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【擬人化捏造】夢か現か妖怪か

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「ケイゾウ!ケイゾウ!!」
 耳元で大きな声が響き、柔らかなものがぴたぴたと頬を叩く。ケイゾウはそれらから逃れるように身を捩り、次の瞬間、ぱちりと目を開けて起き上がった。
 が、その勢いで、ゴンと鈍い音が響き、目の前で星が散った。熱さを感じるほどの痛みに額を押さえ、再び沈みこむ。
「っ痛~~~~~~~……」
「だ、大丈夫か、ケイゾウ……」
 涙で滲む視界に、同じく額を押さえてのたうち回る丸っこい影が映る。間近で顔を覗き込んでいたらしい彼に勢いよく額を打ち付けたことを察して、ケイゾウは小さく詫びの言葉を口にした。そのあとで、はたと気付いて再び上体を起こす。
「フユニャン!お前なんであんな……って!うわあぁぁぁぁ!!!!」
 立ち上がりかけ、ケイゾウはまたぺたりと座り込んだ。が、それも収まりが悪いのか、もぞもぞと背筋を揺らして学生服の裾を引っ張る。
「ケイゾウ?」
 赤くなったり青くなったり、顔色を変えながら眉を寄せて唸るケイゾウに、フユニャンはおそるおそるといった風に近づき、そして首を傾げた。
「大丈夫か?ひどくうなされていたが、悪い夢でも見たのか?」
「夢?あれが、夢?そんな、確かに……でも……」
 徐々に小さくなる声と共に、ケイゾウの視線が下に落ちる。学生ズボンで覆われてはいるものの、その中はべったりと濡れた下着が肌に張り付いているのがわかる。不快感と羞恥心を駆り立てるその症状自体は知識として知っていても、そうなった理由がわからない。いや、わかりたくなかった。わかってはいけないと、必死に言い聞かせる自分が、そこにはいた。
「どうした?何かあるのか?」
「見んな!何もねえよ!!」
 ソコを見つめたまま黙ってしまったケイゾウの視線を追って、フユニャンが覗き込む。それを制止して、ケイゾウはじっと、丸い影を見つめた。
「フユニャン……だよな?」
「?……ああ」
 眉を寄せ首を傾げるフユニャンを見つめて、ケイゾウは徐に手を伸ばした。柔らかな体毛でおおわれた脇に両手を差し入れ、猫の子を抱く様に持ち上げる。まるっとしたフォルムは簡単にケイゾウの手に収まり、目の前でぷらんと揺れた。
「ケ、ケイゾウ?!何を!!」
 一瞬、驚きに固まったフユニャンだが、すぐにじたばたと暴れ始めた。くびれのないウエストを必死にねじって逃れようとする小動物さながらの姿を暫し見つめ、ケイゾウは大きく息を吐いた。
「…………だよなぁ」
 力の抜けた隙に、フユニャンが拘束から抜け出す。ケイゾウの手が届かない天井近くまで一瞬で飛びずさり、数回深い呼吸を繰り返してから、再びふわりとその距離を詰めた。腕を組んで何事かを考え込んでいるケイゾウを覗きこみ、小さく首を傾げる。
「やはり、どこか悪いんじゃないか?」
 言いながら、フユニャンはその顔を近づけた。先程激突したばかりの額同士をぴたりとくっつけ、ふむ、と唸る。
「熱はなさそうだが……」
「!!!!」
 ガタン、と大きな音と共にケイゾウの体が跳ねた。座った体勢から器用に壁際まで後退し、近くに置いた木箱に背中を打ちつけながら立ち上がる。
「ケイゾウ?」
どうした、と問う視線に、ケイゾウは真っ赤に染まった顔を勢いよく何度も振った。振りすぎて足元がふらつくほど全力で否定し、そして叫ぶ。
「ななななななんでもない!!俺帰るから!!じゃあな!!!」
 脱兎の如く、とはこのことだろう。ケイゾウはフユニャンの脇をすり抜けて小屋を飛び出した。普段の彼にしては少々前かがみ気味の姿勢で、脚も奇妙に歪んだガニ股ではあったが、そのスピードは過去最高と言ってもよいほどの素晴らしい走りに思えた。

 一方、ケイゾウが出ていった小屋にフユニャンは一人取り残されていた。部屋の中央にぽつんと浮かび、ふわふわ漂いながら少年が出ていった扉を見つめていたが、やがて僅かに瞳を細めた。猫のように顔を洗う仕草で髭や口の周りを数回撫で、前脚を舐める。その口元が、ふっと上がった。
「ここまで待ったのに、いまさらお前を置いて逝くものか」
 そんな呟きに反応するかのように、前脚から白い体毛が消えた。肉球のない肌に赤い舌が絡み、すらりと伸びた五本の指の間まで丁寧に辿っていく。すっかり舐め清めた後、男はくすりと笑った。
「オトナになるまでもう少し……続きが楽しみだな、ケイゾウ」
 残り香を愉しむかのように鼻をひくつかせ、男は踵を鳴らして扉に背を向けた。真紅のマントが風を孕んでふわりと膨らみ、男の姿を覆い隠す。その風が止んだ時、マントはフユニャンの丸い身体を包んで、静かに揺れていた。