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【腐向け】歓喜の日【普独】

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事実、この兄の悪友は今まできちんと自分達の幸せを祝福して来てくれたのだから。
プロイセンの方も素直に笑って礼を言う。
「おう、悪いな。早速今晩呑むわ。お前も呑みにくるか?」
「いやいやいやさすがに俺も…今晩一緒に呑んじゃうほどKYじゃないし」
遠慮しとくよとフランスが笑うのに、ドイツは悪いとは思いながらも安堵する自分に気付いた。
と、三人で会話しているともう一組の兄弟がやって来た。
良く目立つカールしたアホ毛の持ち主は
「ほぁー!ドイツもプロイセンもかっこいいねー!」
「ううう…上司が行くぞって言うから仕方なく来てやったぞジャガイモ野郎ー!」
南北イタリア兄弟だ。
彼らもやはり式典という点に配慮したものか、上品なスーツを纏っている。上等のブランドモノだ。
二人を認めると、プロイセンの顔が輝いた。
「イタリアちゃんとお兄様!」
「誰がお兄様だっ!お前の兄貴になった覚えねぇぞ!」
ロマーノがいつも通り言い返すが、やはりプロイセンはこの呼び方を改めることは無いのだろう。
何かぎゃいぎゃいやっている兄同士を放っておいて弟同士が向き合っていた。
イタリアはまじまじとドイツの姿を上から下まで見て。
「うんうん、やっぱりドイツかっこいー!そのコサージュも素敵だね」
上司の人が選んだの?と訊かれて頷くと、イタリアはやっぱりと笑った。
「ドイツは自分で『薔薇』を選びそうには無いもんね」
「ああ、それは…そうだな」
どちらかというと花も色ももっと大人しい物を好むのだ。
こんな派手な物を身に着けるのは確かに珍しいかもなと自分でも思考した。
と、イタリアがドイツを見上げて来た。
「20周年おめでとう、ドイツ」
簡単なそれだけの言葉だったが、ドイツはそれが嬉しく破顔した。
「ああ、ありがとう」
「長かった?20年」
「分断の20年に比べれば…一瞬だった」
やっぱりね、とイタリアはふにゃりと笑って見せる。
「楽しいことの方は、早く過ぎてくよね。…ドイツ、」
「なんだ?」
「「今、幸せ?」」
二つの声が重なった。
被さってきた声にはっとしてドイツと、ロマーノと何か言い争っていたプロイセンとが目をそちらの方向へ向け、イタリア兄弟は早くもドイツとプロイセンの影に隠れていた。
歩み寄ってくるのは、一切の色を殺した黒の色彩に、真っ白な長いマフラーを巻いた冬の国。
無邪気な笑みを浮かべた大柄の男だ。
「…ロシア」
「こんにちは。ドイツ君、プロイセン君。…新旧の上司と一緒に僕も招かれたんだ」
ぎゅ、と無意識に、ドイツがプロイセンの手を握る力が強くなった。
気付くとすぐに、プロイセンも強く握って応えてやる。
大丈夫だと。
「新旧…って、あいつが?」
プロイセンが問うと、ロシアは笑いを消した。凍りつくような目に輝きを変えて。
「うん…あの方だよ」
そして一息あって首を緩く振り、止めたと言うようにしてまた無邪気な笑みを浮かべた。
「おめでとう、二人とも。僕は今日という日、…祝う権利なんて無いと知りながら、来たよ」
ごめんねと謝ろうとしたロシアの言葉は、眼前に差し出されたプロイセンの手に遮られた。
ロシアがびっくりしている内に言葉が続いた。にやりとした、彼らしい不敵な笑みがある。
「もう『ごめん』は無しだっつったはずだ、ロシア。俺達もお前も…皆が悪かったんだって。『平和な世界を新しく歩き始める為、等しく罪を分け背負おう』って、アメリカが言ったんだったろ」
な?とプロイセンはドイツにも笑いかけた。
それでドイツもロシアも、互いに苦笑にも似た笑みを交わす。
「…そう、だったね」
「ああ、そうだった」
ドイツは感謝を表すように一度兄の顔を見ると、今度はロシアと正対した。
「…ただ式典を見て帰ることも出来たのに…わざわざこうして挨拶に来てくれてありがとう、ロシア。これからも色々と…お前に助けてもらう事もあるだろうが…その時は宜しく頼む」
「…うん」
丁度その時、各国の上司が己の国を迎えに来た。
ドイツとプロイセンの兄弟を迎えに来た彼女は、兄弟を式典会場、壇上へと導いた。

それは、式典に出席していない日本や中国の家へもTV中継を介して届いていた。
おや、と日本は手を繋ぎ壇上に立った二人に目を輝かせ。
「い、いいですねぇぇ!お二人ともとても男前です!礼服テラモエス!!ああもう私も個人的に行けばよかったですかね!?これは萌えパワーで原稿が進みますよ」
ワイヤレスマイクを渡され、あーあー、と何度か声を出した後プロイセンは始める。
まずは左手を軽く上げて、恥ずかしがる弟も気にせず、しっかりと繋がれた手を国民や各国及びその上司に示した。
『紹介のあった通り、俺とドイツとでそれぞれ一言挨拶させてもらう』

最近のガキとか若者には俺のことよく知らねぇ奴もいるからな、とプロイセンは思い。
「えー、知ってるやつ知らないやついると思うが、俺はプロイセンと呼ばれてる。お前達の国、ドイツの兄だ。生まれた時には聖マリア修道会、それからドイツ騎士団、国を得てプロイセン、ドイツ帝国を成立させて…戦後は東ドイツと、名前を何度も変えてきた」
少し困ったように笑って。
「19年前の再統一以降は、東ドイツでもなくなったんだ。…俺は、自分でも今の俺が何なのかは…はっきりと分からない。ベルリンなのかもしれねぇし、ブランデンブルクなのかもしれねぇし…でもまあ、昔からの倣いでプロイセンて呼ばれ続けてるし俺もそれでいい」
思い出した。分断の中過ごした20年間を。
その時を思えば、今どんなに仕事が忙しくても、どんなに辛い事があっても、
…ヴェストが隣にいるんだもんな。
幸せ過ぎるぜーと内心で思い。
「さて。今年で、東西を別った壁が無くなって20年だ。最近は壁を知らない世代も増えてきて、どう壁の事を伝えていくかが問われているな」
歓喜の日を思い出す。聞いても暫くは信じられなかった、壁の崩壊と、実際見に行ったその時の感動。
壊れた壁の向こう、弟を見つけた時には涙が出るほど嬉しくて嬉しくて。
「だが、どうやらここには年配の方が多いようだな。歓喜の中での壁の崩壊を、まだ覚えているか。…俺は覚えてる。あの時はただただ嬉しかった。ずっと離れ離れだった大切な弟と、もう一度会えて、抱き締めることが出来て」
見渡した。大きく頷き、涙を浮かべている者がいる。
彼らは皆思い出していた。歓喜の時、初めは歩み寄り、やがて駆け寄り、抱き合った二人の姿を。
声を上げて泣いた自分達の国と、彼を支えるように静かに涙を流しながら、彼の背を擦っていた兄の姿を。
プロイセンはその人の群れの中こちらを見ていたロシアに気付き、頷いて笑ってやった。大丈夫だと。
「みんな、そうだったよな。物凄く嬉しかったよな。逢えなかった家族と逢うことが出来て、行きたかった向こう側へ行けて。でも…その後、突然の統一の後…沢山の問題も起こった。東西の格差とか、心の中の壁とかな」
一度切って、また続けた。
誰よりも、『国』が笑っているならば…皆は安心できるのだと教えてくれた己の上司を思い出しながら。
彼に呼びかけた。
…フリッツ…親爺…、どうか俺達を、ヴェストを、宜しくお願いします。
笑った。