アザレアの亡霊
その背中から伸びた赤黒い蝙蝠のようなおどろおどろしい羽が広がる様を見たクレアは、まるで天使のようだ、と独特の感性で感じていた。
まるで神の尖兵の如くユナを貫く姿に胸が熱く込み上げるも、立っていられる気力がない。
「は…ぁ…っ」
膝をついて喉につまるような感覚を吐き出せば、地面にクレアの吐血がボタタッと落ち、貫かれた傷が著しく臓器を傷つけている事を物語っていた。傷口が熱くも、身体は寒気を感じて震えだし、それでも涙に滲む顔を上げてた。
「あ…ざ…れ……ぁ…」
途切れ途切れに彼の名を呼びぶ。その声も次第に小さくなっていく。
「クレア―クレア!目を開けろ―クレア―!」
ユナを駆逐したアザレアは、後ろを振り返りクレアを抱きしめた。
背中から伸びる羽はやがてまるで枝のように無限に伸びていく。それは、アザレア中に伸びる『ウージの眼』と酷似した形状であった。抱き締めるアザレアの体温が、身体に染み入るようだった。
ヒュウヒュウと、明らかに異常な呼吸音を口から漏らし、クレアは震える手でアザレアの頬を撫でる。
「……ぁ…」
何かを言おうと開いた唇は、上手く言葉を吐き出せない。大丈夫、と安心させてあげたいのに、それすら叶わず、薄れる意識の中、クレアは静かに瞳を閉じた。
「クレア…いやだ…いやだああああああああああああああああああああああっ!」
バビロンに生えた『ウージの眼』が夜空を多い、全てを隠した。
そして、一瞬の閃光の後、大都市アザレアはこの星から姿を消した。
【END】