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エルオブノス
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艦これ知らない人がwikiの情報だけで時津風書くとこうなる。

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 すっかり照れくささを無くしてニコニコしながら榛名が歩み寄り、まとめてくれた書類を手渡してきた。礼を言って受け取る。

「榛名も書類に目を通させていただきましたが、新基準の排熱管の試験運用についての確認と承認を優先していただけるといいかと思います。差し出がましいようですが、一番上にしておきましたので…。」

「ありがとう、榛名。…君がいると頼りっきりで、僕は駄目になるな。」

 弱気な事を言う僕に榛名は苦笑して、「そんなことはありませんよ」とフォローを入れてくれた。こちらとしては半ば本心だったが、もう半分は前置きの意味合いだ。

「だからさ、榛名。」

 書類を机に置いて、代わりに引き出しから箱を取り出す。
 不思議そうな顔で僕の挙動を眺めていた榛名が、ハッと息を呑む音が聞こえた。微笑んで箱を開いて見せると、その表情は…なんとも僕には読めない。驚いたような、困ったような、そんな表情。
 多分困っているのではなく、突然の事にどうしたらいいか分からないというだけなのだろう。

「君がいないと、駄目なんだよ。…これからも一緒にいてくれるかな?」

 榛名の手を取った時、拒否する素振りが無い事に密かに安堵した。…その安堵が榛名にバレたら、「信頼してくださっていないのですか」と拗ねてしまうかもしれない。言わずにおこう。

 ともかく。指輪を指に嵌めてやるまで、榛名は黙って大人しくしてくれていた。
 ずっと胸にあった「一緒にいてほしい」という気持ち、その気持ちを込めた指輪…受け入れてもらえた事は、どうあれ嬉しかった。信頼どうこうはさておき、それは事実だ。

「…嬉しいです。提督、榛名を信頼してくださっているのですね。」

 左手に光る指輪を愛おしげに見つめて言う榛名に、僕はギクリとした。想像した発言とあまりに近く、それでいて真逆。見透かされたかと思ったが、本当に嬉しそうにしているところを見ると、そういうわけではないようだ。


「では、提督。お仕事に戻りますか?」

「え?あ、ああ…仕事ね。」

 少々面食らった。
 指輪を渡されたにしては、ちょっとあっさりではないか。真面目なのは美徳だが、もう少し余韻というか…まあ、それは提督が望むべき事ではないか。
 仕方がない。榛名に叱られるのも嫌だし、せっかく榛名が書類をまとめてくれたのだし、仕事に戻ろうか…。

 と思って、少しがっかりしていると。

 榛名は躊躇いがちに言葉を続けた。

「それとも…まだ、お仕事に戻られないなら…提督。」

 僕の胸にそっと手を置いて寄り添い、仄かに赤い顔で見上げてくる。
 鼓動が早まった。榛名の手にそれが伝わってしまうのでは、と気持ちが焦る。

「榛名と少しだけ…こうしていては、いただけませんか?」

「…榛名…。」

 見つめ合ったまま、視線を外せない。目を逸らしてしまったら、榛名の気持ちを裏切るようで。

 僕の手は、僕に身体を寄せる榛名の背中側の空中をさ迷っていた。
 抱きしめてしまいたい。けれど触れる事ができないのは、きっと女性を抱きしめる力加減を知らないからだ。強すぎても榛名は我慢してしまうだろうが、優しく手を添えるだけでは意気地が無いと思われかねない。
 …このまま立ち尽くしている方が余程意気地なしだという事に気付き、焦る。この際、思うままでいいじゃないか。優しくしたいと思うなら優しく触れて、離したくないと思うなら強く抱きしめればいい。

 よし、勇気を出そう。僕は榛名の想いを受け止めるため、彼女に触れ返すのだ。



 バァン!と執務室のドアが開いた。


「ここは何の部屋かなー?」


 自由気ままな小犬は、自分の出発地点も忘れてしまったようだ。まるで初めて見る場所のようにキョロキョロと部屋を見回している。
 それからすぐに、密着して硬直したままの僕と榛名の視線に気付いたようで、不思議そうに首を傾げた。

「あれ。しれー達、どしたの?二人も探検?」

「いや…時津風が戻ってきただけだよ。」

 笑って誤魔化しながら、自然な風を装って榛名から離れた。榛名もハッとして、適当に机の方を向いて書類をいじり始める。

「あー、あたしが帰投したってわけ?そっかそっか、ただいまー!」

 幸いにして、時津風は僕らがくっ付いて何をしていたとかには興味は無い様子に見える。自分がちゃんと戻って来られた事に満足げだ。偶然にしても。

「提督、そろそろこちらの書類を…。」

「あ、ああ。会議までに僕も目を通しておかないとね。」

「なになに?時津風も見る見る!」

 僕が椅子に座ると榛名は傍らに立ち、脇から時津風が覗き込んできた。

「しれー、これは何が書いてあるの?」

「ん?陳情書だよ。普通は物資の補給なんかが多いけど、今回は新基準の排熱管の試験運用を許可するために…。」

 時津風を見ると、すっかり難しそうな顔をしていた。

「ほうほう。しんきの、はいねつのー…えー…ちんじょーね。わかるわかる。」

 嘘ばっかり。
 僕が笑いを堪えるのに苦労していると、傍らからクスクスと笑い声が聞こえてきた。僕と時津風が同時にそちらを見る。慌てて口元に手を当てる榛名がいた。

「…ふむ。本当は、なかなかむずかしい。」

 時津風が笑いながら訂正する。僕と榛名は顔を見合わせて同じように笑い、ひとつの共通の思いを抱いた事を確信した。

 榛名が「正直でよろしい」と優しく言い、僕が時津風を撫でる。大人しく撫でられながら、時津風は感心したように「しれーはこんなの分かってえらいんだなあ」と僕を褒めてくれた。

「時津風も勉強すれば分かるようになるよ。素直な子が一番伸びるんだ。」

「やっぱり?そうだと思った!」

 ふふふ、と時津風は不敵に笑う。


 僕と榛名の通じ合った思い。それは、「元気な子が来てくれて嬉しい」という再認識だった。
 僕ら二人でも幸福は作れる。それはそれで確かな事実だが、二人で作る幸福と皆で作る幸福は、全く別の、しかし同じくらい大きい幸福なのだ。

 時津風が作る明るい雰囲気の中で、僕と榛名が笑う。それは、僕と榛名だけでは得られない幸福だ。

 …みんなで、楽しくやっていこう。
 陳腐なスローガンのような事を、僕は心底願った。僕と共にいてくれる皆の中の誰一人として欠けてほしくない。一人一人が誰もにとって大事な存在であることを強く思う。
 楽しい時は明るく、疲れた時は穏やかに、必要な時は真面目に。そうしてやっていけたら、きっと僕らはいつまでも幸福の中にあるに違いない。

「しれー、それは何のちんじょー?」

「ええと、これはね…。」

「提督。私がお教えするので、お仕事を続けてください。」

 そして出来れば、僕の傍らにはいつも榛名にいてほしい。欲張りすぎだろうか。けれど、まあ…僕は提督であると同時に、男であるから。