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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 21

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第75章 怒れる紫電


 暗い鍾乳洞の天井に、いくつもの光が瞬いていた。
 その様はまるで、洞窟を夜空に置き換えた、星空が広がっているかのようである。
 しかし、星のような、青い光を放つ物体は星などではない。地上に立つものに滅びを与える、破滅の象徴であった。
 青く輝く星、いや、群青に金の模様を持つボールは、今まさに地に立つ者を破壊せんとしていた。
『サウザンド・アイスミサイル!』
 全てのボールを操る主が、声高に詠唱した。瞬間、星のように瞬いていた、空間に浮遊するボールが、全てギラリと光り、その中心部から氷柱を生み出した。
 そして、千を超えるほどの氷柱は、一斉に目標に向けて発射される。
 その目標は、電気の光輪を身に纏い、迫り来る氷柱の群れに心乱すことなく、静かに目を閉じていた。
 しかし次の瞬間、数多のボールの目標たる者は、目をかっ、と開き、光輪をドーム状に広げ、更にエナジーを発動する。
『ハイ・レジスト!』
 電気によって強化された防御壁により、幾千の氷柱は弾かれていった。
 氷柱による攻撃が終わると、バリアを解き、身に纏う電気を縦横無尽に放った。
 針のようになった電撃によって、空間のボールは次々に指し貫かれ、地に落ちていく。
 星の使い手、シレーネと、青き雷の使い手、イワンの戦いは壮絶を極めていた。
 シレーネは宙を自在に飛び回り、あちこちに群青のボールを設置し、幾千にも及ぶ氷柱でイワンを貫かんとしていた。
 対するイワンは、『ブレイン・コネクト』を通じて脳裏に流れ込んでくる、シレーネの思考を正確に読み、彼女の攻撃を防いでいた。
 今、イワンの脳裏に、後方、斜めよりエナジー発動の信号が伝わった。
「そこっ!」
 イワンは、エナジーの信号が変わる前に、電撃を切っ先から一直線に撃ち出しそ。
「ふわっ!?」
 シレーネの驚く声がしたが、すんでのところで避けたらしい。手応えは一切ない。
「……あなたの思考は、全部読めています。どれほど宙を飛び回りながら、ボクを撹乱しようと無駄ですよ」
 上空に浮遊するシレーネとイワンの視線が交わる。その時、イワンにシレーネの考えも伝わった。
「まさか本当に読めているのかしら。さんざん色々と防がれていながら、まだ疑っていたのですか? いい加減認めてはどうです?」
 イワンは、シレーネの考えを大声で読み上げた。イワンは更に、流れてきた思考を、まるでシレーネに突き付けるように読み上げる。
「人の心を読むなんて狡い、ですか。ですが、ボク達がここへたどり着く前に、あなたがやってきた事を考えたら、あなたの方が狡いと思いますがね」
「ふん、どうやらあたしの考えは本当に読めているようね。随分と悪趣味なエナジーね!」
 シレーネは喋りながら、氷柱をイワンに向けて投げつけた。イワンは難なくそれを弾き、同時に電撃を放出する。
「ちっ!」
 シレーネは電撃をかわす。しかし、当たったところで、掠り傷を与えるのが関の山である。
 事実、イワンはこのような攻撃でシレーネを倒そうなどと思っていない。
 イワンの考えていること、それはシレーネに攻撃の起点を作らせず、搦め手で自らの起点を作ることである。
 思考を読むことによって、相手の技の起こりを潰し、それ以上攻撃を続けさせないのである。
 先程は様子見をすることに集中してしまい、シレーネに起点を与えてしまった。
 幸いにも、その後のシレーネの動きを最小限に止めることができ、幾千もの氷柱の発射を受けきることができた。
 これがジェラルドを瀕死に追いやった、赤いボール、アングリーボールほどの破壊力がなかったのも幸いした。
 魔力を無効化できるジェラルドが、もう皆の盾となれなくなってしまった以上、あれほどの威力の魔法を使われるわけには、絶対にいかない。
 故にイワンは慎重にシレーネの思考を読み、起点となりそうな攻撃は、出だしから潰す戦法を取っていたのである。
 しかし、これではイワンの方も有効な攻撃を仕掛けられない。
 今度は、敵の起点化を防ぐことばかりに集中してしまい、防戦一方となって、互いにエナジーを浪費するだけの戦いとなっている。
『ミスティック・コール!』
 シレーネは魔法のボールを召喚する。何を、どれほど召喚するのか、全てイワンに伝わっていた。
「アングリーボールが三つ、リフレッシュボールが二つ……」
 イワンが呟くと、シレーネの左手の空間から、その通りのものが出現した。
 更に情報がイワンに届く。どうやら、シレーネが一度に召喚できるボールの数は、五つが限界のようだった。
 アングリーボールを三つ出したところを見て、イワンは危険を感じた。ジェラルドを地に伏したあの一撃を、再び打ち出そうというのか。
「そうはさせませんよ! 『スパークプラズマ!』」
 イワンはシレーネが動くより前に、ボールを破壊しようと、シレーネの周りに落雷を引き起こした。
 シレーネは、雷を当てられる前に空間移動をしたことで、落雷に巻き込まれることはなかったが、イワンの電撃はアングリーボール三つを破壊するのに成功した。
『ミスティック・コール!』
 イワンの後ろから、またもやシレーネの詠唱が聞こえた。
 イワンが振り向くより先に、シレーネの意思が届く。リフレッシュボールが二つ、アングリーボールが一つ、そしてサンダーボールが一つであった。
 イワンが振り向くと、アングリーボールを先頭に、サンダーボール二つが追従するように迫っていた。
 サンダーボールは、放電しようとしているのか、ビリビリと帯電している。電気を起爆剤として、アングリーボールを炸裂させようというのか。
「くっ、『レイデストラクト!』」
 イワンは前方に、電流の渦巻く磁気嵐を展開した。
 アングリーボールが、磁気嵐の電気に触れると、やはり爆発した。爆発は磁気嵐に相殺される。
 後ろを追従していたサンダーボールは、アングリーボールの自爆に巻き込まれ、塵となり消えていった。
『ミスティック・コール!』
 シレーネは、自らの策らしきものを、二度もくじかれているというのに、まだボールを召喚し続けていた。
「何度も何をしたところで無駄ですよ!」
 イワンには、シレーネの思考が全て読めている。どのボールが来たところで、策を看破し、打ち破る自信があったのだ。
 イワンは、その自信がいつの間にか慢心に変わっているのに、その時気付いていなかった。
『ミスティック・コール!』
 シレーネの詠唱と同時に、イワンの脳裏にある言葉が流れ込んだ。
ーーチェックメイト……!ーー
 それは、王を生かすための打つ手のなくなった時、相手のプレイヤーに対して言う言葉。
「何がチェックメイト……!?」
 ですか、とイワンは語尾を弱めてしまう。知らぬ間にイワンは、いや、イワン達はシレーネの術中にはまっていたことに気が付いたのだ。
 最後にシレーネが召喚したボールは、全てリフレッシュボールであった。
 そのボールは、その名からはなかなか想像がつかないが、回復の他に冷気を操ることができる。
 これまでシレーネは、攻撃すると見せかけ、ボールを攻撃に特化したものに定めていた。しかし、思えばこの時点で気が付くべきであった。