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エルオブノス
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艦これ知らない人がwikiの情報だけで伊8書くとこうなる。

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今日の鎮守府では、伊8が各所で目撃された。鎮守府中を歩き回っていたからだ。
 通路で、食堂で、ドックで…提督の執務室以外のあらゆる場所で、伊8は目撃された。


「司令官なら、執務室に…ん、違うのかい?…ああ、なるほど…すまない、分からないな。」

 質問に対して望んだ答えは得られなかったが、「ありがとう」と響に笑顔で言って、伊8はまたどこかへ歩き去る。
 残された響は、力になれなかった事を残念に思いながら、伊8の去った方をぼんやり見つめた。今度はどこに行くんだろう。

「どうしたの、響?通路でぼんやりして。」

 声に振り返ると、不思議そうな顔の暁がいた。

「うん…伊8さんが、ね。」

「なに、いじめられたの?そうなら私に言いなさいよ!」

 勝手にいきり立つ暁に、響は首を横に振る。

「違うよ。質問されたんだけど、答えられなくてさ。」

「質問?」

「日本人の口に合うパンのレシピ、だそうだよ。伊8さんにはライ麦パンを貰った事があるんだけど…。」

「ああ、あれ。おいしいの?」

「私は好きだけど…ほら。誰かさんの感想が、『すっぱい』だったから。気にしてるんじゃないかな。」

 誰かさん、という呼称で、暁は一人の顔を思い浮かべる。はあ、と盛大にため息をついて言った。

「司令官…レディーの手料理には、いつだって『おいしい』って言ってあげなきゃ。なってないわね。」

「けど、伊8さんは偉いよ。普通は自分の好きなものを好きになってほしくなるだろう?そこを無理に押さないで、司令官の好みに合わせようなんて…健気だ。」

「そんなものかしら。まあ何にせよ、うまくいけばいいけどね。読書の時間を削ってまでやってるんだもの。」

 既に伊8のいない通路の先を…暁は彼女の姿さえ見ていないが、響と共にぼんやりと見つめた。



「パンのレシピ?小麦粉で作るパンかしら?ええ、難しくはないと思うけれど…。」

「本当ですか?良ければ、教えてくれませんか!」

 伊8の嘆願に「もちろん」と答えながら、赤城は伊8の小麦パンへの執着に疑問を抱く。

「でも、私ははっちゃんのライ麦パンも好きよ?栄養価が高いし…。」

「やっぱり、赤城さんもそう思いますか。提督は『すっぱい』って言うんですよ。」

「ああ、それで。はっちゃんは健気ね。」

 赤城は全て納得してクスッと笑う。
 伊8は「早く早く」と赤城を急かし、連れ立って食堂の調理場へ向かった。



 きっかけは、今朝の事だった。
 伊8は食堂で、提督が金剛とパンの話をしているのを聞いた。どうも意見が合わないらしい。

「NO!sandwichといえば、レタスやハムを挟むものデース!」

「軽食にはそれでいいんだけどね。もう少ししっかり食べたい時は、工夫として…。」

「だからってcroquetteや…なんと言いましたカー?」

「焼きそば?」

「そうデース!そばは、つまりnoodleデスネー?そんなの挟みマセーン!noodleはnoodleで食べたらいいネー!」

「うーん。まあ、ね。でも日本人には意外と馴染み深いんだ。」

 そんなこんなで提督と金剛の議論は終わっていた。
 しかし、伊8はその後の提督の呟きを聞き逃さなかった。「鎮守府では手に入らないかな」と。

 何の気なしに、ただ事実を言っただけかもしれない。それでも伊8は、その言葉に「食べたい」という希望を感じ取った。

「今度は、おいしいって言わせるんだから。」

 伊8のパンは、すっぱい。そんな印象を提督に抱かせたままでは気に入らないのだ。
 提督に「おいしい」と言わせる。パンで。ライ麦にこだわらず、提督の口に合えばそれでいい。

 そして、伊8は…。

「うーん…まだ味が薄い、かしら。」

「なんてこと…これでも足りないっていうの?日本舌はよほどソース慣れしているのね…。」

 赤城と二人、ひたすら小麦を消費していた。
 提督を納得させると確信できる味にはまだ達していない。伊8がコロッケパンと焼きそばパンを作っては、赤城が試食する。その繰り返し。
 それもひとえに、提督に「おいしい」と言わせるため。…仮に赤城はたくさん食べたいがためにどんどん作らせているだけだとしても…少なくとも伊8が作るのは、提督のため。

「提督は、『おいしい』って笑うかな。それとも驚くかな。」

 懸命に試作を繰り返す中、伊8は言う。疲れも忘れて、提督の笑う顔や驚く顔を想像して作り続ける。



「…これだわ!」

 赤城がそう言ったのは、本当に完成したと思ったのか、単に満腹になったのか…分からないが、伊8はその言葉を疑わなかった。

「本当!?赤城さん、これなら提督も…。」

「ええ、間違いないわ。よく頑張ったわね、はっちゃん。」

 時計を見る。二人の気付かない内に、時刻はフタフタマルマル。夜だった。
 食堂の端の一角を占拠して何やら一生懸命にやっている二人に、誰も声をかけられなかったらしい。

「提督の夜食にちょうどいいわね。持っていってあげなさい。」

「はい。ありがとう、赤城さん!」

 急いで調理場を出て行く伊8を、赤城は満足げに見送る。その満足は、気持ちなのか腹なのか…しかし周りを見回して、赤城はすぐに表情を変えた。

「…あら、片付けはひょっとして私がするのかしら…まあ仕方ないわね。」

 何時間と調理し続けた後の有り様を見て、赤城は苦笑しつつ片付けを始めた。