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雨降り、師走、大掃除

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 年末、師走が近づいて。

 大掃除をしましょう。と、天の声が降った。
「ぬしー!」
 久しぶりの来訪に黒耀がぴょんぴょんと跳ねて、姿なき空に腕を降る。
「とのことですがー、どうしましょ」
 琥珀がのほほんとそう問うと、案の定、ヤンキー座りで気だるげに蛇紋が眉根を寄せた。
「めんどくせえ……」
「まあ大掃除なんてやったことなかったですからねー。今まで」
「久しぶりに口開いたと思ったら余計な事言ってきやがって……」
 チッと舌打ちし、空をにらむ。返事はない。
「だが、確かに必要かもしれないな」
 そう言って石榴が蔵の戸をゆっくりと開けた。一同の視線が薄暗い蔵の中に集まる。
 決して狭くはないgum島の蔵だが、三代目の島主黒耀になってから既に三年が経過しており、その間に増えた品物の量は膨大だった。最初と比べ同居人も増えており、 たとえその本人は小さくても、例えば水槽や柵だとかがスペースをとっていて、正直、狭い。
 人格があれどもアイテムというカテゴリに変わりないムシクイーズ達も待機場所として使うそこは同様で、個々に部屋があるわけでもなく、蔵にいるときは皆で雑魚寝状態だった。
「何でもかんでもとっとくから増えちまうんだよ」
 言って、蛇紋が手前にあったバナナの皮を奥へ放る。立てかけられている行き先看板にぶつかり、揺れたそれがからからと音を立てた。
「いい加減エコノミー症候群になってもおかしくないですからねえ」
 言いつついつもちゃっかり一人で十分なスペースを確保している琥珀に、石榴が何か言いたげに視線を向けたが、
にっこりとなんですか? と微笑まれ、結局沈黙した。
「まあ今ちょうど特にイベントもないですし、師走に向けて早めにやっちゃいましょう」
「おー!」
 腕を振り上げてはしゃぐ黒耀の頭を蛇紋が軽く小突く。
「……お前、片づけできるかぁ? 散らかすしかやったことねーだろ。掃除だぞ、掃除」
 黒耀が首をかしげ、問う。
「そーじ! ……/storm?」
「やったら殴る。本っ気で殴る」
「ブー!」
 そんなわけで、おなじみの掛け合いをしつつ急遽早めの年末大掃除は決行された。のだが……。
「……こんなもんいつ買ったんだ」
 苔のついた小岩を拾いつつ、蛇紋が呟く。
「さっきもなかったっけ? これ」
「何言ってんですか。あっちはBですよ。こっちはA」
「知るかあぁい!」
 数年の間に積み重なったアイテムは100を越えている。中にはムシクイ達が把握し切れていないものもあり、整理しつつ片付けをするにはだいぶ時間がかかるように思えた。
 とりあえず全部出して分けていこう、と決めたのだが、山積みのアイテムたちに既に諦めの空気が流れ始めていた。
「島はなんだかんだ言っても枠が決まってますからねえー。でもアイテムは無限。これは思ってたよりも重労働だなあ。ああ、お茶にしたい」
 今だと月が変われば追加で買える品もありますしねー。と、ポプリをミニチュアカヌーの中にに置きつつ琥珀が呟く。
「ざっと種類別に分けてくところから始めないとですねえ」
「おい、花岡と灰は?」
 ふと気づいて蛇紋が周りを見渡すが、雨の日コンビは影も見当たらない。
「ハナさんは締め切り間際で忙しいそうです。灰さんは雨が降っていないなら出たくないって」
「逃げやがったな……」
 うめく蛇紋に、琥珀が苦笑する。
「まあ、雨が降らないとこのサイズですから、どっちみちお手伝いしてもらうのは無理かと」
「大掃除で雨降るとか無理だろ。ないだろ」
「ですよねえ」
「琥珀、こっちはとりあえず分けた」
「づけたー!」
 背景と前景を担当していた石榴と黒耀が、こちらに歩いてくる。石榴の肩にはまとめられたラグマットなどが抱えられていて、彼らしく几帳面に綺麗に巻かれていた。琥珀が一度手を止め二人へ向き直る。
「お疲れ様です。こっちはまだまだ掛かりそうですよー。もう植物だけでも何種類あるのやらって感じで」
「そうか。……そういえば前景にも植物がいくつかある。あれはどうする?」
「露草でしたっけ?」
 琥珀が問うと、石榴が軽く頷いた。
「そう、あと露枝垂れだ」
「よく覚えてんなぁ……」
 二人の会話に、ラジオを抱え蛇紋が感心する。
「俺全然覚えてねえ。もーいいじゃん、とりあえず見ていらねーもん捨てようぜ」
 そんな乱暴な、と琥珀が苦笑し、鉢に植えてある水風船草を壊さないようにそっと移動させる。
「あ、僕ガーデニングとか好きなんでー。蛇紋だってヤミーの新商品とかは詳しいじゃないですか」
「ヤミーね。……あ、そういやヤミー商品はないんだっけか」
 がさりと今だ未整理の山をあさる。クローバーが揺れた。
「ヤミーはみるだけー!」
「ま、お値段もヤミーだからな」
 なぜだか楽しげに笑う黒耀に蛇紋が応えを返しつつ、ん? と首をかしげた。
「チビ、お前後ろの手に何隠してる?」
 ニヤニヤ。牙の見えるブラックドッグの特有の笑い方で一瞬間をおいて、黒耀が手にしていたものを掲げる。
「いづくあめ!」
 一瞬ふわりと空間が光り、途端、パシャパシャと雨粒が落ちてきた。
「いつの間にレイアウトに……」
 瞬く琥珀に、石榴が困ったように頬を掻く。
「先程見つけたらしくて。後にした方がいいと言ったんだが……」
「てめええええ片付けてるっつってんだろうがああ!!」
 案の定蛇紋がキレぎみに叫び、その耳をぎゅううと引っ張った。
「BUUUUUUUU!!」
 不満の声を上げるが、しずく雨は手放さずに、黒耀がその脛を蹴る。
「でっ……てめえぇコラ、それよこせ! 捨てちゃる!」
「やーーーー!」
 雨音の中始まった追いかけっこの余波で散らされていくアイテムたちに、やれやれと琥珀が苦笑して石榴を見た。
「せっかく片付けたのにー」
「……手伝う。まあ、夜までには終わるだろう」
「とりあえず雨がやまないとですけどねー」
 ざあざあぶりでないだけマシだが、こればっかりはレイアウト変更のキーを持つ黒耀の気分を待つしかない。
「つ、か、まえたああぁっ! おら! 観念しろこのチビ!」
 大人気なく全力でもって鬼を遂行した蛇紋が、黒耀のフードを引っつかみぶらりと照る照る坊主のように吊り上げた。
「お前に片付ける気がねえんなら話は変わるぞ、チビ」
 そのまま視線の位置まで持ち上げ、言い聞かせるように宣告する。
「いらねーもん全部処分だ。そんですっきりするだろ。大体こんなに溜め込んでるのがだめなんだ」
「蛇紋、それはちょっと……」
 言いかけた琥珀を、にっとわらって黒耀が止めた。
「れいん」
「?」
「いっつぁれいん、れいん、れいん♪ 知ってる? きらのうた」
「……ああ! KI★LAさんの歌でしたっけ。懐かしいなあ、前にラジオで流れてましたよね」
 少し考えてから、パチンと手を鳴らし琥珀が微笑む。ラジオと聞いて横で石榴が少し身体をこわばらせた。
「ごはんのあと、ざあざあって。してもいいってじゃもがいったよ?」
「いったいいつの話を……」