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【擬人化捏造】夢か現か妖怪か

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「っ、……ぁ、え?」
 戸惑ったような声が上がり、視線が不安げに揺れる。だがケイゾウの変化に気付かないのか、フユニャンは悪ノリしたようにその場所を舐め、鼻先を押しつけた。
「や、あぁぁ?!」
 今度は明らかに異質な声が出て、ケイゾウは思わず両手で口を覆った。
「ふ、んんっ」
「どうしたケイゾウ。降参か?」
 首筋を食んだままのフユニャンが問えば、そのヒゲはケイゾウの顎下を擽り、温かな空気が産毛を震わす。ぞくぞくと背筋に走る痺れに似たものがなんなのかわからず、ケイゾウは無言で首を振った。それでも漏れるくぐもった声を押さえようと息も止めてしまう。瞳を固く閉じ、酸素不足で赤黒く変わっていくケイゾウの顔を横目で見て、フユニャンは小さく苦笑した。
「それでは息ができないだろう?ほら、手を離すんだ」
 たしたし、と柔らかな音と感触がケイゾウの手を叩くが、そこは一向に緩まない。むしろ、その些細な刺激さえ拒むように力が込められ、指先が白く変わっていくばかりだ。
「仕方がないな」
 ケイゾウの耳朶に、溜息交じりの呟きが触れた。と同時に、ケイゾウの手に大きな掌が重ねられた。口元を覆う指を一本ずつ丁寧に引き剥がすと、露わになった唇を丹念になぞっていく。そして、固く弾き結ばれたそこが緩まないと知ると、今度は両頬に指を押しこんだ。力まかせに唇を無理矢理開かせ、ふっと空気を送り込む。
「っ」
「息を吐け」
 囁いて、ケイゾウの胸を軽く叩く。ぐっと詰まった音の後、咳き込むように再開されたケイゾウの呼吸に、ほっと安堵の息が漏れた。
「ヒーローがこんな所で窒息したら、誰も守れないぞ」
 からかいの言葉を口端に乗せて、柔らかな唇がケイゾウのそれに触れる。息苦しさの反動から、酸素を求めて吸いこむ一方になった呼吸を諌めるように、適度に塞いでは解放して、ケイゾウ本来の呼吸数へと徐々に戻していく。
「は……ん……ふあ……」
 どのくらいそれを繰り返しただろうか。ようやく落ち着きを取り戻したらしいケイゾウがゆっくりと目を開くと、目尻に溜まった滴が零れて落ちた。それを追う男の唇が、ケイゾウの頬に触れた。

 男。
 そう、男だ。
 男がそこにいた。
 ケイゾウはぱちりと瞬き、その男を見つめた。
 まだ若い、と言ってもケイゾウよりも年上の、大人の男だ。柔らかそうな濃紺の髪は真ん中で分けられ、額の傷を避けて色白ながらも精悍な造形の顔にかかっている。黒い瞳は野性味を帯びた光を湛え、濡れた唇は片側を上げて笑みの形を描いていた。だが、ぺろりと自身の唇を舐めた時に見えた犬歯はどこか獰猛な肉食獣を連想させて、ケイゾウは本能的な恐怖を覚えて固まった。
「おまっ……お前……誰、だ……っ!?」
 ケイゾウが問う。男はふっと目を細めると、大きな手でケイゾウの目蓋を覆った。視界を塞がれ、暗闇の中でもがくケイゾウの耳元に、小さな囁きが落とされる。
「オレだ、ケイゾウ」
 ぴたりと、ケイゾウの動きが止まった。それは聞き慣れた、誰よりも信頼できる存在の声。
「うそ、だろ……なんで、フユ、んんんっ」
 その名を呼ぶより早く、唇が閉ざされる。先程までは呼吸を教えてくれた唇が、今度は容赦なく呼吸を奪う。
「ん、んんー……は、ぁ……っ」
 息苦しさに口を開けば、それを待っていたかのように男の舌が滑り込んできた。歯列を割り、ぬるりとケイゾウのそれに絡んだかと思えばすぐに離れ、上顎を擽ってはまた吸い上げる。その巧みな口付けに、先程までの感覚が急速に蘇ってきた。
「やぁ、っふ……ぅん……」
 ぞくりとした痺れが背筋を駆け、ケイゾウの声に甘さが混ざる。それを感じとって、男はゆっくりとその手を下腹部へと伸ばした。膝を合わせ、腰を揺らめかせるケイゾウのズボンを撫でてから、前を開ける。そこはすでに形を変え、白い下着を押し上げて震えていた。
「!な、にを……っ」
「大丈夫、何もしない」
「だったら、うぁっ」
 ケイゾウの声が裏返る。男はにやりと口元を歪め、布地ごと握りこんだそれに指を這わせた。親指の腹を使って上へ押し上げ、掌全体で包んで下へと滑らせる。先端に押しつけられる形になった下着に、じわりとシミが滲んだ。
「あ、あ、あ……っ」
「まだまだ子供だと思っていたんだが……オトナになったな」
「バッ、お前どこ見て言、ああ……っ!」
 男の手が上下に動き、びくりとケイゾウの背がしなった。高い声が口をつき、下着のシミが大きくなる。
「初めてか?」
「るせ……い、加減……放せ」
「ここで放り出されるほうがツラいぞ」
「く、そ……はっ、んん……」
 荒い息を繰り返し、ケイゾウは震える両手で男の腕を掴んだ。だが引き剥がそうとする指先に力は入らず、ただ添えられるだけのそれが男の動きに合わせて揺れる。まるで男の手を使って自慰をしているような光景に、ケイゾウの顔が殊更に赤く染まった。
 羞恥と快楽に全身が興奮し、瞳は潤み頬が蒸気する。赤い舌が乾いた唇を湿らせ、ぷるんとツヤを刷いて奥へ戻るのを追って、男はケイゾウに口付けた。薄く開いたままだった唇は逃げる間もなく捕われ、抵抗は形だけのものに終わる。
「ふ、ぁ……ぅ……んぁっ」
 徐々に速くなる男の手の中で、ケイゾウ自身が跳ねる。下着はすでに中の色を透かすほどに濡れ、男は目を細めて張り付いたその中に指を滑り込ませた。途端、ケイゾウの喉が低く唸った。塞がれたままの口からは非難とも嬌声ともわからぬ音が漏れ、男を押し退けようと腕が上がる。だが男は難なくその腕を捕えると、そのまま床へと縫い止めた。一方、ケイゾウ自身に触れる手は休む事を知らない。ぐちぐちと淫猥な水音を響かせながらケイゾウを追い立て、意識を混濁させていく。
「ん、んんぅ……、ふああっ」
「……今はこのあたりが限界か」
 ちゅ、と音を立てて唇を離し、男が呟いた。汗で張り付く額の髪を払ってから唇で触れ、涙で溶けた瞳を覗き込む。
「もうイけ、ケイゾウ」
 囁きが耳朶に落ちた。湿った空気がケイゾウの産毛を逆撫で、手足がピンと硬直する。
「フユ、あ、あああああっ」
 男の親指がケイゾウの先端に埋まる。同時に首筋に噛みつかれ、ケイゾウは解放されたばかりの唇から一際高い声を上げて仰け反った。チカチカと明滅する白点が視界を奪い、ぷつりと暗転する。
「次は――まで――な――」
 暗闇の中で男の声が聞こえたような気がしたが、それを追いかける前にケイゾウの意識は闇に溶けて、消えた。