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GILIV-LT01. Abandoned ground

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民と禍、双方に多大な被害を出した「三禍の戦い」から数ヶ月。
 荒廃し全域が404地区となったserver1を抜け中央区へと向かう、四人の小さな旅人達の物語。



 大きな尾を抱え、アンバーは木の洞の中で必死に息を殺していた。
近くで地響きが聞こえ、思わず身体をこわばらせる。探しているのだ、自分を。
 大蜘蛛の禍は、他の禍と比べて鼻は利かない。そのまま通り過ぎてくれという必死の祈りもむなしく、
まるでわかっているかのように、すぐそばでぴたりと動きが止まる。
「……っ」
 みしみしと、隣で何かがきしむ音。程なくしてぐしゃりと歪む音と共に、
何かがアンバーが隠れる木へと叩きつけられた。
「わああああっ」
 衝撃に洞から飛ばされ、向かいの木まで吹き飛ばされる。
「痛……」
 目を開けると、闇があった。
「あ……あ、」
 一瞬停止した思考が、それを化け物の口の中と認識する頃には、牙はもう閉じ始めていた。
恐怖に声も出ない。
目を閉じることも出来ず、死神の鎌が振り下ろされる。その瞬間、
「/storm! 竜の風、悪しき者を捕らえよ!」
「うわああっ」
 響く声と共に突風が巻き上がり、大蜘蛛の禍と共にアンバーは宙へと吹き飛ばされた。
木に叩きつけられる寸前、何者かが間に割って入り、その小さな体を抱きとめる。僅かに衝撃。
「大丈夫か? ケガは?」
 目を開けると、若い青年の姿があった。オレンジがかった緋色の髪と眼。
顔と腕に部族の文様を描いている。その色も緋だ。
青年がアンバーの腕を取る。肘から手首あたりまでばっさりと切れて血が流れ出していた。
「ユニー! 頼む!」
 アンバーを近くの木へ寄りかからせ、青年がそう呼ぶと、青年の左肩あたりに
ひょこりと小さな白い生き物が顔を出した。
ムラサキアゲハの飾りをつけた白い髪、白い肌。白目のほとんどない大きな青い瞳が、こちらを見る。
シロの守耶だ。
守耶自体は今までにも何度か見たことがあったが、こんなに小さなタイプを見るのは初めてだった。
「ユニ、たのまれたぞ! まかせろ! ジャウロ!」
 かわいらしい声でそう言うと、ユニーと呼ばれた守耶の少女はぴょんとアンバーの方へと飛んできた。
見届けて、ジャウロと呼ばれた青年が立ち上がる。
「ああ、任せた。俺はちょっと、向こうの加勢に行ってくる」
「はやくな!」
「うん。出来るだけそうするよ」
 言って、禍をにらむ。
 気づくと、彼ら以外にも二人、宙に浮かぶ禍を囲み剣を構えていた。
 細身の剣を構え、フードを目深にかぶった黒髪の牙族の青年と、
大剣を持ちゴーグルをつけた赤髪の守耶の少年。
「気をつけろ! 嵐の効果が切れたぞ!!」
 黒髪の青年が叫び、瞬間、地面に地響きを立てて落ちた禍の口から、四方へと糸が伸びる。
鋼鉄のように地面へ突き刺さるそれを避け、黒髪の青年が横の守耶と一瞬目を合わせ、左右に分かれる。
「こっちだ! もっとよく狙え、この化け物!」
 黒髪の青年が叫び、挑発するように大きく剣を凪ぐ。大蜘蛛の身体が向きを変え、青年へと突進してゆく。
このままでは正面から攻撃を受ける。だが、青年は逃げる様子もなく、禍を真っ直ぐ見たまま、叫んだ。
「セキ!」
「了解」
 短い返事。完全に射程から外れた位置から、赤髪の守耶が大蜘蛛の無防備の脇腹へ大剣を突き立てる。
突進の勢いを止め痛みに暴れる禍から離れ、セキと呼ばれた守耶が黒髪の青年へと顔を向けた。
「お嬢! 今です!」
「全てを砕く雷鳴よ、 響け!! /thunder!!」
 一瞬全てが白く染まり、天から一筋稲妻が降る。
先ほどの大剣が避雷針になったらしい。真っ直ぐに禍を直撃し、焦げた匂いが辺りを包んだ。
「……死んだか?」
「いや、まだです!」
 瞬間、大きく大蜘蛛の腕が眼前の黒髪の青年へと振り上げられる。青年が剣を構えた。
だが、口から吐かれた糸が剣を捉え、バランスが崩れる。
大樹の枝ほどの太い節足が青年の頭上に真っ直ぐ下ろされた。が、
「……ジャウロ、お前はいつもあと一秒が遅い」
「ごめん、ノア。でも、間に合っただろ?」
 いつの間にか大蜘蛛の背に、ジャウロが立っていた。
切れ味の鈍いはずの石剣がその足元に深く突き刺さっており、禍の体液で腐食が始まったらしいそれが、
どす黒く色を変えてゆく。
「瘴気が濃い。……こいつも三禍の魔物か」
 絡まった糸を引きちぎり、フードの青年が剣で事切れた大蜘蛛の眼を突く。どろりと液体が流れ出し、
地面につくと、じゅうじゅうと嫌な音を立てて泡立った。
「ふん、僕の雷に耐えるなんて、なかなかやるじゃないか」
 パラリと黒髪の青年のフードに亀裂が走り、黒い瞳と素顔が晒される。
 フードの下から現れたのは、まだ幼さの残る顔立ちの少女だった。
「女……?!」
 アンバーが思わず呟くと、膝の上のユニーが付け足すように「おう、ノアはぼうりょくおんなだぞ」と言った。
小さな手にぱしんと腕を叩かれ、アンバーは思わず顔をしかめ、それから目を見開く。
「傷が……」
 割かれていた腕が綺麗に治っていた。全身のどこにも痛みもない。
「ユニがんばったぞ! ほめろ! おっきいシッポ!!」
 えへんと腰に手を当てて胸を張るユニーに、ぽかんと口を開けていると、
白い小さな身体がひょいと抱え上げられる。
「ありがとう、ユニー。偉いぞ」
 肩に乗せ、ジャウロがユニーの頭をなでる。大きな碧眼が嬉しそうに細められた。
「うん! ユニえらい、えらい! 」
「あ、ありがとう……」
「ほら、ユニー、ありがとうだって」
「おう! きにするな! なおってよかったな!! おっきいシッポ!」
 ご機嫌のユニーに微笑んで、ジャウロがこちらに向き直り、手を差し伸べた。
「立てるか? 「禍」は受けてなかったみたいだな。よかった」
「あ、ああ……」
 手を借りて立ち上がり、ぱんぱんと服のほこりを払う。 上着が血で汚れていた。
改めて自分が先ほどまで置かれていた位置にぞっとし、アンバーは息を吐く。それから四人に向き直った。
「助けてくれて、ありがとう。それで……あんた達、何者だ?」


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「兄ちゃんっ!」
 扉を開けた途端、小さな影がアンバーの懐に飛び込んできた。
「オーカー、ただいま」 
 苦笑しながらアンバーがそのくせっ毛の頭をなでる。
「遅いから心配してたんだ! あれ? ……お客さん?」
 さっとアンバーの後ろに隠れ、オーカーがジャウロたちを見た。目が合ったユニーが、にっこりと笑う。
「帰る途中で、禍に出くわしてさ。でも大丈夫、この人たちが助けてくれたんだ」
「禍に!? ケガはなかったの? 大丈夫!?」
「ケガはユニがなおした! もーぜんぜんへーきなんだぞ!」
「わっ……」
 ぴょんとジャウロの肩から飛び降り、ユニーがオーカーへ飛びついた。
「あっ、こら、ユニー!」
 慌てて手を伸ばすジャウロを後ろに、ユニーがはしゃぐ。
「エライだろ! ユニーすごい? すごい?」
「あのチビは全く……」
 ノアがやれやれと頭を掻く。セキは我関せずと目を閉じた。
「君が兄ちゃんを治してくれたの? あ、ありがとう!」
 目を白黒させながら、オーカーが小さな守耶の少女を抱き上げる。