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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 2

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「最初のころは一人で座れないなんて聞いてたから、どうしたもんかなーと思っとったんだがね」
車椅子に座る谷山さんの頭を、大きな手で撫でる師匠。
「なかなか芯が通った子だ。修行をこの体でやり遂げてしまうとは」
師匠は笑顔で片目をつぶる。
「もっとそばに置いて、わたしの後継者にしたい位だよ」
その言葉に不機嫌さをあらわにするのは、もちろんナル。
噛み付く前に先手を打とう。
「一年というお約束でしたから。師匠、貴方の目から見て二人はどうでしょう」
「麻衣は相当な式神使いだし、符術もなかなかのものだ。精神的にも落ち着いてきているから、冷静に物事を判断し、正しいものを見通す目も濁ることはないだろう。ナルは……不器用なんだよねぇ。麻衣のことが気になり過ぎて、集中力がおざなりになる。ま、二人一緒に居ればそこいらの陰陽師には負けんよ」
そういうと師匠は二人に紫の風呂敷に包んだものをそれぞれ渡す。
「開けてごらん?二人とも」
それを広げてみた二人は目を見開いた。
風呂敷の中には裏に浮き出るように掘られた六芒星に金箔が張られ、石が配置されている鏡と、小刀。
鞘を抜くと黒い刀身に光る北斗七星。
そして谷山さんの風呂敷の中にはその他に一冊の本が入っていた。
「鏡は映ったものの本性を現す。そしてときに強力な盾になる。七星剣は使い方次第で守るものにも、戦うものにもなる」
師匠は谷山さんの横にしゃがみ込んで、ナルの方には入っていなかった本をそっと撫でる。
首をかしげる谷山さんに、師匠は優しく笑いかけた。
「これはうちにある、大切な書を書き写したものだ。今までは渡しても使いこなせなかっただろうが、今の麻衣ならできる。麻衣が一番したかったことをしに行きなさい。それが一番の修行だよ」
《はい!》
師匠が立ち上がり時計を見る。
「新幹線の時間に遅れてしまうよ。階段を降り切ったところに、タクシーを呼んであるから早くいきなさい」
《お師様、ありがとうございました。またいつか修練に来てもよろしいですか?》
「ああ、いつでもおいで」
「師匠、わがままを聞いていただきありがとうございました。麻衣ともどもまた修練に参ります」
「ああ、いつでもおいで。ついでに結婚の知らせも聞かせてもらえるとうれしいね」
少し頬を赤らめるナル。
ここに来たのは、谷山さんの為だけではなく、ナルの情緒にもいい影響を与えたようだ。
「麻衣、背中におぶされ」
《下まで大丈夫?》
「大丈夫だ。リン、車椅子を頼む」
「はい。わかりました」
そして私たちは一年間過ごした京都を後にした。


京都発、東京行きの新幹線がもうすぐ到着する。
リンから連絡をもらった俺たちは、一年間も離れていた3人を迎えるべく、新幹線のホームにいた。
しばらくすると列車がホームへ到着する。
あらかじめリンから聞いていた号車番号のドアの前で待っていると、まずナルが降りてきた。
お?こいつまた少し背ぇ伸びたんじゃねぇの?
そして駅員がプレートみたいなやつを持ってくる。
ああ、そうか。
車椅子には少し段差が大きすぎる。
車椅子を降ろす準備が整うと、リンに車椅子を押され、後ろ向きにゆっくりと、麻衣が降りてくる。
一年は俺たちにとっても、麻衣にとっても大きかったらしい。
麻衣の髪の毛は背中あたりまであって、最後に逢った時よりも色が薄く見えた。
リンが駅員に丁寧にあいさつすると、俺たちはエレベーターに乗って駅の改札へ出た。

みんなにぎやかに話がしたい。
そう思ったからあえて場所をオフィスにした。
昼間の内に少年のカギで事務所へ入り、綾子主体で料理ができていく。
リンの連絡の時、陰陽道も精進潔斎があると聞いていたから、なるべく野菜中心のメニューを綾子の奴もチョイスして来たみたいだ。

「ぼーず!そろそろ新幹線の時間じゃないの?!」
時計を見ると、確かに新幹線の時間が迫っていた。
「やべっ。みんな一端やることやめて、地下駐の車に二手に分かれる事!どの車に乗るのかはくじ引きの通りで。帰りは逆にしちゃるから、ぶーぶー言わんでくれよ?」
とりあえず言うこと言って、俺は先に車へと向かった。
車は俺の車と、車椅子が収容できるようになったワゴン。
ワゴンはレンタカーだ。
運転するのは俺と、免許を取った安原少年。
両方のカギを開けたところで、みんなが降りてくる。
ぜーったい麻衣の乗る方に乗りたがるだろうから、あらかじめくじ引きで車を決めておいた。
なぜだかくじ運がいい真砂子は後ろの車。
ギャーギャーうるさい綾子と、苦笑いのジョンはこっちの車。
バックミラーで後ろの準備ができたことを確認して、俺たちは夕方の渋谷を東京駅まで向かった。そして……一年ぶりの3人に出逢う。


車に案内されて、ナルに抱えてもらってワゴンの後部座席にナルと真砂子に挟まれて座る。リンさんは助手席。
《安原さん、車運転できるようになったんですね》
「ええ。少年探偵団やるには、車の運転が不可欠でして。それにしても谷山さん、随分と落ち着かれましたね」
《それが私の修行でしたから。心を無にして周りの雑音を排除する。それが基本です》
車に乗った時から、腕を絡ませっぱなしだった真砂子が首をかしげる。
それに気づいたあたしも首をかしげる。
《何か変?》
「麻衣、その喋り方、どうしたんですの?」
「師匠との約束。人前ではたとえテレパシーを使って会話をしていても、唇はちゃんと動かすようにと言われていた」
ナルがボソッと返事をする。
真砂子はちょっと不機嫌。
《声は出ないけど、一般人にはこの方が受け入れられるし、陰陽道の本質は言の葉にあるの》
「言の葉ですか」
「谷山さんの場合、聞こえない言の葉で式神を操り、符術――つまり札や呪具によって攻撃や守りを固める。他の弟子よりも跳びぬけた才能を持っているそうです」
リンさんが説明してくれると、真砂子はなぜか意地の悪い笑顔でナルを見た。
「ナルはどうでしたの?集中力抜群のナルですもの、よほど優秀だったのでしょう?」
ナルはブスッとして答えない。ふてくされてるみたいだ。いつまで経っても答えないナルに、リンさんは一つ溜息をつくとこう言った。
「及第点はもらえなかったということで……」
「落第はしてない」
「やっと下山を許された身でしょうに。それも谷山さんのお付きで、というのが大きいのですよ?集中力が足りなくて注意されるなんて、貴方らしくない」
嵐の予感。
このままだと血の雨が降る。
あたしは着物の袖から一枚の符を出して、折り折りとその場で符を折っていく。
不思議そうな顔でそれを見る真砂子。
〈安原さん、ちょっとびっくりするかもしれませんが、運転、気を付けてくださいね〉
非常事態。
安原さんにだけテレパシーで注意をすると、呪を唱え、ふうっと符に息を吹きかけた。
すると手のひらの上の鳥の形をした符は、ふわりと宙に浮かび、ちょうどリンさんとナルの間で、ポンと音を立てて破裂して、紙吹雪が舞った。
これにはみんな目が点。
《喧嘩しなーい。リンさん大人気ないです。ナルは子供すぎ。やっと帰ってきたのに、オフィスの片隅で二人して座禅組みます?》
「「申し訳ありませんでした」」
《よろしい》
その光景に真砂子は目が点。
安原さんは吹き出した。