できるかは分からない。伊達に仲良くしていないな、と思う。
さり気なく時雨について歩いていた事が、ついにバレた。
別にこっそりと後ろから追跡したわけではない。時雨が僕をちゃんと認識した状態で、言わば「隣で追跡した」。要するに、時雨には言わずにひたすら一緒にいようとしたのだ。
最初は廊下で偶然会って、歩きながら他愛ない話をしていた。途中の分かれ道では、当然のような態度で時雨の曲がる方へ曲がった。
時雨がどこへ向かっているのかは分からなかったが、とにかく時雨と同じ方へ歩いた。
そして、何度目かの分かれ道でとうとう言われる。「何か用?」と。
僕は慌てる事なく、用意していた答えを返した。
「ん?ああ、時雨の行き先について行ってるって事?時雨と話したかったからさ。」
「…そう。それなら、いいんだけど。」
僕の言葉に素っ気なく答えるが、時雨は少し嬉しそうに見えた。それを嬉しく思ってもらえるのは、僕にとっては少しどころでなく嬉しい。
しかし、僕にはほんの僅か後ろめたさがある。僕が時雨と一緒にいたのには、別の理由があったからだ。
もちろん、話していたいのも事実ではある。時雨となら1日中だって話していたい。けれど、今回の目的は少し違う。
「迷惑だったかな?」
わざとそんな風に訊ねてみる。少し寂しげな風を装って。
時雨は慌てて首を振り、僕を慰めるような笑顔をくれた。
「そんな事はないよ。僕だって、提督と話しているのは楽しいさ。」
「そう?退屈させたり、緊張させたり、そんな風じゃないか心配だったんだ。…良かった。」
「もう、そんな事を気にしてたのかい?」
何故僕がわざわざそんな確認をしたか、疑問に思うかもしれない。理由は簡単、こういうところがそもそも目的だからだ。
説明しよう。
僕は、時雨の素敵なところをたくさん知っている。可愛さや愛しさ、愛くるしさ…それだけではなく、何とも言い表せない感情、どうしようもなく切ないような堪らない気持ち、そういうものを与えてくれる仕草や表情。
それらの存在を知っているばかりか、僕はそれらを時雨に見せてもらう方法も知っている。どんな時にどうやったらどんな反応を返してくれるか、まるで何度も解いた詰め将棋のように方法が分かるのだ。
そんな事が分かるのは、時雨に対する観察力の賜物だろうか。それとも、本能的な何かだろうか。あるいは、生まれ持った才能か…。
いや、一番の要因は、むしろ僕ではなく時雨にあると言えよう。どんな反応であっても、それが時雨なら何だって愛せるから…なのかもしれない。
喜怒哀楽、どの表情を見せても、「時雨が」と付けばそれは愛しさを伴う。…哀しむ時雨はあまり見たくないが…その哀れでさえも、胸を締め付けられるような刺激の強い愛しさに変わるだろう。
で、だ。
そんな僕が今回は何をしようとしているのかと言うと、「新しい時雨」を探している。
例えば、笑ったり怒ったり、照れたり困ったり、それらも幾度見たって飽きない時雨の表情だ。けれどそうではなく、時雨の新しい表情を見つけたいのだ。まだまだ僕の知らない魅力的な姿が秘められているに違いない、という期待感に僕は耐えきれなくなり、こうして時雨のそばに来た。
今日すぐに見つかるとも思っていない。ただ、そばにいる時間が長いほど、それは見つけやすいに違いないのだ。
「提督?」
時雨が僕の顔を覗き込む。
彼女の事を考えすぎて少し黙り込んでしまったが、僕はどんな表情をしていただろうか。何であれ、時雨の不思議そうな顔には微笑みを返した。
「ああ…ごめんね、時雨。少し考え事をしてしまった。時雨と話したいなんて言ったくせに…。」
「そんな言い方、やめてよ。提督に後ろ向きになられたら困っちゃうな。提督なんだから、もっと堂々としていてよ。」
「そうだね…うん、しっかりしなくちゃな。提督なんだから。」
うんうん、と時雨は満足げに微笑む。
さて。それはそれで可愛いとしても、「新しい時雨」を探したい僕には、彼女に対して新しいアプローチが必要だ。
劇的に変えることはない。普段と少し変えるだけで、流れは変わり、結果は更に大きく変わる。バタフライ・エフェクトというやつだ。蝶の羽ばたきが生む僅かな風の流れが、巡り巡ってハリケーンの要因になる事もある。そのように、少しの変化が大きな変化の元になるのだ。
問題は、タイミング。適切なタイミングで適切な工夫をする必要があり、機を逸してはならない。
「あ、提督さんと時雨ちゃん。」
向こうから、見慣れた顔が近付いてくる。こちらに気付くと笑顔で手を振った。
夕立だ。落ち着いた性格の時雨とは逆に明るく賑やかな彼女だが、時雨とは仲がいい。同型艦としての同調か、単に気が合うのか。
「二人でどこに行くっぽい?」
「適当だよ。見回り兼散歩かな。」
時雨が答えると、夕立は「ふむ」という顔をする。
暇なら夕立も一緒に来ないだろうか?第三者の存在も変化の要因になるのだが。
しかし、僕の思惑に反して夕立は忙しいようだった。
「楽しそうだけど、夕立はこれから調整作業をしないといけないんだって。めんどくさいっぽい!提督さんと時雨ちゃんと一緒にお散歩したいっぽい!」
「仕方ないよ。不調になる方がよっぽど面倒だからね。」
「あー、なるほど。時雨ちゃんがそう言うなら、仕方ないっぽい。」
さすが時雨と言うべきか、一発で夕立を納得させてしまった。僕でもこううまく説得できるかは分からない。伊達に仲良くしていないな、と思う。
作品名:艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:改二 作家名:エルオブノス