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こらぼでほすと 四十数年後の双子

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さて、本日の特売はなんじゃろか? と、ニールは買い物籠を掴んで寺の山門を降りていた。なんせ、たくさん食べるおサルさんがいるので、特売を重視しないと怖いエンゲル係数になってしまうから、そこいらは確実にゲットすることにしている。今日は、特区の節句で、基本的にはちらし寿司とはまぐりのお吸い物だが、それでは足りないから、煮物やら焼き物を用意する。

・・・・んー、はまぐりの他には、あさりも特売だからキャベツと煮物にするか・・・あとは・・・炊き合わせして・・・イイダコの煮物にしようかな・・・・

 春らしいメニューを考えつつ山門の階段を下りたら、そこで数人の人間と行きあった。
「ほら、みなはれ、八戒はん。」
「危ないとこやった。ニールちゃん、ちょっと待っとくれやす。」
 狐のおねーさんたちが、買い物籠を取上げた。何事だ? と、ニールも立ち止る。さらに後から追いついた沙・猪家夫夫も手を挙げて挨拶している。
「ニール、ちょっと寺に戻ってください。」
「なんかあったんですか? 八戒さん。」
「まあ、いいから戻れ、ママニャン。」
 がやがやと押し戻されて寺に引き戻された。確かにイベントデーではあるが、沙・猪家夫夫のやっているバーでは、このイベントに何かやるとは聞いていない。
 寺のほうには黒猫とじいさんが一人いるのだが、近所に出るだけだから声はかけなかった。

「ライルちゃん? どこやのん? 」
 バタバタとおねー様方が回廊を走っている。はいはい、と、私室からライルが顔を出す。
「ニールちゃんが買い物に出かけようとしてはったえ? 」
「ちゃんと見張っておきなさい、と、言いましたやろ? 」
 おねー様方に叱られて、ライルはきょとんとしている。それから事情を聞いて、ごめんごめんと謝った。
「まだ買い物の時間じゃないと油断してた。掴まえてくれたのか? 」
「当たり前ですやろ? もう飲みましたな? 」
「ああ、朝から飲んでおいた。体調は万全だぜ。」
「ほな、ニールちゃんと出かけておくれやす。ちょっと見栄えのする恰好にしといて欲しいわ? 」
「夕方まで、適当に遊んでておくれやす。でも、ニールちゃんを満腹にしたら、あきませんで? 」
「へーへー、了解いたしました。俺が、ばっちり極めさせておくから、安心してくれ。」
 ふふん、と、ライルはプラチナカードを手にしている。ニールが仕送りしていた分やら何やらで、たんまりとカードには残高があるのだ。
「髪も整えて欲しおすな。綺麗な子やのに、あんな恰好ばっかりなんやから。」
「そうだな。どっかの美容室に放り込むか。」
 おねー様方とライルが、ちらりとニールを見る。いつものようにフリースにジャージ姿だ。近隣にしか出かけないので、すっかり楽な恰好に定着している。
「何かお手伝いですか? ねーさん方。」
「ちがうのん。ニールちゃんは、これからお出かけして、あんじょう綺麗にしてもらいなさい。」
「いや、晩飯の買い物に・・・」
「それは、こっちでやりますよ、ニール。」
「でも、煮物とちらし寿司のタネは用意してあるんで・・・」
「はいはい、承りました。それも完成させておきます。他には? 」
「えーっと、特売のはまぐりでお吸い物を。あとは特売のあさりとキャベツで煮びたしの予定でした。」
「ひな祭りメニューですか。わかりました。」
「おいおい、ママニャン、その恰好はないだろ? せめてコートぐらい羽織れ。」
「いや、もういいよ、悟浄さん。下着から何から全部フルコーディネートしてくる。せっかく、そんなに可愛いのさ。俺も前から思ってたんだ。今回は、これを使うぜ。」
 キラリーンと光っているプラチナカードに、はあ? と、ニールは呆れ顔だ。
「たまには、兄弟でゆっくりと楽しんできてください。」
「いやいやいやいや、八戒さん? てか、ライル、それは、おまえのだろ? 」
「うるさい。つべこべ言うな。今日は、俺が仕切る。あんたは黙ってついてきなさいっっ。」
 強引に腕を掴んでライルが外出する。すっかり、じじいになったライルだが、オシャレなのは相変わらずで、きっちり外出着だった。なんのことやらな状態のニールは、勝手に連れ出された。



 大通りでタクシーを止めて、百貨店に連れ込まれた。そこで、紳士服売り場で、いきなり、全身フルコーディネートさせられた。
「うちの孫は出不精でな。申し訳ないが下着から全部、綺麗にしてやってくれないか? あと、ここには美容室はあるかな? 頭も綺麗にしてやって欲しいんだ。時間は二時間。オッケー? 」
 ライルがプラチナカードを、ちらちらと見せて店員を動かした。もちろん、ニールには問答無用だ。店員たちが恭しく、どんどん着替えをさせられて、最後に美容室に放り込まれた。
「それは捨てて。買ったものは、ここに送ってくれ。あと、ハイヤーの手配してくれるか? 」
 優雅にティールームで待っていたライルは、実兄を上から下に眺めて、にっこりと微笑んだ。それまでに着ていたものは全部、廃棄処分にした。なんせ、下手すると十年ものの靴だのジャージだのというものだったからだ。何を言っても聞いてもらえないのは、いつものことだから、ニールも諦めている。
 手配してもらったハイヤーに乗せられて少し離れたホテルに連れられた。
「腹は空いたか? ニール。」
「うーん、それより疲れた。・・・・なんの騒ぎ? 」
「俺がニールとデートしたかっただけ。あんたさ、そうやって身繕いすれば、綺麗で可愛いんだからな。・・・・さて、何を食べようか? リクエストは? 」
「おまえのお勧めでいい。」
「じゃあ、のんびり個室でメシだな。」
 上階にあるレストランの個室で、少し遅い食事をする。たまには、本格的なフレンチを、と、ライルが注文した。もちろん、シャンパンも最高級だ。カチンとグラスを合わせた。眼下のホテルの庭園は盛りを少し過ぎた紅白の梅と、これから盛りになるこぶしのはながちらほらと見えている。それを眺めて一杯目を飲み干した。
「愛してるよ? ニール。」
「俺も愛してるよ、ライル。てか、なんなの? この贅沢三昧は? あの服、どーすんの? 」
「着ればいいだろ。勿体無いって隠すなよ? もうサイズは判明したから、今度から勝手に補充するからな。」
「え? 」
「あの百貨店でサイズも測られただろ? 適当に俺が入れ替えてやるから。わかったな? 」
 こちらで同居することになって、ライルも寺に住んでいるのだが、実兄が衣服に頓着しない度合いが、さらに悪化していたことが判明した。さすがにホスト時代のものはなくなっていたが、ほとんどが十年ものの衣服だし、買い換えても量販店のジャージやらフリースだ。リジェネと悟空が、どんなに注意しても笑ってスルーしていたらしい。ということで、ライルが一計を図ることにした。サイズさえ判明すれば、勝手にできるので百貨店でフルコーディネートさせたのだ。これでニールが太らない限りは、あの百貨店で用意できる。
「随分な散財しただろ? 」
「散財? 冗談じゃない。あれは必要な投資だ。俺のニールを可愛くするのは俺の使命。うちのダーリンが惚れるぐらいに可愛くしておかないと俺が〆られるぜ。」
「三十路のおっさんなんだけど? 」