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りんごあめ
りんごあめ
novelistID. 54916
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彼の望み、彼女の覚悟

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戦いは互角のまま終盤を迎えていた。
お互いに残り一人分の余裕しかない。
そんな中、鏡磨はふと疑問を感じる。
「なんでこんなに体力に余裕があんだよ。」
鏡華が率先して自分を回復してくれたのだろうか…
そう思い周りを見回すと、自分がしているであろう表情と同じ顔の徹と目が合う。
その瞬間、鏡磨の身体は無意識に動き出した。
「鏡華があぶねぇっ。」
叫ぶ声はすでにいた場所から遠くに聞こえる。

「どうしよう、回復計算ミスっちゃった。」
回復ばかりに気をとられ、自分の体力を見落としていたと自傷気味に苦笑いする鏡華は運の悪いことに味方から離れ一人になっていた。
「こんな所、見つかったらひとたまりもないわ。とにかく誰かと合流しなきゃ。」
鏡華がジャンプしようとしたその時、ボーラが鏡華の足元に巻き付く。
「なっ、これはっ。」
誰っと声をあげながら周りを確認しようとする鏡華。すると、上方の方から声が響く。
「きゃははは、フロンティアの鏡華様もアホの子ですー。」
楽しそうに笑うのは制服を纏った敵方のしづね。可愛らしい笑顔とは裏腹に手にする火炎放射機は禍々しく鏡華を狙う。
「さっさと死にな。」
自分の少ない体力、足元に巻き付くボーラ、感じる事の出来ない見味方の気配。
鏡華は覚悟を決めきっと目を瞑った。

しかし、その衝撃はこなかった。

恐る恐る目を開けた鏡華の前には、ワープガンで飛んできたのであろう虎之丞が庇うようにたっている。
「ぐっ、この程度…。」
「虎さん!」
全身に火傷をおった虎之丞もかなりのダメージを受けていた。しかし、鏡華の残りにの体力を考えればその場を動くことは、彼には出来なかった。
「いいですよー、二人まとめてお掃除完了ですー。」
再び銃口を向けるしづね。火炎放射機の威力を考えると二人とも殺られるのは必至だろう。
(いちか、ばちか、放たれた瞬間に真正面からの格闘を試みるぜよ。)
虎之丞はあくまでも、鏡華を助ける方法を考える。
虎之丞が態勢を整え、しづねがニヤリと笑った瞬間、虎之丞の背後に蝶型のビットが現れた。
「しまった。」
しづねが言うが早いか、ビットから攻撃が放たれる。

それが、勝敗を決めた。

しづねの体が少しずつ消えていく。
良かった、鏡華が危険が去ったのを確認した瞬間に鏡磨が鏡華たちのもとへ駆けつけた。
「アニキ…ッ。」
「大丈夫か、鏡華。」
息を切らせ駆け寄る鏡磨に、鏡華は抱きつきながら答える。
「うん。虎さんが庇ってくれて、凛がパラサイトで助けてくれたの。」
「そうか、所で虎之…」
「虎様っ。」

駆けつけた凛はすぐに虎之丞へ駆け寄り、その凛の姿を見つけた虎之丞は凛に倒れこむように体を預ける。
全身の火傷を考えればもう体力は限界であろう。
だが、普段とは様子がちがう。鏡華が、その様子の変化を言葉にした。
「なんで、体が消えないの…?」
なにか、嫌な予感がする。そこにいる全員が息を飲んだ時、九美からの通信が入った。
「皆さん、落ち着いてください。時空の歪みが発生しました。一刻も早いタイムリープが要します。他の方々の帰還は既に完了しました。……尚、この、時空の歪みの発生で、皆さんの復活は不可能です。体を、こちらに呼び戻す事が不可能となっています。」
終わりの方は…声になっていなかった。その、九美の様子が、その意味を示している。
「そんな…。」
「じゃぁ、このままだと虎さんは…。」
鏡磨と鏡華はあまりに突然のことに言葉を失う。
「私が、私のせいだ。私のせいで…虎さっ」
虎之丞たちに駆け寄ろうした鏡華を鏡磨が肩を掴んで止めた。
「なにすんのよ、バカアニキ。止めないでよ。」
「今、虎之丞の近くにいるべきはお前じゃねー。それに、誰のせいとか、悪いとかそんなことは言うべきじゃねーよ。これは、戦争だ。それがわかんねーなら、お前はもう戦うな。」


「んっ…ぐっ…」
虎之丞が微かに目をあける。凛との近い距離に驚くも苦笑いを見せた。
「こんな所をみせて、お恥ずかしいぜよ。しかも最後は凛殿にたすけて頂いた。」
言葉では軽口を叩くも、虎之丞の声は弱々しく、呼吸も荒い。
「虎、様……」
「凛殿、なにも言わなくていいぜよ。何時もと違うのは体で分かり、その結果は頭で分かっているぜよ。」
(もう、凛殿の近くにいることも叶わない)
「覚悟はしていても、いざとなると怖いものぜよ。」
「虎様、わっちはっ……」
凛の声が微かに震えている。そんな彼女の姿を見るのも初めてだと虎之丞はどこか冷静に見つめた。
(いっそ、散るなら彼女に散らされたい。)
もう話すのも辛い己の体に鞭をうち、虎之丞は凛に語りかける。
「凛殿、無理な頼みとは承知で申す。最後は…凛殿の手で、終わらせてくれぬか。」
「虎様、そねえなこと、言わないでおくんなんし。」
嫌だと子供の様に首を横に振る凛に、あぁまた初めて見る彼女だと虎之丞は微かに笑みを浮かべる。
「拙者の、最初で最後の頼み、聞いてはござらぬか。どうか……」
凛は顔を下に伏せ、表情は伺えない。
(あぁ、息を吸うのも辛くなってきたぜよ。凛殿。)
意識も朦朧としてきた虎之丞之目線が、顔を上げた凛の目線とぶつかる。
凛は口を強く噛み締めた後、覚悟を決めた様にその体を虎之丞に寄せた。
(なっ、これ、は……接吻?)
なんの前触れもない口づけに、目を見開く虎之丞。時間にすればほんの少しの時間だか、彼は永遠をも感じる。
「……り、ん、殿?」
なぜ、と問いかける虎之丞に凛は寂しそうに微笑みながら答える。
「わっち、戦いの時にはいつも紅に毒、塗ってありんすよ。敵に命を捧げるくらいなら、自ら散りとうざんしょ。」
小さくそう呟く凛。その意味を理解した虎は涙を浮かべて、そっと彼女の頬に手を触れた。
「拙者は、二つも凛殿に望みを叶えてもらったぜよ。一つは凛殿の手でち散らせてもらったこと。もう1つは、その高嶺の花に触れることを許されたこと。」
「凛殿、感謝するぜよ。」
笑顔でそういった虎之丞は、吐血する。

そして、その命の鼓動を止めた。


九美の通信が響く。
「皆さん、タイムリープの準備が整いました。…早く、戻ってきて下さい。」
そう伝える少女の声には涙の様子が含まれていた。
鏡華や鏡磨の目にも、それぞれの思いから涙が浮かんでいる。
そんな様子をみながら、凛は静かに目を閉じる。
(わっちは、泣けまへんなー。涙は、母さんが死んだときに全部流してしまいんした。)

(でも、)
そっと、己の唇に触れる凛。
(今ここで、唇を舐めてしまいたいと思うくらには、虎様はわっちの中で大きな存在でありんすよ。)
(そんなこと、虎様は望まないでありんしょ。だから今は死ねない、だってわっちは
虎様の高嶺すぎる花。)

「さぁ、お二人とも戻りんしょ。そして、この戦いは、必ずわっちらが勝つんでありんす。」