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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 2

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「すごいですね!やっぱり谷山さんがいなくちゃSPRはつまらない!」
「麻衣、あたくしも修行すれば、ナルと対等に渡り合えますかしら」
《対等かどうかはわからないけど、精神統一すれば道は開けるかもよ?》
そんなこんなで車は道玄坂をのぼり、オフィスにたどり着いたのだった。

《あ、紙吹雪片づけなくちゃ》
「やっておきますよ。ナルが」
リンさんさりげなく鬼だ。
今度はリンさんに抱き上げられて車椅子に座る。
そしてちょっと離れたところからナルのお手並み拝見。
全部のドアを開けて呪を唱える。
服のポケットから符……って、ただ紙吹雪を飛ばすだけに、符を使うような強い風など必要ない。
あたしは自分で車椅子を動かし、ナルの横についた。
《ナル、駄目》
そっと手を伸ばしてナルの手を押さえる。
動きを止めて、あたしを見下ろすナル。
あたしはナルを見上げて少し微笑んだ。
《ナルの悪い癖。力をコントロールするのって確かに難しい。けど、加減をまったくしないまま力を使えば、やがて返しの風が吹く。符は道具。自分の力を引き出すための鍵に過ぎないから、結局使う本人がコントロールしてあげないといけないの。あたしが力加減を教えてあげるから、練習してみよう?》
ナルはじっとあたしを見つめると、符をポケットにしまった。

ナルと手を繋ぐ。
そしてあたしは目を閉じる。
ナルの中に強い力を感じる。
PKにも似たそれを確認したあたしは、ゆっくりと目を開けた。
《ナル、まずは肩の力を抜いて。緊張しすぎは失敗の元だよ?》
ナルはあたしの言葉を聴いて、大きく二回ほど深呼吸をした。
《今回呼ぶのはなに?ナル》
「……風」
《そうね、風神だわ。風神の風はどんなもの?》
「――嵐」
《それだけじゃないよ、よく思い出して》
「火の勢いを強め、また、抑えることも可能。――命を育む元素のひとつ」
《そう。物事には陰と陽がある。何事もひとつではないから、力を使うときにはその力の本質を見誤らないこと。これが基本》
キュッとあたしの手を握るナルの手に力が入る。
《じゃあ実践ね。出来るだけ強くイメージして。優しい風が、開いたドアから入って、紙ふぶきを外に散らすことを》
ナルは目を閉じてイメージしているようだ。
《ナル、己の中の青い炎を抑えて。ナルの本質は火。静かな青い、熱い炎。今は燃やすのではなく呼び込むの、空気を。炎で熱せられた空気は風を呼ぶ》
ナルの中の力が安定していく。
《ナル、強すぎ。もっと力を抑えて。そう、もう少し緩やかに。自分の中に水が流れる感じで。うん、そう。ナルは基礎ができてるんだから、後は力の出し方の問題なの。――ナル、もう少し力を抑えて。そう、そうね。――ナル、風神を呼び出して。風は貴方の命に従う》
ナルは目を開けると、繋いでいないほうの手で剣印を組み、迷いのない声で呪を唱えた。
「風神招来、急急如律令」
さぁっと柔らかい風が吹き、助手席から紙吹雪が全部、反対側に舞い散った。
《ナル、この感覚を忘れないで。あたし達陰陽師は、万物の理をつかさどるもの。強い力と、律する能力。そして信じるは己の心。正しきを行い、乱れた力を調律する調律師。忘れないで、ナル。あたしたちは自然の力を借りているに過ぎない。力は陰陽師によってコントロールされてこそ術となる》
手を離すとナルはちょっと名残惜しそうだった。
そして当たり前のように、あたしの髪を一房手にとって、そっとキスをする。
まだ少し恥ずかしいけれど、これはナルの精神安定剤の代わり。
最初の頃は不安定で、何かあるごとにあたしを抱きしめて、あたしの中から自分を見つけ出そうとしていたから。
抱きしめるから、手を握るに変わり、こんな風に髪にキスで落ち着くようになったのも最近のことなのだ。
《さぁ行こう?あたしたちの居場所へ。すべての始まりの場所へ。ね?所長?》
「ああ。そうしよう。だが……」
がばっとナルがあたしを抱きしめる。
え?ええ?!いきなりのことで驚くあたし。
抱きしめ癖は治ったと思ってたから、余計に。
「しばらくぶりでなんだか落ち着かない。……少しだけこのままで……」
こんなときのナルは迷子の子供みたい。
不安そうな顔をしてるのを、本人は気づいてるのだろうか。
あたしはナルの背中をぽんぽんと叩く。
《少しだけだよ?ぼーさん煩いし》
あたしはリンさんに羽交い絞めにされて、悲鳴だか、絶叫だか分からない声を上げているぼーさんを、ナルの肩越しに見た。
そして赤い顔の真砂子、ジョン。綾子と安原さんは楽しそうに笑っている。
しばらくして落ち着いたらしいナルは、あたしの頬に軽くキスをして離れた。
もうっ、なんて事するんだ。
うちの所長は。
「まぁぁいぃぃ」
「うるさい、ぼーさん。行くぞ麻衣」
《うん、ナル》
あたしは落ち着いたナルに車椅子を押してもらってエスカレーターのところまで行った。
まだうるさいぼーさんを静めるために、ナルはあたしを抱えて二階に連れて行くのを、ぼーさんに譲る。
「ぼーさん。麻衣を抱えて二階へ連れて行ってやってくれ。リンは車椅子を。僕は最後に上る」
「はい」
「麻衣、しっかり捕まってろよ~」
あたしはぼーさんに抱きかかえられてエスカレーターに乗った。

エスカレーターに麻衣を抱えて乗る。一年ぶりの麻衣はやっぱり軽かった。
足を使わねぇから骨と皮みたくなっちまって……。
《ぼーさん》
「なんだ、娘よ」
《負けないからね》
「?」
麻衣はにやりと笑って、こう言った。
《もう半人前じゃないってこと。ぼーさんにも負けないよ?》
「おう、期待してるぜ?陰陽師様」
そうしているうちにエスカレーターを上りきり、車椅子を抱えたリンが上ってくる。
車椅子を開いてそっと降ろすと、麻衣はやっと安心したように大きなため息をついた。
「疲れたか?」
ワシワシといつもの通りに髪に触れようとして、一瞬戸惑う。
それに気づいたのか、麻衣は俺の手を持って自分の頭に乗せた。
《いつもの通りでいいんだよ?ぼーさん》
「おー娘よー。髪のびたなー」
リンがそれに答える。
「修行先では、たとえ自分の髪と言えども、刃物で切ることが禁止されています。ナルは最後の日に、早く切りたいと駄々をこねたので私が切りました」
ちょいちょい
リンを呼んで小声で聞く。
「お前さん所のお坊ちゃん、わがまま度が増してね?」
「……たぶん何でもできると思っていた高いプライドが崩れて、幼児化しているのでは……?それに谷山さんに依存しているところがありますので……」
「お互い大変だな」
「そうですね……」

《先にオフィスに行っちゃうよ》
一応リンさんとぼーさんに声をかけて綾子の押してくれる車椅子でオフィスに着く。
恭しく安原さんがドアを開けてくれる。
ここの間口はギリギリ通ることはちゃんと経験済み。
気が付くとドアの横にあった観葉植物が別の場所に置いてある。
ああ、あたしの為にずらしてくれたんだ。なんだかうれしかった。
「それじゃあ、失礼させてもらいますです」
ジョンのお日様の匂い。
車椅子からソファーに移るために、今度はジョンがあたしを抱き上げてくれた。
そっとソファーの真ん中へ降ろしてくれる。
懐かしいソファー、懐かしいオフィス。