二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
エルオブノス
エルオブノス
novelistID. 54547
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:改二

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 
 …あ、ここだ。と不意に思い付いた。

 きっかけとなる変化。やはり第三者の存在はなかなか良い要因だ。夕立のおかげで思い付いたのだから。

「じゃあね、提督さん。時雨ちゃんと見回り頑張って!夕立も頑張るっぽい!」

「ああ。見回りの方は僕と時雨ちゃんに任せてくれ。」

 夕立は名残惜しそうに、何度も手を振って去っていった。僕も小さく手を振り返す。時雨は…僕を見たり夕立を見たりと視線を慌ただしくさせながら、僕より更に小さく手を振っている。

 さて、見回りの続きといこうか。時雨を見てそう告げると、動揺した様子で僕を見上げ返してきた。

「て、提督?あの…。」

「ん?どうしたの、時雨ちゃん。」

 とぼけてみる。
 夕立と同じ呼び方をしているだけなのに、何を驚いているんだろうなーニヤニヤ。という態度。

「…ちょ…ちょ、ちょっと待って…。」

 頬を紅潮させる時雨。僕の視線を遮るように手をかざしつつ、逃げるように顔を背けてしまう。

 呼称としての「ちゃん」付けは、意外と変化の効果が高い。そのイメージとしては、「異性としての意識が高まる」「こちらが相手を可愛く思っていると意識させる」「響きが女の子的で可愛い」といったところか。
 理屈はさておき、せっかくの変化を逃してはならない。ここから連鎖させてこそだ。

 僕の視線を遮る時雨の手を取って、時雨の顔を正面から見た。頬の紅潮どころか、顔全体に加えて耳まで真っ赤になる時雨。その目は泣きそうに潤んでいる。

「顔が赤いけど、大丈夫?夕立には『不調になる方が面倒』なんて言って…。」

「だ、大丈夫だよ!僕は元気だから…提督、もう手を…。」

「熱があるかもしれない。」

 時雨の前髪を上げて、自分の額を触れさせる。熱を計る時にとりあえずやってみる、あれだ。それで計れるのかどうかは知らない。
 時雨に拒む様子はないが、単にどうしていいか分からなくなって硬直しているのだろう。それにしても、熱い。こんなに熱を持って、本当に不調になったらどうしよう。

「やっぱり、熱があるかな。具合悪いところは無いかい?」

「…て……。」

 ああ、でも、ごめん時雨。この「僕の知らない時雨」は、何にも代え難い魅力を持っている。
 仮に本当に不調になってしまったら嫌だけれど、それでも僕は、互いの息がかかるような距離から動けずにいた。僕の目は、時雨の潤んだ目をまっすぐ見つめて離さない。

 いつまでもこうしていたい。いっそ時雨の瞳の中に閉じ込められたって構わない。
 誰より近くで、愛しく光る彼女の目を見つめ続けていられるなら…。


 しかし、その願いは儚く散った。
 いよいよ恥ずかしくなったか、時雨は「目を閉じる」という解決策を見いだしてしまったのだ。これでは時雨の目を見つめ続ける事は出来ない。


 違った。


 何が違ったかと言うと、時雨が目を閉じた理由だ。

 何故分かったかと言うと、息がかかる程近くから、時雨が少しだけ背伸びをしたからだ。



 …何が起こった。

 一瞬だったに違いないのだけれど、僕の心はその瞬間を出来るだけ引き延ばそうとした。
 様々な思考が頭を巡る。何が起こったのか理解しようとする。時雨が何をしたのか理解しようとする。僕の唇に触れたのが何なのか、理解しようとする。

 一瞬後…僕が全て理解した直後、時雨は両手で顔を覆って屈み込んでしまった。泣いているわけではなさそうだが、どうした。
 様子を見ていると、両手で隠しきれていない真っ赤な顔で、時雨が呟いている事が分かった。

「…ごめんなさい…僕は一体何を…ごめんなさい…消えたい…。」

「し、時雨?顔を上げてくれないかな。」

「…無理だよ。」

 無理だそうなので、時雨が落ち着くまで頭を撫でてやりながら待った。
 しかし好都合かもしれない。今は僕の方だって、時雨に見せられないくらい真っ赤なのだ。多分。

 しばし後、時雨が顔を覆っていた手を離した。まだ顔は赤いが、少し落ち着いたようだ。

「大丈夫?」

 苦笑しながら訊ねる。
 時雨は横目で僕を窺いながら、不安げに訊ね返してきた。

「…提督、怒ってる?」

 そんなわけはない。しかし時雨の様子を見るに、本当にそれを不安がっているようだ。

「驚いたけど、怒ってないよ。」

「…そう。よかった。」

 お互い、それ以上言葉が続かなかった。
 僕は言葉を探しながら、頬を掻く。時雨も多分言葉を探しながら、結って後ろから前へ垂らした髪をいじっている。

「…夕立の様子でも、見に行ってみようか。」

 僕がようやく発した言葉は、いかにもこの場を濁してしまおうという意図があった。けれど濁したいのは時雨も一緒で、「うん」と短く答えて立ち上がる。

「よし、行こう。時雨ちゃん。」

「…それはもう許して。」

 呼び方ひとつで色々思い出してしまうらしく、口をしっかり引き結んで俯いてしまった。無理もないか。
 それ以上からかうのはやめて、なるべく普段と変わりなく振る舞うよう気を付けながら、夕立の様子を見に向かう事にした。



 …余談。

 その後夕立と合流したのだが。彼女に「時雨ちゃん」と呼ばれた時にもギクリとしていたのを、僕は見た。
 時雨はまた色々思い出してしまったのだろう。所在なさげに僕を見る目が、不安そうにこちらを窺う子犬のようで…思わず「時雨」と彼女の名前を呼んだ。不安な事は無いよ、大丈夫。そんな事を伝えたいと思って、気付くと僕は彼女の名前を呼んでいた。

「提督、呼んだ?」

 その瞬間、時雨はすっかり安心しきった顔になった。元のように呼ばれたからだろう。

 つまらない事をしたな、と僕は自分に対して思う。無理に変化を加えて、僕の知らない時雨を探す必要は無かった。
 いつもの時雨でいい。いつもの時雨がいいのだ。

「うん、呼んだけど…呼んだだけだよ、時雨。だめかい?」

 くだらない言葉を返すと、「いいよ」と時雨は笑った。
 可笑しそうにではなく、嬉しそうに。