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エルオブノス
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艦これ知らない人がwikiの情報だけで伊8書くとこうなる。

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「提督!」

 伊8が駆け込んだ執務室では、提督が日誌を付けているところだった。突然現れた伊8に驚きながらも、彼女の顔を見て立ち上がる。

「はっちゃん、今日はどこで読書していたんだ?探したんだよ。」

「え?あ、今日は調理場で…。」

「調理場で読書?」

「いえ、その…探したって、何かご用でしたか?」

 すると提督は笑い、何か取り出して見せた。きれいな紙に丁寧にくるまれた、楕円形の…。
 手渡された伊8が開いてみると、それは焼きそばを挟んだパンだった。鎮守府では手に入らないと言っていたが、どうにかして入手したらしい。

 伊8の心は戸惑った。
 自分の目的は、自分のパンで提督に「おいしい」と言わせる事。提督が日本人好みのパンを手に入れようとも、それと自分の作ったパンを食べさせる事は関係ない。
 なのに、この寂しいような気持ちは何だろう?提督を先に奪われたような、そんな気持ち。

(私…そっか。提督に「おいしい」って言わせたかったんじゃない。提督が食べたいけど手に入らないって言うから…私、提督を見返したかったんじゃない。喜んでほしかっただけなんだ。)

 伊8の表情が曇った事に提督は気付く。

「はっちゃん。そのパンはね。」

「知ってますよ。日本人好みのパン、というやつでしょう。」

 愛想笑いを作り、伊8はパンを提督に返した。「よかったですね」と、言葉を絞り出しながら。

 よくない。私のパンを食べてほしかった。
 …ああ、わがままだ。提督は食べたいものを手に入れただけなのに、私はあのパンに先回りされたような気持ちがする。うまく言えないけど、わがままだけど…悔しい、かな。



 提督が、再び伊8にパンを手渡した。

「これは僕の分じゃないよ。はっちゃんに、食べてみてほしかったんだ。」

「え?」

 きょとん、と伊8は提督を見上げる。提督は自分の頭に手を置いて、「実はね」と笑って言った。

「はっちゃんのドイツパンを『すっぱい』って言っただろう?覚えてるかな。」

「もちろんです。」

「あれ、なんだかまた食べたくなったんだ。…でも、文句だけ言っておいて、そんなの勝手すぎるよね。だからさ。」

 そこで一度言葉を切り、クスッと笑ってから続けた。

「はっちゃんに、それを食べて『しょっぱい』って言わせようと思って。」

「…は?」

「そうしたら、対等じゃないかな?」

 思わず伊8も笑う。

 なんだ。提督が食べたかったんじゃなくて、そんな事情があったのか。早とちりだったな。
 それにしても、そんな風にして対等になろうなんて考えるだろうか。私のドイツパンが食べたかったのなら、ただそう言ってくれたら、私はどんなに喜んで作ったか分からないのに。
 それなのに、提督は私に言った言葉を気にして。私と対等な立場になるため、わざわざこのパンを探して。忙しい中、私のことも探して。愚直な人だ。

「そういう事情でしたら、遠慮なくいただきますが…それはそれとして、提督。お夜食にどうぞ。」

 伊8は自分の持ってきた包みを提督に渡す。
 包みを開いた提督の表情は、驚きのそれだった。

「はっちゃん、これ…どうしたの?」

「…提督が食べたいかと思って、作りました。どうぞ。」

 伊8はそれだけ言うと、提督から渡されたパンをさっさと食べ始める。
 誤算だった。提督の表情は想像してあったのに、それを見る自分を想像しなかった。いざその場になると…照れくさくて直視できない。
 あー、しょっぱい。…なんて笑えたらいいのに、提督を見るのも照れくさいし、何よりこのパンはそれ程しょっぱくない。なるほど。味の薄いパンに挟むから、濃い味付けでちょうどいいんだ。

「おいしいよ、はっちゃん。味付けもよく出来てる。」

 提督の顔が見たい。けれど照れくさい。「そうですか」と素っ気ない返事しか返せなかった。

「…よく知らないパンを作るのは、大変だったろう?」

「いえ…。」

「ありがとう。ごめんね。」

 ドイツパンの感想のことを、まだ気にしているんだろうか。こちらが気にしていないのに、やはり愚直というか、正直というか…。

「…こんなに僕の事を気にかけてくれているのに、僕は文句ばかり言って…はっちゃんや皆に、何も返せやしない。」

 その言葉で、伊8はついに顔を上げて提督を見た。
 そんな事はない。毎日お世話になりっぱなしで、自分たちこそ提督に恩を返せているか…。

 本当は、そう言いたかった。
 けれど、言葉が出なかった。

「はは…ごめんごめん。なんか、泣けてきちゃって。」

 提督が笑いながら少し零れた涙を拭っている理由は、伊8には何となく分かった。
 言葉の通りだ。提督として皆に報いる事が出来ているのか、文句を言ってばかりではないか…そんな情けない自分をそれでも気にかけて、わざわざ口に合いそうなパンを作ってくる子までいる。その辺りで感極まってしまった、という事だろう。

「…あれ?はっちゃん?」

 自分のパンが提督の心を打ったという事実が、素直に嬉しい。
 それ以前にも、提督の細かな心遣い全てが…何もかも、嬉しい。

「いや、はっちゃんのパンはおいしいよ!本当に!」

 提督。提督は愚直で、けれど優しくて…女心には少し鈍くって。
 そんな提督が、皆好きなんですよ。


「はっちゃん、泣かないでよ。どうしたの?困ったな…。」


 眼鏡を外し、伊8は目元を拭う。
 提督の涙につられたのだろうか。気にして涙を流すほど、提督が自分たちの事を想ってくれているという事実に対してだろうか。

 伊8は、笑ってこう答えた。

「このパンが、しょっぱすぎただけです。」

 提督も笑って、「やっぱりはっちゃんのパンがいいな」と伊8の作ったパンを食べた。伊8も提督に渡されたパンを「あーしょっぱい」と笑いながら食べた。
 二人で、笑いながら食べた。

「まったく、仕方ない提督ですねえ。はっちゃんが今度また、しょっぱくないドイツパンを作ってあげますからね。」

「よろしくお願いします。」


 パンにまつわる小さな騒動の、円満な解決。

 扉の隙間から、赤城は満足げに見届けていた。気持ちも腹も、満足だろう。