ぐらにる 牡蠣
グラハムの家は豪華マンションのペントハウスだ。某大企業の執行役員なんて人間なので、そこそこの住居は必要だ。ついでを言うなら、ただいまは新婚生活なので、二人だけでいちゃこらしたいというのもある。ここなら、おいそれと来客が集中するということはない。定時というわけにはいかないが、なんとか帰宅できた。今日は、麗しい姫君が在宅で食事の準備なんかしてくれている。玄関を開けたら、怒鳴り声だ。
「わざわざ、ダブルオーを出すほどの仕事じゃないだろ? そんなもん、網で掬って冷却装置のついた水槽に投げ入れてジェットで運べ。あんな小さなものを掬うのは、ダブルオーじゃ無理だし加速G
で全滅する。」
「でも、急ぎなんだから、しょーがないだろっっ。許可出せよっっ。」
「出せません。往路は戦闘機、帰りはビジネスジェットが妥当。それでも十分に間に合う。経費を考えろ。・・・おまえ、刹那のおねだりなら、なんでもはいはいと引き受けるな。甘やかしすぎだ。」
同じ声がふたつ。どちらも怒鳴っている。グラハムも、ロックオン・ストラトスのトップシークレットを知るまでは、知らなかった事実だ。仕事の話らしいので、しょーがないからリビングに顔だけ出して、書斎に引き上げる。ライバル会社の関係者なので、仕事のことはノータッチが基本だ。姫は、視線で挨拶して手を挙げたが、片方は飛び出てきた。
「グラハム、すまないな? すぐに終わるから。」
「いや、二の姫。息災で何よりだ。仕事の話が終わったら書斎まで呼びに来てくれ。」
「了解。」
と、二人が会話している間に、今度は姫が電話で怒鳴っている。何かしらの問題が発生したのだろう。刹那、と、叱っているから、一番可愛いマイスターのことであるらしい。
「ごめん、グラハム。食事の用意出来てるよ? 」
着替えてシャワーを浴びて書斎で寛いでいたら、姫がやってきた。仕事のことだからグラハムも何も言わない。
「二の姫は? 」
「メシだけ食わせるつもりだけど、いいか? 」
「もちろんだ。二の姫と逢うのは久しぶりで会話を楽しみたい。アクシデントで、きみも出撃かね? 姫。」
「いいや、今回は違う。アクシデントっていうよりは仕事のやり方の問題だ。ライルが刹那の計画を、なんでもかんでも認証するんで俺に説教役が回ってきただけ。」
「はははは・・・きみだって大概、刹那には甘いだろ? 結婚する前に、私が、どれほど嫉妬の焔を燃やしたことか。」
姫は現在も現役ではあが、今は単独で動いている。グラハムと知り合った頃は、教育中の刹那が常に行動を共にしていて、その関係を怪しんでいたのだ。ついでに世話好きでフレンドリーなので、傍目にはイチャイチャしているようにしか見えなかったから、グラハムは嫉妬しまくりで、仕事でも競い合っていた。
「弟妹相手に嫉妬されてもなあ。今日は、牡蠣のクラムチャウダーにしたんだ。白ワインも冷やした。他にリクエストは? 」
「デザートに姫を所望したい。」
両手を広げたら、姫は立ったままで椅子に座っているグラハムの頭を抱き締めて、「存分に。」 と、髪にキスして約束してくれた。
食卓につくと、すぐにサラダとオードブル、メインが運ばれてくる。メインが牡蠣だから、こちらは鴨のスモークだ。ワインを開けて乾杯して二の姫は、クラムチャウダーを口にして、うめぇーと感想を述べた。
「なあ、これ、刹那にも貰っていい? 」
「おまえらだけなら足りるかな。」
「あ、ごめん。ティエとアレルヤも帰ってると思う。他になんかある? 」
「えーっと、この鴨ならあるから、適当に詰めてやるよ。」
「サンキュー、兄さん。今夜中に段取りして出発するから、夜食にちょうどいい。」
「じゃあ、ワインは飲むな。」
「はあ? これぐらいじゃ酔わないよ。控えめにする。」
「二の姫、急ぎなのか? 今夜は泊れるのかと思ったのだが? 」
「ああ、ごめん。急ぎの仕事が入ってるんだ。それに新婚家庭に長々と邪魔したらマズイでしょ? 」
「いや、きみとは、なかなか逢えないから楽しみにしていたんだ。」
「今度、きちんと、お邪魔するよ。・・・・というか逢えないのは当たり前だろ? 俺がロックオンをしている時のほうが最近は多いんだからさ。」
「すまないな? きみのほうに仕事が増えたんじゃないか? 」
「そうでもない。うちのバカ兄はオーバーワークだったから均等に仕事を分けたんだよ。もう一方の仕事のほうを減らしたからさ。」
「ライル、それ、機密事項。」
そう、実はロックオン・ストラトスは二人居る。神出鬼没、神速のマイスターと徒名されていたのは、二人が双子で連携していたからだった。結婚する前に、それが判明して、グラハムもなるほどと納得した。ただし、これは今でもトップシークレットで、グラハムも自社で、この情報は暴露していない。
「俺が教育してたマイスターたちも、なんとか自力で動けるようになったから、ライルに任せたんだけど、いろいろとあってさ。」
「五月蝿いな。そういう土壌を作ったのは、ニールだろ? あいつらは、俺のことなんて下っ端だと思ってるぞ。」
「まあなあ、刹那がしっかり育ったから、今じゃあマイスター組のリーダーみたいなものだし、おまえが後から参加だから、追々に評価は覆してくれ。」
マイスターは現在四人ということになっている。実際は五人プラスアルファだが、そこいらもグラハムは知らない。
「二の姫と姫では実力的には違いがあるのか? 」
「経験の差が大きいんだよ。俺はフリーランスでもやってたから、非常事態もいくつか経験してるんだ。実力は変わらないと思うんだけどさ。」
「二の姫っていうの恥ずかしいんだけど? 普通にライルって呼んでくれないか? グラハム。」
「そう言われても、私は最高に敬意を表した呼称で呼びたいだけなんだ。二の姫も可愛いと思うんで、ついつい、そう呼びたくなる。」
「可愛い? まあ、ニールは可愛いと思うけど。俺は、ただの三十路のおっさんだ。」
「はははは・・・ニールの可愛さは世界最高だ。意見が同じで嬉しいよ? 二の姫。」
「そおなんだ。この人、すっごく可愛いから、いつか危ないと思ってたんだけど、まあ、あんたが貰ってくれて俺も安心だ。」
「・・・・あのさ・・・俺、おまえと同じ顔の三十路のおっさんなんだけど? ライル。グラハムは目がおかしいから諦めてるけど、おまえまでおかしくなるなよ。」
「姫は自己評価が低すぎる。どうして、私の真実の言葉を受け入れてくれないのだ? きみと二の姫では可愛さは段違いだ。」
「俺もグラハムに賛成。ニールは可愛いんだって。双子だけど醸し出すフェロモンは違うんだよ。だいたい、あんたの「人たらし」能力って、そういうもんだろ? 俺には、ああいう能力はありません。・・・お代わり。」
「そうだった。姫の孔雀色の瞳に射殺されたのは私だ。一目惚れというよりも、もっと激しく恋してしまったよ、二の姫。」
「この人の能力って野生動物にも有効だもんな。それは昔からでさ。子供の頃、公園で遊んでると、ニールの側に犬とか猫が溢れてたぜ? 」
「おおっ、そんなことが・・・二の姫、幼少の頃の話を教えてくれないか? 」
「お安い御用だ。」
「わざわざ、ダブルオーを出すほどの仕事じゃないだろ? そんなもん、網で掬って冷却装置のついた水槽に投げ入れてジェットで運べ。あんな小さなものを掬うのは、ダブルオーじゃ無理だし加速G
で全滅する。」
「でも、急ぎなんだから、しょーがないだろっっ。許可出せよっっ。」
「出せません。往路は戦闘機、帰りはビジネスジェットが妥当。それでも十分に間に合う。経費を考えろ。・・・おまえ、刹那のおねだりなら、なんでもはいはいと引き受けるな。甘やかしすぎだ。」
同じ声がふたつ。どちらも怒鳴っている。グラハムも、ロックオン・ストラトスのトップシークレットを知るまでは、知らなかった事実だ。仕事の話らしいので、しょーがないからリビングに顔だけ出して、書斎に引き上げる。ライバル会社の関係者なので、仕事のことはノータッチが基本だ。姫は、視線で挨拶して手を挙げたが、片方は飛び出てきた。
「グラハム、すまないな? すぐに終わるから。」
「いや、二の姫。息災で何よりだ。仕事の話が終わったら書斎まで呼びに来てくれ。」
「了解。」
と、二人が会話している間に、今度は姫が電話で怒鳴っている。何かしらの問題が発生したのだろう。刹那、と、叱っているから、一番可愛いマイスターのことであるらしい。
「ごめん、グラハム。食事の用意出来てるよ? 」
着替えてシャワーを浴びて書斎で寛いでいたら、姫がやってきた。仕事のことだからグラハムも何も言わない。
「二の姫は? 」
「メシだけ食わせるつもりだけど、いいか? 」
「もちろんだ。二の姫と逢うのは久しぶりで会話を楽しみたい。アクシデントで、きみも出撃かね? 姫。」
「いいや、今回は違う。アクシデントっていうよりは仕事のやり方の問題だ。ライルが刹那の計画を、なんでもかんでも認証するんで俺に説教役が回ってきただけ。」
「はははは・・・きみだって大概、刹那には甘いだろ? 結婚する前に、私が、どれほど嫉妬の焔を燃やしたことか。」
姫は現在も現役ではあが、今は単独で動いている。グラハムと知り合った頃は、教育中の刹那が常に行動を共にしていて、その関係を怪しんでいたのだ。ついでに世話好きでフレンドリーなので、傍目にはイチャイチャしているようにしか見えなかったから、グラハムは嫉妬しまくりで、仕事でも競い合っていた。
「弟妹相手に嫉妬されてもなあ。今日は、牡蠣のクラムチャウダーにしたんだ。白ワインも冷やした。他にリクエストは? 」
「デザートに姫を所望したい。」
両手を広げたら、姫は立ったままで椅子に座っているグラハムの頭を抱き締めて、「存分に。」 と、髪にキスして約束してくれた。
食卓につくと、すぐにサラダとオードブル、メインが運ばれてくる。メインが牡蠣だから、こちらは鴨のスモークだ。ワインを開けて乾杯して二の姫は、クラムチャウダーを口にして、うめぇーと感想を述べた。
「なあ、これ、刹那にも貰っていい? 」
「おまえらだけなら足りるかな。」
「あ、ごめん。ティエとアレルヤも帰ってると思う。他になんかある? 」
「えーっと、この鴨ならあるから、適当に詰めてやるよ。」
「サンキュー、兄さん。今夜中に段取りして出発するから、夜食にちょうどいい。」
「じゃあ、ワインは飲むな。」
「はあ? これぐらいじゃ酔わないよ。控えめにする。」
「二の姫、急ぎなのか? 今夜は泊れるのかと思ったのだが? 」
「ああ、ごめん。急ぎの仕事が入ってるんだ。それに新婚家庭に長々と邪魔したらマズイでしょ? 」
「いや、きみとは、なかなか逢えないから楽しみにしていたんだ。」
「今度、きちんと、お邪魔するよ。・・・・というか逢えないのは当たり前だろ? 俺がロックオンをしている時のほうが最近は多いんだからさ。」
「すまないな? きみのほうに仕事が増えたんじゃないか? 」
「そうでもない。うちのバカ兄はオーバーワークだったから均等に仕事を分けたんだよ。もう一方の仕事のほうを減らしたからさ。」
「ライル、それ、機密事項。」
そう、実はロックオン・ストラトスは二人居る。神出鬼没、神速のマイスターと徒名されていたのは、二人が双子で連携していたからだった。結婚する前に、それが判明して、グラハムもなるほどと納得した。ただし、これは今でもトップシークレットで、グラハムも自社で、この情報は暴露していない。
「俺が教育してたマイスターたちも、なんとか自力で動けるようになったから、ライルに任せたんだけど、いろいろとあってさ。」
「五月蝿いな。そういう土壌を作ったのは、ニールだろ? あいつらは、俺のことなんて下っ端だと思ってるぞ。」
「まあなあ、刹那がしっかり育ったから、今じゃあマイスター組のリーダーみたいなものだし、おまえが後から参加だから、追々に評価は覆してくれ。」
マイスターは現在四人ということになっている。実際は五人プラスアルファだが、そこいらもグラハムは知らない。
「二の姫と姫では実力的には違いがあるのか? 」
「経験の差が大きいんだよ。俺はフリーランスでもやってたから、非常事態もいくつか経験してるんだ。実力は変わらないと思うんだけどさ。」
「二の姫っていうの恥ずかしいんだけど? 普通にライルって呼んでくれないか? グラハム。」
「そう言われても、私は最高に敬意を表した呼称で呼びたいだけなんだ。二の姫も可愛いと思うんで、ついつい、そう呼びたくなる。」
「可愛い? まあ、ニールは可愛いと思うけど。俺は、ただの三十路のおっさんだ。」
「はははは・・・ニールの可愛さは世界最高だ。意見が同じで嬉しいよ? 二の姫。」
「そおなんだ。この人、すっごく可愛いから、いつか危ないと思ってたんだけど、まあ、あんたが貰ってくれて俺も安心だ。」
「・・・・あのさ・・・俺、おまえと同じ顔の三十路のおっさんなんだけど? ライル。グラハムは目がおかしいから諦めてるけど、おまえまでおかしくなるなよ。」
「姫は自己評価が低すぎる。どうして、私の真実の言葉を受け入れてくれないのだ? きみと二の姫では可愛さは段違いだ。」
「俺もグラハムに賛成。ニールは可愛いんだって。双子だけど醸し出すフェロモンは違うんだよ。だいたい、あんたの「人たらし」能力って、そういうもんだろ? 俺には、ああいう能力はありません。・・・お代わり。」
「そうだった。姫の孔雀色の瞳に射殺されたのは私だ。一目惚れというよりも、もっと激しく恋してしまったよ、二の姫。」
「この人の能力って野生動物にも有効だもんな。それは昔からでさ。子供の頃、公園で遊んでると、ニールの側に犬とか猫が溢れてたぜ? 」
「おおっ、そんなことが・・・二の姫、幼少の頃の話を教えてくれないか? 」
「お安い御用だ。」