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砂上の国

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 フランシス、フランシス、そううわ言のように自分の名前を呼ぶ少女一人に、自分は返事一つ出来なかった。自分が何か一つ、アクションを起こした途端、目の前の彼女が崩れ落ちそうな気がするのだ。何か一つ、これ以上彼女を傷つけたくなかった。彼女は今、彼女自身で自分を保つのがやっとのようなのだから。彼女は次第に小刻みに震え始めた。嗚咽はまだ続いている。嗚咽だけが響く静かな独房に二人だけの空間。側のドアか二度叩かれる音が小さく響いた。時間が来たと向こう側の人間が告げにきたのだ。俺は黙って返事はしなかった。自分の立場を痛いほど理解していたからだ。自分には彼女を救う力も権利もないのだ。そもそも概念である自分に何故意思や感情や思考があるのだろうか、考え出すとキリがない。彼女は自分のことなどおかまいもなしに自分じゃない自分と会話を続ける。どうしてかしら、そう辛うじて声になっていたが、それから吐き出す言葉はどれもかすれて聞き取ることが出来ない。意識を集中して、彼女の声にだけ、耳を澄ます。


「聞こえるのに、それなのにどうしてか、よく聞き取れないの」


どうして、何故、神よ、どうして、どうすればいいのか、そううわ言のように呟き続ける。日のひかりが一瞬だけ、揺らいだ。


「でも声がするのよ、フランシス」


 彼女はついに言葉がつまったのか、顔を歪ませるなり、両手で顔を覆った。細く骨張った白い指と指の間から、相変わらず<それ>は滴り落ちていた。自分の声を外の人間に悟られまいと声を押し殺す様を、なんと言葉にしようか。そんな様を見て、出て来た言葉はたった一言だけだった。ただ一言、それしか言葉にならなかったのだ。


「そうだね、ジャンヌ」


 けれど彼女の言う<声>はまだ救いにはこない。







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20100106 砂上の国
作品名:砂上の国 作家名:エン