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【腐向け】歓喜の日【普独】

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歓喜の日



よし、とプロイセンが己の体を見回した時、丁度二度のノックが聞こえた。
「兄さん、着替えは終わったか?」
ドアの向こうから聞こえるのは弟の声で、プロイセンは簡単におうと答える。
入れよと言えばやや躊躇いの間があってから、カチャリと音立てドアが開けられた。
「……………」
プロイセンは入ってきたドイツの姿に言葉を失う。
自分と同じ礼服を着ているはずなのにと驚き、まじまじと見つめた。
普段仕事で着ているスーツと同様、ぴしりと乱れなく着込まれた礼服。
今の上司から『つけて来なさい』と渡された赤い薔薇のコサージュが左胸を飾り、シックなブルーグレイのネクタイとマッチしている様は、いかにもドイツらしい狂いの無いスタイルで。
…流石ヴェスト。男前過ぎるぜ。
今日ヴェストの事を見た女どもが惚れちまわないか心配だ、なんてプロイセンは大真面目に思った。
「兄さん……その、そうじっと見つめないでくれないか」
じっと見られて恥ずかしくなり目をそらしたドイツも、しかし見つめられている分以外の胸の高鳴りを覚えていた。
普段家でも仕事でも適当に着崩したスタイルでいるプロイセンが、髪まで固めてはいないもののきちんとネクタイを締めてきめているのだ。
……ちょっとは、惚れ直すのも当然だろう。
心臓に静まれと命令しながらドイツは思う。
それに…胸に白いハンカチと共にある青い薔薇のコサージュを見て確信した。
あの上司は自分と兄に、互いの目の色の薔薇を交換して身に付けさせたのだろうと。
そう思ってしまってからは更に兄を直視出来なくなってしまった。
お互いの心情が妙なすれちがいを起こしているのを知ってか知らずか、机の上にいた黄色い小鳥が軽く飛翔、定位置であるプロイセンの頭上に収まる。
それを契機としプロイセンは弟に歩み寄った。
つまり、ドアの方へ向かって。
「そろそろ時間なんだろ。行こうぜ」
笑いかけられてドイツははっと我に返り、歩き出しながら兄に答えようとするが違和感に眉根を寄せた。
……手が。
「兄さん!手を離してくれ」
焦って抗議するも、我儘お兄様は聞く耳を持たず。
ドイツの側から緩く解こうとしても更に強い力で一本一本の指の抵抗を削ぐように握り込まれる。
「恥ずかしいだろう」
顔を赤らめドイツがそう言えば、プロイセンはケセセと笑って。
恐らく彼には恥ずかしいなんて感情が存在しないのだろう。
繋がれた手を少し持ち上げて。
プロイセンの強引な導きで、もう玄関が目の前だった。
「ずっと、会場まで繋いでこーぜ」
「なっ」
止めてくれ恥ずかしいなんて抗議がある前に言った。
「だって今日はそういう日だろうが。俺様とお前の、仲がいいのが一番だろ?」
他にもっとやりようがあるだろうが!決して人の少なくない道を手を繋いでなんて貴方に羞恥心というものは無いのかッ!
なんて思いが一瞬でドイツの脳内を駆け巡ったが、結局自分が何を言おうと口と屁理屈の達者な兄には敵わないと諦め。
本音を言えば気恥ずかしいと同時に嬉しいのもちょっぴりあって。
とにかく、目を不自然に反らしながらもドイツからも軽く手を握った。
左手と右手、互いに利き手を差し出した手の握り方だから、強く強く結び付いていられると昔言ったのはドイツ自身だったか。
きゅ、と握られた手にプロイセンは驚いて弟の顔を見、逸らされていることを知ると一人口角を上げて笑った。
二人歩いていく先は、記念式典の会場であるブランデンブルク門前。
本日2009年11月09日はベルリンの壁崩壊から20年目の記念日なのだ。

会場に到着すると何故か上司に怒られた。
ちゃんと十五分余裕見積もって来たろとプロイセンが口を尖らせれば、今の上司である女性は肩を竦めて見せる。
彼女曰く、気が気では無かったそうなのだ。
なんでもプログラムの一番に、『東西ドイツからの挨拶』が予定されているのだそうで。
それはつまり、プロイセンとドイツに国民や関係の深い国の上司・元上司の前で何か喋らせようとしていたということ。
当事者である彼ら二人が十五分前になっても来ない!と今丁度イライラ心配していたのだと。
そんな事を今初めて知った二人、特にドイツは焦って。
「ちょ、ちょっと待て!挨拶?俺達はただ貴女の傍に立ってればいいという話では無かったか!?」
こんなことになるのならとドイツの脳裏を過るは後悔。
前日か前々日に報せておいてくれればキチンと考えてきたのに、と考える彼はアドリブが苦手な性質だ。
答える彼女はあっけらかんとしたものだった。
「ドイツ、そんな御大層な演説ぶって欲しいわけじゃないわ。軽ーく一言挨拶してくれればいいのよ」
それにね、と彼女は隣に立つ彼の兄を見て。
「貴方が苦手でも、プロイセンは寧ろ得意でしょう」
その言葉に応えるようにピヨと声を上げた頭上の鳥に、プロイセンだけで無く彼女もドイツも笑みを零した。
プロイセンは下の方でドイツの手を握る力を少し強くして、上では安心しろと言うように笑いかけてやる。
「そういうこった。お前が嫌なら俺が先にいっちょ素晴らしい演説を聞かせてやっからよ!」
「…では…程々に頼む。素晴らし過ぎても俺が喋りにくいだろう」
そんな風に言葉を交わし少し表情を和らげた己の国と、彼にとって無くてはならない存在である兄とを見守る彼女は安心したように笑う。
弟にとって兄でもあり父のような存在でもある兄と、ベルリンの壁によって兄と別たれ憔悴しきっていた弟。
20年前の壁の崩壊。その時彼らはこの世の最高の幸せだと笑い、泣きながら抱擁を交わした。
1年後東が西に編入された事でどちらにも大きな影響があって、存在の基盤を無くした兄はあわや消滅という所まで行ったのだと国民は皆知っている。
そんな事件を越えて、今もこの仲良しの兄弟は一つ屋根の下楽しげに暮らして、共に仕事をしている。
未だ、東西間の格差や心の壁が残るが、
…二人の仲がとてもいいんだもの。
きっと大丈夫と。問題も抱えながら迎えた20周年の今だからこそ彼らの仲の良さを国民達皆に知ってもらいたいと、彼女は計画していたのだ。
とっくに兄弟がずっと手を繋いでいることに気付いていた彼女がドイツの顔を見て少し笑うと、ドイツは気恥ずかしげに目を伏せた。
その様子に兄の方と二人で笑いあって、じゃあ規定の時刻になったらまた呼びに来るわと挨拶をして兄弟と別れると彼女は彼女の仕事に帰った。

本日は誠におめでとうございます、なんて畏まって言った後に、なんてねと茶化して言ったのは白で纏めているフランスだった。
彼が近づいてきたのが分かると手を離そうとしたドイツだったが、残念ながらそれは未だ叶っていない。
「…お前達本当仲良しね。お兄さん、なんか感動の涙出て来ちゃった」
「お前は祝いに来たのかからかいに来たのかどっちだ」
今にも懐から拳銃を取り出しそうな威圧感でドイツが訊けば、やだなあとフランスは肩を竦めて見せる。
「祝ってるに決まってるじゃない。あ、お祝いのワイン送っといたから。うちの上司が珍しく奮発して高級品よ?多分今ごろ着いてるんじゃないかな」
そう言われればドイツとしても、むっとした顔のままではあるが礼を言うしかなかった。