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午睡

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遊星が仲間たちと昼寝するだけ。





 外はとても天気がいい。
 濃い空色の瞳は、今はまぶたの下に隠れていて。
 遊星はスヤスヤと小さな寝息を立てている。
 よくもこんな日の当たる、まぶしいところで寝ていられるものだ。徹夜続きで、よほど疲れているのだろう。
 日なたで気持ちよさそうに眠っているその寝顔は、光の加減のせいだろうか、にんまりと微笑んでいるようにすら見える。しなやかな身体つきといい、まるで猫だ。
 ジャックはというと、たいへん腕が痺れていた。もう限界だった。
 かといって、腕枕を外した途端、せっかく寝付いた遊星が目を覚まさないとは限らない。最近無理しがちな遊星は、もう少し寝かしておきたいとも思う。
 こんなに天気がいい日に、半地下のガレージにこもって作業を続ける遊星が不健康そうに見えたため、日なたぼっこデートに誘って寝そべっていたところ、遊星はものの5分で眠りについてしまったというわけだ。それから30分ほど経ち、今に至る。さすがに腕が痺れていた。
 ふだんは傍若無人で他人を振り回す、ジャックの優しさは主に、相手の気付かないところで発揮される。そして昔から、無駄に面倒見の良い兄貴気質だ。
 そんなジャックには、眠る遊星を起こすことなど、とうてい出来るはずがないのであった。

(…意外と、睫毛が長いな…)

 近くに居すぎて逆にまじまじと観察する機会のない遊星の顔は、寝ていると幼く見えるからだろうか、子どもの頃と少しも変わっていないように見えた。
 そんなことより、腕が痛い。かつて、これほどまでに、遊星の頭が重く感じたことがあっただろうか……………
 遊星は腕枕を好み、身体を繋げた後などによく、視線と寄り添う動作だけでせがんでくる。だから慣れたもののはずなのに。
 ふだんから鍛えているジャックの上腕二頭筋は、こんなことで弱音を吐いてはいけないはずなのだ。遊星ひとりの頭の重み分くらい、支えていられなくてどうする!
 規則正しく、小さな寝息をたてている遊星は、ふだんは見えていない耳が、黒髪の間からチラリと覗いている。
 手を伸ばして、指先でカニ脚(髪)をサラリと撫で、ジャックは小さな溜め息を吐いた。
 指に触れた遊星の髪は、日溜まりの暖かさがあった。ジャックは痺れと闘いながら、こっそりと前髪の上から遊星の額に口付けした。腕枕に徹しているぶん、このくらいの報酬はもらっても、ばちは当たらないはずだ。



「ただいま。……あらあら」

 サテライトのジャンク市場から帰ってきたブルーノは、リビングで眠るふたりの姿を見、にっこりと笑った。
 リビングの床に毛足の長いマットを敷いて、窓からの日が差す光に照らされ、寄り添うようにくっついて眠っている。まるで日向ぼっこして眠る、仲良しの猫みたいだ。
 正方形のマットからは大の字に寝ているジャックの長い足がはみ出し、隅っこで丸まるようにして眠っている遊星の身体には見覚えのある白いコートがかけられている。
 遊星の頭はジャックの二の腕に乗り、ふたりの顔は異常なほど近い。
 このカップルは、人目を気にするのかブルーノたちの前では目すら合わせないようにしているきらいがあるが、ほんとうは凄く仲がいいことはふたりの間に介在する空気だけでも判る。
 こんな隙のある姿をブルーノに見られたと知ったら、ふたりとも嫌がりそうなものだが…
 ここまできたら、どうしてもひけなかった。
 眠るジャックと遊星の上に、そっと毛布をかけた。

「う、う…」

 たまにジャックが少し寝苦しそうに顔をしかめるのは、なぜだろうか。見ているとすぐに元の安らいだ寝顔に戻るが。
 子どものような顔をして、幸せそうに昼寝しているカップルを見ていたら、何だかブルーノまで眠くなってきた。

「うーん。僕も一眠りするかなぁ……」

 昨日は遊星の作業に夜遅くまで付き合ったから、眠くないといえばうそになる。微笑みながら、ブルーノもソファに横になって、目を閉じた。



「あっれー。ガレージにいないと思ったら、こんなところで寝てたのかよー」
「だめよ龍亞。遊星たちが起きるから、静かにしなきゃ」

 ジャックと遊星は窓際の床に敷いたマットの上で、ブルーノはソファで横になって眠っている。
 学校帰りの龍亞と龍可は、鞄を下ろして床に置き、ジャックと遊星が寝ているマットの上に乗った。そろりそろりと近付き、スヤスヤと眠る遊星の顔を覗き込む。

「遊星、起きそうもないわね」
「だな。せっかく新しいコンボ見つけたからデュエルしたかったのに。ちぇー」

 龍亞はマットの上、ふたりの足下に寝そべった。龍可もつられるように横になる。ジャックと遊星が横になっているマットは正方形で、小さな双子が寝ころぶスペースは十二分にあった。
 ジャックたちの規則正しい寝息、窓からのポカポカとした日差しを浴びていると、何だか双子も、眠たくなってきて二人揃って可愛い欠伸を同時にし、目を閉じた。



「遊星に物理の問題、教えてもらう約束だったのに」

 がっくり。アキは落胆し、ひとりごちた。
 それでも、遊星が故意に約束を反故にするとは思えない。きっと遅くまで作業してて眠かったんだわ、と自分に言い聞かせつつ、テーブルの前のイスをひいて腰掛ける。起こしたら申し訳ないから、起きるまでここで待とうという考えからだった。
 ここからだと、遊星に、ジャックにブルーノに龍亞に龍可。アキ以外の全員が寝ている姿がよく見えた。みな気持ちよさそうに午睡している。
 ジャックに寄り添い、毛布の中に半分顔を埋めながら眠っている、遊星が目を覚ますのは、まだまだ先のような気がしてならなかった。

「はぁ…」

 溜め息を吐いたアキは、テーブルの上に教科書とノートを広げたが、物理の問題に身は入らなかった。
 テーブルに突っ伏して目を閉じる。
 昨日は遅くまで勉強していた。眠いのは、きっとそのせいだわ。



「何だよお前等、そろって昼寝かよ…」

 配達のバイトから帰ってきたクロウは、リビングダイニングキッチンで眠るジャック遊星ブルーノ龍亞龍可アキを順番に見て、溜め息を吐いた。
 何だかひとりだけ取り残されたような気分だ。
 取り残された気分といえばそうだ。
 幼なじみ三人で、ほんとうの兄弟のように育ったジャックと遊星だが、いつの間にか付き合い出してしまい、それを知ったときのクロウの疎外感といったら…
 サテライト時代はいろいろとすれ違いも多かったようだが、今となっては上手くやれているようである。
 かつてはヤキモキして見ていられなかったが、今度は別の意味で見ていられない。熱すぎて、こっちが恥ずかしくなってしまうのだ。身内の恥ではないが、小さな頃からよく知るふたりが、愛し合う姿を見るのは、何ともいえない複雑な気分になってしまうものだ。
 そんなクロウの目を気にして、ジャックと遊星は仲間たちの前では、意識して通じ合っているところを見せないようにしているようだ。
 だが今、スヤスヤと子どものように眠り続けるジャックと遊星を見ていると、不思議と複雑な気分にも、恥ずかしい気にもならなかった。良かったなぁ、と言ってやりたくなった。
作品名:午睡 作家名:rush