黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 21
イワンとロビンは駆け寄った。
「大丈夫か、ジェラルド?」
ロビンは屈み、ジェラルドの背中に手を回す。
「……くっ! 魔法は、なんとかなった……。だけど、肋が……」
不意に、不気味な笑い声がした。
「ふふ……、そうか、なるほどね……」 シレーネは不適な笑みを浮かべている。まるで、何かを看破したかのようである。
「マインボール!」
笑っていたかと思えば、魔法で光球を撃ってきた。
ジェラルドが負傷したことにより、魔法が通用するようになると読み、まとめてロビン達を吹き飛ばそうとしたのか。
しかし、ロビンとイワンの予想は外れた。
「ぐああっ!」
光球は小さく、ジェラルドの顔面を打つだけであった。しかし、魔法でできた光球はジェラルドの前で無効化されるが、衝撃はしっかりジェラルドに伝わっていた。
ジェラルドは顔に、鉄球でもぶつけられたかのような衝撃を受けた。
衝撃により力を失い、ジェラルドは地に伏してしまう。
「ジェラルド!」
「どうして、ジェラルドに魔法は効かないんじゃ……!?」
「アハハハ……! マインボール! マインボール!」
シレーネは笑い声を上げながら、執拗にジェラルドに光球を放ち続けた。光球はやはり無効化されるが、ジェラルドはダメージを受ける。
「くっ、そう……」
とうとう、ジェラルドは気絶してしまった。
「ジェラルド!」
「アハハハ……! どうやら力尽きたみたいねぇ」
魔法や呪いの類いが一切通用しないはずのジェラルドが、シレーネの魔法によって倒されてしまった。ロビン達はそう考えていた。
「ジェラルド、どうして? 貴様、一体何をした!?」
ロビンは問い詰めた。
「うふふ……、別に。あたしは特別なことなんかしてないわよ?」
シレーネは惚けているように笑うだけである。
「ふざけるな、答えろ!」
ジェラルドをぼろぼろになるまで攻撃され、ロビンは怒り心頭であった。
「仕方ないわね……、何も知らずに死んでいくのはちょっとかわいそうだし、教えたげるわ」
シレーネは、ぐったりするジェラルドを指差す。
「その子には、どういうわけか魔法が効かない。それはとっくにご存知よね? でも、その子にできるのは、魔法を無力化するだけ。あたしのまやかしに引っ掛からなかったり、最大威力のマインボールだって受け止められる……」
シレーネの話は要領を得ず、ロビンの理解には及ばなかった。
「何を言ってるんだ!?」
シレーネはふうっ、とため息をつく。
「……ここまで言っても分からないのかしら。少し頭の血を下げて考えてごらんなさい。もう一度言うわ。彼にできるのは、魔法の無力化だけ」
ロビンは最早馬鹿にされているだけに感じ始めていた。
「ジェラルドにできるのは、無力化……。はっ、まさか!?」
イワンは何かをひらめいた。
「イワン、何か分かったのか?」
「ロビン、シレーネの言うことを、よく考えてみてください。奴は、何度も言っていました。ジェラルドにできることを」
「奴の、言葉……?」
シレーネが繰り返し言っていたこと、それはジェラルドにできるのは、魔法を無効にすることである。彼女は、この事実を妙なまでに強調していた。
考える内に、ロビンはさらに謎の深みにはまっていってしまったが、突然ある場面を思い出した。
ジェラルドは、シレーネの魔法は悉く無にしてきたが、エナジーによる攻撃はしっかり食らっていた。同様に、物理的干渉も同じなのではないか。
「そうか、分かったぞ」
ロビンはついに、答えにたどり着いた。
「ジェラルドはエナジーでダメージを受けていたから、十分な守りの体勢を取れなかった。だから、魔法は防げても、それが持つ威力は消せなかったんだ!」
不意に、パチパチと手を叩く音がした。
「ご名答、これで心置きなく……」
シレーネは拍手する手を止め、ロビン達に掌を向けた。
「死ねるわよね!?」
シレーネは光球を放った。
『エレク・サークル!』
イワンは電撃の光輪を作り出し、それを盾に変化させた。
シレーネの魔法球は、イワンの電撃の盾で相殺された。
「ちっ、小癪な!」
「イワン……!」
「ロビン、ジェラルドを連れて少し離れててください。ボク達は、ジェラルドに頼りすぎていたようです。ここから先は、ボクが頑張るところです」
イワンは振り向くことなく言う。
「待て、だったらオレも……!」
「ロビン」
イワンは振り返った。そこにいたのは、昔のような気弱なイワンではない。
風のエレメンタルを司る者の象徴とも言える、薄紫の瞳をしっかりと開き、その表情は怒りに満ちていた。
「ロビンまで戦ったら、誰がジェラルドの面倒を見るのですか? それに、ボクはどうしてもシレーネを許せない。ギアナ村をめちゃくちゃにした上、姉さんも辛い目に遭わせ、さらにジェラルドまで痛め付けて……。シレーネだけは、ボク自身の手で倒さなければ気が済まない……。どうか、分かってください……」
考えれば、シレーネはイワンにとって、一番の仇敵であった。本当の故郷ともいえるギアナ村を滅ぼされ、あまつさえ唯一の肉親を死の危機に追いやられたのだ。シレーネに執着するのも無理はなかった。
「分かったよ、イワン」
ロビンはジェラルドを担ぎ上げ、踵を返した。
「……絶対に勝ってくれよ」
戦いをイワンに任せ、ロビンは下がった。
「……ありがとう、ロビン……」
イワンは、ロビンが下がったのを確認すると、視線をシレーネに戻した。
「まさかあんた一人であたしと戦うつもり? ……アハハハ! 笑わせてくれるわね!」
シレーネは大声で笑い飛ばす。
「そうやって笑っていられるのも今のうちですよ。お前はボクが必ず倒す!」
「ふん、どのみちあんた達を見逃すつもりなんかないわ! 全員まとめてここで死んでもらうわよ!」
ふと、イワンはシレーネに向けて指を指した。
『ブレイン・コネクト!』
イワンの指先から光線が飛び、シレーネの思考がイワンに流れ込んでくる。
「……全て、見えますよ」
「ふん、面白いじゃない。ならあたしの魔法の真髄、見切れるものならやってみなさい!」
「お覚悟を、スターマジシャン……!」
イワンとシレーネの激しい戦いが、今始まった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 21 作家名:綾田宗