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【弱ペダ】Talk, Tease, and Shut Up!

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「そう言えば、オメさん、今日バレンタインだって知ってたかい?」
 き、とブレーキが鳴る。自分の言葉の意図するところを察したのか、荒北が酷く不機嫌な顔でこちらを見る。
「だァから、何だよ」
 だからなんだよ、なんて口先だけだ。こっちの言いたいことは先刻承知のはずだ。
 新開と荒北の間では、言わなくても判っているから敢えて口にしない場合もあるが、逆に知りたくなくて互いに口にしない事も多い。進学する大学もつい最近まで知らなかった。多分一緒の大学には行かないだろうと判っていたからでもあり、その現実を認めたくなかったからでもある。それでも、相手への気持ちは口にした。どうしても伝えたかったからだ。それなのに、本当に聞きたいこと、言いたくないことは茶化した口調で言うこともある。今はどうするのがいい?
「靖友は俺にくれないの?」
「アァ? 何でオレがやらなきゃなんねーンだヨ。うっぜ!」
 結局茶化した口調に、荒北はにべもなく言い捨てる。いや、吐き捨てる、と表現した方が正しいかも知れない。カツカツとシューズについた金具を鳴らしながらコンビニに入っていった。
「あ、俺ドリンクとエネルギーバーを頼むよ」
「っせ。自分で行けよ、バァーカ!」
 ブツブツと文句を言いながら店内に入っていく荒北の後姿を見送る。さて、異常なほどの照れ屋で異様なほど口が悪い彼は、一体どう返してくれるだろうか。
「おらよ」
 暫くして出てきた荒北は手に提げていた袋を一つ差し出す。
「助かる」
「っせ! こんなとこでダラっとしてるくれーなら自分で行けよ」
 差し出した両手に、存外優しく袋を落とす。口から覗いた品物に、新開は目を見張った。エネルギーバーのパッケージがチョコレート味を主張している。
 まさか、と取り出してみれば、チョコレートバナナ味のエネルギーバーだった。
「靖友」
 あ? と柄の悪い返答を返した彼は、隣で店舗の壁に寄りかかりながらクリームを詰めた小さなパンを頬張っていた。首筋を流れる汗、大きく開けた胸元が上下する。新開の呼びかけを理解したのか、言い訳をする前に顔を赤くして隣から立ち去ろうとした。
 ああ。
 妙に納得した気持ちになる。たまらず荒北の進路を塞ぐように壁に手をついた。ああ、そうだ。壁ドンしたくなる状況ってのはこういうことか。間近に荒北の顔がある。その瞬間東堂の言葉が蘇る。
 ――耳元で好きだと囁いて、完璧な壁ドンだと言えるのだそうだ。
「やすと……」
 至近距離で好きだと囁こうとしたが、それは果たせなかった。荒北の手が新開の首に掛かっている。力強い指で喉が締め上げられ、息は辛うじて出来るが、声が出せない絶妙な具合に下から押し上げられていた。
「んだ、テメー。やろーってのか。アァ?」
 違う、違うんだ。必死に身振りで否定するのに、ギリギリと喉が締め付けられていく。本当に息が止まってしまうかも知れない。最近はすっかり荒北の言動を読めるようになったと思っていたし、罵詈雑言までは覚悟していたが、流石にこれは想定していなかった。これ以上はヤバイ、と思ったところで、やっと解放された。
「新開、テメー、どー言うつもりだよ」
「壁ドンてやつだよ。今流行ってるんだ。女の子がされたらドキドキするらしい」
 咳き込みながら答える。
「ハ? ああ。ドキドキね。そりゃそーだろうな」
 荒北は納得したような顔をする。この反応も新開の想定外だ。ぽかんとしていると、どけよ、と荒北が新開を押し退けてバイクの方へ歩いていく。
「大体ケンカかカツアゲって相場が決まってるじゃなァい」
 新開はがっくりと肩を落とす。そうだった。荒北は荒れていたのだ。本人が話したくなさそうなので、詳しく聞いたことはないが、もしかしたらそう言う状況に遭遇した事もあるのかもしれない。いや、あるのだろう。
「女も物騒だな」
 コエー、コエー、とたいして怖がっていなそうな口調で呟く。いやいや、そんな物騒なことを思うのはお前だけだよ、靖友。そう思ったが、新開は黙っておく事にした。壁ドンで靖友が俺にドキドキしてくれそうな日は、当分来なさそうだ。
 ちょっと残念だと背中を追う。こちらに背を向けた耳たぶが赤くなっていた。
 言わなくても、はっきりと伝わることもある。
「食べさせ……」
「ざけんな、バァーカ!」
「大事にする……」
「食えよ! 折角買ったんだからァ!」
 うなじまで赤くしながら、普段どおりの悪態を吐く荒北の後姿を苦笑しながら見つめる。言葉とは裏腹の態度は、能弁に彼の気持ちを物語っている気がした。黙っていたって判るくらいに。素直にドキドキしている顔を正面から見せてくれる日も近いかもしれない。
「嬉しいよ」
「っせ! もう黙れ!」
 ……多分。


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